韓国で活動する日本出身タレント、カンナムが物議を醸す事態があった。
事の始まりは、彼が自身のYouTubeチャンネルで先日公開した、俳優の福士蒼汰との共演動画であった。
2人は韓国語で語り合い、激辛ラーメンをすするなど、和気あいあいとした時間を共有した。カンナムはSNS上でも福士の存在を「本当に賢くて優しいソウタ。たくさん応援してください」とアピールしていた。
しかしながら、動画の配信後、福士の過去の言動が掘り起こされることとなった。
2015年、福士はフジテレビが制作した終戦70年の特集ドキュメンタリー番組に出演し、自らの祖父が太平洋戦争の折に神風特攻隊員の候補であった事実を知ったと告白していたのだ。
韓国社会においてこの家族の歴史は深刻な問題として捉えられ、「なぜ光復節(8月15日)が過ぎて間もない時期に、そうした背景を持つ日本俳優を宣伝するのか」と非難が殺到した。その結果、カンナムは福士が出演した動画と関連するSNSの投稿を消去した。
しかし、それで事態が収束することはなかった。
動画を取り下げたカンナムは、この出来事について謝罪も事情説明も行わなかった。
その後も通常通りに別の動画を公開し、さらにはJ-POPのヒット曲を韓国のアーティストがカバーする企画まで推し進めている。この振る舞いに対し、今度は「前の動画について何の説明もない」「削除だけして知らん顔で進めるのか」といった批判的な意見が寄せられることとなった。
カンナムに向けられる目がことさら厳しくなった背景には、彼自身のバックグラウンドも関係している。
日本人の父親と韓国人の母親の間に誕生し、日本国籍を持ったまま韓国の芸能界でデビューを果たした。その後、スピードスケートの元韓国代表であるイ・サンファと結ばれ、2022年には日本国籍を手放して韓国国籍を取得している。
こうした経緯があるため、今回の件でも「韓国に帰化して国家代表の妻(イ・サンファ)までいる人が、空気も読まない」といった手厳しい声が相次いだのである。
もっとも、ここで一つ明確にしておくべき点がある。
韓国のネット上では福士に対して“右派疑惑”というレッテルが貼られているものの、彼自身が神風特攻隊を称えたり、侵略戦争を美化したりしたという事実が確認されたわけではないのだ。当時のドキュメンタリー番組内で、福士は撮影を通じて初めて祖父が特攻隊員候補であった事実を知ったと明かしている。
祖父が出撃の前に終戦を迎えたことで命を長らえ、「もし出撃していたら今の自分はいなかった」と語りつつ、映像を見つめながら涙を流していた。番組の終盤では、戦争の体験を後世に語り継いでいくといった趣旨の言葉も口にしていた。
すなわち、今回問題視されたのは、福士本人の現在の政治的なスタンスではない。祖父の戦争への関与であったのだ。
昨今の韓国では、こうした“遡及型炎上”とも言うべき事態が目立つようになっている。
同じく8月には、韓国のバンドHYUKOHの新曲ミュージックビデオに日本の女優・安藤サクラが出演したというだけで物議を醸した。
問題とされたのは、安藤自身の言葉や振る舞いではない。彼女の曽祖父が第29代総理大臣の犬養毅であったことだ。
安藤自身が曽祖父の思想や歴史観を支持している事実は確認されていない。それにもかかわらず、何世代も昔の家族の歴史が、キャスティングを評価する際の判断材料とされたのである。
さらに女優ハヨンの事例では、彼女自身が「4代続く医師家系」と紹介したことが発端となり、曽祖父の経歴までが調査されることとなった。
その曽祖父とされる人物が親日団体の名簿に載っていたという記録がクローズアップされ、所属事務所が説明を修正する事態に発展。ハヨン本人も謝罪に追い込まれた。
そして現在、韓国では自分の苗字と本貫を打ち込むと、同じ一族に「独立有功者」や「親日反民族行為者」が存在するかどうかを調べられる、いわゆる“親日派スキャナー”までが注目を集めている。
芸能人本人の過去を洗うだけにとどまらない。祖父母、曽祖父、ひいては一族全体の歴史にまで遡るのである。韓国の一部ネット世論においては、評価の対象がそこまで拡大しつつある。
無論、この現象を単に「韓国は反日だから」と切り捨てるのも誤りだろう。
その背景には、日本統治時代に協力したことで得た財産や社会的地位が、その後も子孫へと受け継がれてきたのではないかという、韓国社会に深く根付く歴史認識が存在する。「独立運動をすれば3代が苦しみ、親日をすれば3代が栄える」という言葉が語り継がれているほどだ。
実際、韓国では今年の12月から、「親日反民族行為者財産の国家帰属等に関する特別法」が施行され、日本統治期に日本へ協力した見返りとして手に入れたと認定される財産を、国庫へ没収する制度が再び稼働し始める。
かつての調査委員会では、親日反民族行為者168人の財産について国家への帰属が決定され、その総額は当時の時価で2373億ウォン(約275億円)にのぼった。今回は、すでに売却済みの財産の代金にまで回収の対象が及ぶ可能性がある。
つまり、日本統治への協力によって築かれた利益が現在に至るまで継承されている場合、それを清算すべきだという思想が、ネット上の議論のみならず国家の制度にも組み込まれているのである。
その一方で、韓国内においても「祖先が犯した過ちを子孫が背負う必要があるのか」「80年以上前まで遡って断罪するのか」といった反発の声も決して少なくない。
要するに、韓国社会全体が一つの意見でまとまっているわけではないのだ。だからこそ、今回のカンナムをめぐる騒動は複雑である。
福士本人ではなく祖父の来歴が問題とされ、その福士と共演したカンナムにまで非難の矛先が向かう。その上、カンナムが動画を削除すれば「説明しろ」と迫られ、通常の活動を再開すれば「何事もなかったように進めるのか」と再び叩かれる。
歴史を心に刻むことと、祖先の責任を子孫にまで負わせることとは同義ではない。どこまで遡れば、その人物自身を評価したと言えるのだろうか。
福士蒼汰とカンナムをめぐる今回の騒乱は、その評価の境界線が現在の韓国においてどこまで広がっているのかを、改めて浮き彫りにしている。
(記事提供=スポーツソウル日本版)
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