こんなにも上手くいくとは思わなかった。事前予約の枚数からただならぬ気配を放ってはいたが、新たなマイルストーンまで刻むとは予想できなかった。日本のアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(以下、『鬼滅の刃』)のことだ。
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韓国で8月22日に公開された『鬼滅の刃』は、まるで“ゾンビ”のような興行推移を見せ、今年の興行1位を走っていた韓国映画『ゾンビ娘』(原題)を引きずり下ろし、11月22日に韓国国内の年間興行収入トップの座をつかんだ。
12月には“興行の神”ジェームズ・キャメロン監督による作品『アバター3』(邦題「アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』)の公開が控えているが、『鬼滅の刃』を覆すことは難しそうだ。大きな番狂わせがなければ、2025年は日本のアニメ映画が韓国国内の年間興行収入の最上位に立った初の年として記録される見通しだ。
日本アニメの存在感は相当なものだ。それも『鬼滅の刃』の一作品だけが牽引したわけではない。9月24日に公開された『チェンソーマン レゼ篇』(以下、『チェンソーマン』)も今年の興行6位(12月3日基準)に上がっている。
『劇場版「進撃の巨人」完結編 THE LAST ATTACK』も25位に位置している。このほかにも、『名探偵コナン 隻眼の残像』『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』などがリレーするようにバトンを渡しながら、韓国のボックスオフィスで存在感を示した。
ここまで来ると、本当にどうしようもない。一言で言えば、“盤”がひっくり返った。
日本アニメに対する韓国観客の愛は珍しいことではない。宮崎駿で象徴されるジブリスタジオに対して忠誠度の高いファンダムが長い時間存在した。細田守と新海誠の作品も韓国で着実に消費された。2023年には『すずめの戸締まり』と『THE FIRST SLAM DUNK』がそれぞれ558万人、490万人の観客を動員し、韓国劇場街に日本アニメの“魅力”を見せつけたりもした。
ただ、今年興行を牽引した日本アニメはこれまでの作品とは違う。いわゆる“劇場版”という修飾語が付いた、つまり、TVシリーズから派生した作品が興行の中心に立ったという点だ。一部の有名監督と劇場用オリジナル作品に集中していた関心が、日本アニメ全般に広がっていることを意味する。
とりわけ、劇場版アニメは原作がTVシリーズであるという点で“アクセス性”が高くなく、一部マニア層の専有物とみなされてきた。
では、今回の興行は一体何によるものだろうか。ここで出てくるのがOTT(動画配信サービス)というプラットフォームがある。誰かにとっての危機が、また別の誰かにとっては機会となる。その典型的な例が、OTTの登場のというわけだ。
よく知られているように、コロナ禍を経て存在感を大きくしたOTTは、韓国の劇場街には巨大な危機となった。しかし、日本アニメにはこのうえない機会となった。NetflixやDisney+などOTTプラットフォームが日本アニメを積極的に抱き込み、全世界の視聴者が家で日本アニメを簡単に見られる機会を開いたからだ。
そして、OTTを通じて日本アニメの面白さを確認した視聴者の選択が劇場にまでつながり、ファンダムに基盤を置いていた日本アニメ人気が大衆の中へと入り込んだ。
“劇場版”日本アニメのブームは韓国だけでなく、全世界の劇場街で同時多発的に起きている現象でもある。日本の『朝日新聞』によると、『鬼滅の刃』の全世界収入は1063億円で、日本映画として初めて世界興行収入1000億円を突破した。
『鬼滅の刃』はかつてアン・リー監督の『グリーン・デスティニー』(2000年)が打ち立てた北米ボックスオフィス外国映画興行記録を塗り替えたりもした。Netflixアニメ映画『K-POPガールズ!デーモン・ハンターズ』の興行が羨ましくならない記録といえる。
『チェンソーマン』の歩みも見過ごせない。『チェンソーマン』は北米公開初週に1720万ドルを稼いでボックスオフィス1位に上がり、オーストラリアやスペイン、ポルトガルなど主要な公開地域でも初週ボックスオフィスの頂点を占めた。日本の劇場版アニメの人気は、もはや世界的な流れというわけだ。
コンテンツ消費文化の変化も、日本の劇場版アニメ興行の要因として作用した。
今や、ファンは単純に作品を目で消費するだけではない。「体験」を重視する。日本の劇場版アニメはこの点を早くから見抜いていた。
知的財産権(IP)を活用したグッズ販売と公演、ゲームなどの二次創作市場を狙い、企画段階から徹底した戦略を構築したことが有効だった。ファンダムを引き寄せるための劇場側の涙ぐましい努力もここに油を注いだ。再鑑賞を誘導する特典(映画観客を対象に贈呈するグッズ)イベントと特別館上映が代表的だ。
実際、観客数ではなく売上額基準で『鬼滅の刃』は『ゾンビ娘』をより早く突き放したことがあるが、これはIMAX・4D・ドルビーシネマなど特別館の観覧比重が高かったためである。劇場側としては、客単価が高くなる映画を上映しない理由がない。これは劇場が日本の劇場版アニメイベントにさらに熱を入れる要因としても作用し、日本アニメシンドロームの助力者役割を果たした面がある。
日本の劇場版アニメ人気の底力は、面白さと完成度から来ている。優れた作画と攻撃的で大胆な演出がそれだ。原作の世界観を知らずに観ても鑑賞に支障がないよう、“新人観客”を配慮したストーリー構成も高く評価される。劇映画で表現しにくいアクションをアニメーション特有の想像力と表現力でスクリーンに溶かし込み、原作ファンダムだけでなく一般観客のニーズ(欲求)も満たしているという分析だ。ファンダムに基づく“N次観覧”以外にも、口コミ効果による観客流入が実際に少なくない。
では、ここで“韓国にとって”痛い話をしよう。日本の劇場版アニメが興行1位に上がった土台には、韓国映画の不振も少なからず作用している。
日本アニメの興行を牽引したもののひとつが口コミであるなら、韓国映画の不振を牽引したのも口コミである。ともに々“口コミ”でも、その方向は違う。
「見るに値する韓国映画がない」「また同じような作品ばかりじゃないか」「陳腐な公式で作った工業製品」「チケット代を上げたなら、その金額に見合う映画を作るべきじゃないのか」。これらはここ数年、韓国映画に観客が浴びせてきた不満だ。そして、大衆の失望感は限界値に達した様子だ。
今年の韓国映画の出来高成績は深刻だ。乱暴に表現すれば、“失敗”だ。
700~800万人の観客を動員してようやく“大ヒット”と呼ばれていた観客数が下方平準化し、今では300万人の観客を超えても“大ヒット”という話が出る。100万人の観客を突破できない商業映画は積もりに積もった。千万映画市場だった劇場が、今や500万人以下市場へと再編されたという話も聞こえる。自業自得という評価とともにだ。
日本の劇場版アニメーの人気は、一朝一夕で築かれたものではない。長い時間、黙々とIPを構築すると同時に、変化する観客の嗜好を細心に反映した功績が大きい。
実際、“オタク文化”として受け止められていた日本の劇場版アニメが主流へ浮上したのには、観客の変わった目線をつかんだ機敏さがあったのに対し、韓国映画は依然として過去の公式に頼って量産することに忙しい。
観客の変化を、コンテンツを創造する人たちがあまりにも安易に見ているのではないだろうか。
ただ前述したように、危機は機会でもある。今の危機を“どう”乗り越えるかを切迫して模索するタイミングといえる。
(記事提供=時事ジャーナル)
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