韓国発のヒットコンテンツである「モッパン」に、変化の兆候が現れ始めている。
【注目】韓国ユーチューバー帰化撤回劇に見る「日本媚び」コンテンツの結末
大量の料理をダイナミックに食す動画で知られ、YouTubeのチャンネル登録者数が1300万人を超える韓国のトップユーチューバー、ツヤン(tzuyang)。
彼女は最近公開した動画の中で、「たくさん食べるのがもうトレンドではないようだ。これからは適度に食べるユーチューバーになる」といった旨を口にした。
実際にはその直後にも以前と変わらぬモッパンを披露しており、真意のほどは定かではない。
だが、この発言が関心を集めたことには明確な理由が存在する。
韓国では最近、食事やダイエットに関する一部のYouTubeチャンネルにおいて、収益化の停止や動画の一括削除が相次いでいるからだ。
韓国を象徴するYouTube文化へと定着したモッパンの現場で、一体何が生じているのだろうか。
そもそも「モッパン」とは、韓国語の「食べる(モッタ)」と「放送(パンソン)」を掛け合わせた造語である。
人が食事をする光景を配信するコンテンツを意味し、2008年頃から韓国のライブ配信プラットフォームを中心に波及し、2010年代には人気カテゴリーとして確固たる地位を築いた。
日本国内では「モッパン=大食い動画」という印象も根強いが、元来は必ずしも膨大な量を平らげることのみを指すのではない。
誰かが食事をする様子を見つめたり、配信者とコミュニケーションを取りながら共に食事を楽しんでいる感覚を得たりするコンテンツである。韓国において単身世帯が増加した点も、支持を集めた要因として挙げられてきた。
やがてYouTubeの広まりに従い、その形態も多様化していく。咀嚼音をフィーチャーしたASMR形式や、大量の料理を一度に並べる大食い形式など、多彩な表現へと拡大を遂げた。韓国発の言葉であった「MUKBANG」は、今や世界中で通用する語彙となっている。
その最高峰に位置する一人がツヤンである。彼女が「たくさん食べるのがもうトレンドではないようだ」と述べた重みは決して小さくない。
そうした韓国のモッパンを取り巻く環境で、昨今、不穏な動きが観測されている。
登録者数およそ44万人を誇るクリエイター「サルペジョ(DietJo)」は、摂食障害に関するガイドラインへの抵触を理由にチャンネルの収益化を止められたとし、動画の更新を一時停止した。
また、約10万人の登録者を持つダイエット系クリエイター「ミソ」も、YouTube運営から違反通知を受け取った後、過去の動画667本のうち339本を非公開化、あるいは削除する対応をとったとされる。
こうした事態が立て続けに起きたことで、韓国国内では「モッパンやダイエット動画への規制が強まった」と捉えるニュース記事が相次いで報じられた。
しかしながら、この点には慎重な見方が求められる。
グーグル・コリアは現地メディアからの追及に対し、「YouTubeのポリシーでは、自傷行為や摂食障害を助長、美化、推奨するコンテンツを厳しく禁止している」と述べ、「収益化が可能なコンテンツについては、さらに厳格な基準を適用している」と説明を加えた。さらに、「こうした基準は最近アップデートされたり、強化されたりしたものではなく、これまで一律に同じように適用されてきた」と主張した。
要するに、「YouTubeが突然モッパン禁止に動いた」と解釈するのは事実に即していない。
運営側が疑問視しているのも、「たくさん食べる」という行為自体ではないのだ。摂食障害を煽ったり美化したり、あるいは視聴者の真似を誘発する恐れのある描写が注視されている。
韓国の報道機関が伝えた判定基準によれば、摂食障害の文脈下で、劇的な体重減少や過食、食物の隠匿や蓄積、過度な食事制限などが生々しく表現されている場合、広告による収益が制限を受ける可能性があるという。
もちろん、教育的な内容やドキュメンタリー、あるいは克服体験を共有するようなコンテンツまで等しく取り締まりを受ける訳ではない。
加えて現段階では、ツヤンやヒバプ(heebab)といった主要なモッパンユーチューバーが、今回の騒動に伴う収益停止や動画削除の直接的ペナルティを受けたという事実は認められていない。
それだけに、ツヤンが見せた「適度に食べます」という姿勢は極めて味わい深い。自身が処分を受けていなくとも、トップクラスの人物が「たくさん食べる」ことの社会的な見え方に配慮するほど、業界全体で過敏な空気が漂っている証左と言えるからだ。
日本においても、“大食い”というジャンルは長年定着してきた。しかし、その背景や発祥は韓国のモッパンとやや異なる。
日本国内ではテレビ番組を根幹として、「何皿食べられるか」「何kg完食できるか」「制限時間内に食べきれるか」というような勝負や挑戦として大食い文化が醸成されてきた。それに対して韓国のモッパンは、本来「誰かが食べている姿そのものを見る」というインターネット配信の文脈から生まれたものだ。
もっとも、YouTubeが主流となった今日では双方の垣根は曖昧になりつつある。
日本でも「モッパン」という表現が一般的になり、韓国でも大食いを前面に打ち出した投稿が視聴を集める。バックボーンの異なる日韓の食系コンテンツが、YouTubeというプラットフォーム上で徐々に類似したスタイルへと接近してきたと言えるだろう。
果たして、本当に「モッパンの終わり」が到来したのだろうか。
現時点において、そう断定するのは尚早である。単に食事風景を流したり、大食いを披露したりするだけで即座に広告が停止されるわけではない。ツヤンのごとき大物ユーチューバーが直接的なペナルティを被ったという形跡もない。
ただし、確かな変化の波は訪れている。「より多く食べる」「より極端な食生活を見せる」といった過激さが再生数を稼ぐ要因となる一方で、広告収益を損なう危険性をも孕む時代へと突入したのだ。
2000年代の終わりに韓国の配信カルチャーから萌芽し、世界へと拡散したモッパン。一連の動向のみをもって、その文化そのものが消絶すると結論付けることはできない。
けれども、「より多く食べる」「より刺激的に見せる」ことによって再生数を争う手法には、緩やかに限界が訪れつつあるのかもしれない。
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