高市早苗首相の“台湾有事発言”以来、日中関係の緊張状態が続いている。
中国外交部は11月14日、日本の「治安悪化」を理由に自国民の日本訪問自制を要請する、いわゆる「限日令」を発表した。
翌15日からは、中国国際航空、中国南方航空、中国東方航空が日本行き航空券の無料キャンセル支援に乗り出し、日本を訪問する中国人観光客の数も減少する傾向にある。
日本政府の観光庁統計によれば、今年1月から10月まで日本を訪れた中国人観光客は約820万人と集計されている。中国国籍の訪日外国人数がコロナ禍以前の水準を回復しただけに、「限日令」が長期化し中国人観光客の減少が続いた場合、日本の観光産業および地域経済に及ぼす悪影響を避けられないだろうとの懸念の声も出ている。
実際、大阪や福岡など主要な観光地では中国人観光客の宿泊予約が半分以上キャンセルされたと伝えられており、中国企業が運航するクルーズ船の寄港地が日本から韓国および東南アジアに変更される事例も現れている。12月に予定されていた中国発日本行きの航空便は、5548便のうち16%にあたる904便が欠航となった。
中国人観光客減少の傾向が顕著となるなかで、日本の観光業界および財界では懸念の声がますます大きくなっている。中国の最大の名節である春節(2026年2月)に、中国人観光客数が大幅に増加する「春節特需」を期待できなくなるためだ。
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、2025年の「限日令」が、2012年9月に日本が尖閣諸島「国有化」に踏み切った後、中国政府の「限日令」によって1年間で中国人観光客が約25%減少した時と同等の影響力があると仮定した場合、日本経済に約1兆7900億円規模の損失をもたらすと分析した。これは日本の国内総生産(GDP)の約0.36%に相当する金額だ。
12月3日には、長野・岐阜・静岡・愛知・三重など5県を中心に活動する経済団体である中部経済連合会の勝野哲会長が定例会見を開き、「日中間の経済およびビジネス相互交流に影響が生じることを大きく懸念している。事態が長期化した場合、観光・小売業・宿泊業を中心に大きな影響を及ぼす可能性があるため、関連動向を注視していかなければならない」と述べた。
また、日中両国政府が「事態が悪化しないよう対話を通じて意思疎通を一層強化し、懸案解決に向けて共通の見解を見出していくべきだ」と強調した。中国政府が日本産水産物の輸入を停止し、事実上の輸入制限措置を再開した状況で、中国の対日強硬措置がレアアース輸出規制およびその他の日本産製品の輸入禁止などへと続く場合、日中摩擦が一層深刻化する可能性があるという見通しが出ているためだ。
一方で、「中国観光客の訪日減少を観光政策の再検討の契機とすべき」「観光需要において中国人観光客がすべてではない」という冷静な分析も出ている。『日本経済新聞』は11月30日付の社説で「特定の国・地域に依存する観光事業は危うい」とし、東南アジアや欧州国家などへ観光需要を分散するなど、安定した観光産業形成のための契機とすべきだと主張していた。
日中関係悪化の影響はエンターテインメント産業でも現れている。
11月28日には、歌手の大槻マキが上海で人気アニメ『ONE PIECE』のエンディング曲『memories』を歌っていた途中で退場させられる出来事が起きた。翌29日には浜崎あゆみの上海コンサートが突然中止され、1万4000席規模のコンサート会場で無観客のままコンサートが行われた。
日中関係悪化が文化産業にまで波及するなか、台湾・台北の蔣万安市長(蔣経国元総統の孫)は日本の歌手が台北で公演を開催することを歓迎すると述べ、中国との差別化に乗り出した。中国政府の「限日令」と日本産水産物輸入停止再開以降、台湾の頼清徳総統が日本産水産物を食べる写真をSNSに投稿し、日本との友好関係を強調したことと同様に、日中葛藤を機会とし日本における台湾の立場強化を図ろうとしていると分析される。
中国の対日圧力が強化される中、12月2日の参議院国土交通委員会では、立憲民主党の蓮舫議員が「中国の経済的圧力にも主張すべきことは主張しなければならない」とし、「限日令」による経済的打撃を緩和するための措置の必要性を強調した。これに対し、金子恭之国土交通相は「中国だけでなくインバウンド(外国人の日本旅行)全体、国内旅行動向も勘案し(限日令の)影響を注視する必要がある」と主張した。また国土交通省としては、複数の国家や地域からの訪日を促進するため、戦略的な訪日プロモーションの実施および観光コンテンツ開発を通じてインバウンド市場多様化推進にさらに努力すると述べた。
今後日本政府は、訪日外国人全体のうち中国人比率が2019年の30%から2024年には19%に低下している傾向を維持しながら、観光客流入チャネルを多様化することで観光分野の「対中国依存脱却」に拍車をかけると予想される。
(記事提供=時事ジャーナル)
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