韓国にはびこる賄賂や接待文化に鋭くメスを入れる“キム・ヨンラン(金英蘭)法”とは?

2016年09月30日 政治
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韓国社会を根底から揺るがすような新たな法律が9月28日から施行された。

「不正請託および金品授受の禁止関係法」、通称“キム・ヨンラン(金英蘭)法”と呼ばれる法律で、一口に言えば韓国社会にはびこる賄賂や接待文化を禁止する法律だ。

そもそもキム・ヨンランとは、同法を推進してきた国民権益委員会の当時の委員長のことで、韓国初の女性裁判官。韓国でこのような法律が作られたのは、韓国社会に腐敗・不正が蔓延しているからに他ならない。

実際に、国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが調査した「腐敗認識指数」を見ると、韓国の評価は非常に低いのだ。

“キム・ヨンラン法”の対象となるのは、公職者やメディア関係者、私立学校職員など。彼らやその配偶者が年間計300万ウォン(約30万円)、一回100万ウォン(約10万円)を超える金品を受け取った場合、どんな理由であれ刑事処罰の対象になる。

そして会食は3万ウォン(約3000円)、贈り物は5万ウォン(約5000円)などの上限も設けられた。違反した場合は、3年以下の懲役か3000万ウォン(約300万円)以下の罰金が科せられるという。

現役の弁護士が立案背景を解説

韓国の政治、経済、社会問題に鋭く切れ込んだ書籍『韓国インテリジェンスの憂鬱』によると、そもそも“キム・ヨンラン法”は、2012年8月に国民権益委員会(首相直属機関)キム・ヨンラン元委員長が韓国社会に根強く残る不正腐敗の根絶のために推進した法案だという。

同書で弁護士のカン・シノプ氏が立案背景を解説している。

「まず2010年にある建設業者が検事十数人に金品を渡して供応していたことが発覚したものの、“対価性がない”ということで起訴されなかった出来事がありました。また2011年には、ある女性検事が内縁関係にある弁護士からベンツ1台を受け取り、告訴事件の請託にあたるという騒動もありました。彼女はのちに最高裁で“対価性の証明が難しい”と無罪判決が下されましたが、そういった騒動のなかで、公職者は金品を受け取っていたとしても、対価性がないという理由で処罰を免れているという指摘が出てきたのです」

そうして提起された法案は紆余曲折を経て2015年3月に国会を通過し、いよいよ明日から施行されることになったのだ。

韓国経済研究院は去る6月、“キム・ヨンラン法”によってもたらされる経済的損失について報告書を出している。それによると“キム・ヨンラン法”の施行は、飲食業、ゴルフ業、消費財、流通業などに直接的な打撃を与え、合わせて11兆6000億ウォン(約1兆1600億円)ほどの年間損失になると推算している。

慌てふためく韓国社会

最も慌てふためいているのは、飲食店だ。飲食業界は8兆5000億ウォン(約8500億円)ほどの経済損失が予想されており、売上低下は必至。特に高級料理店などは、法律に触れない3万ウォン(約3000円)以下の新メニュー作りに追われているそうだ。

騒然としているのは飲食業だけではない。国会議員をはじめとする政治家たちも、さっそく会食などを減らしているという。韓国社会の腐敗の原因は政治家にあるという指摘が尽きないだけに、当然のことかもしれないが。

それ以外にも動揺はマスコミ、学校、銀行、デパート、病院などと広範囲に及んでいる。一連のドタバタを見ると、逆説的だが、いかに韓国社会に賄賂や接待文化が根付いているかがわかるから皮肉だ。

興味深いのは、“キム・ヨンラン法”に申告制度があること。違反行為の申告者には、最大2億ウォン(約2000万円)の褒賞金が与えられるという。

この申告制度は“ランパラッチ”(キム・ヨンラン法+パパラッチ)などと呼ばれており、超小型カメラや盗聴器を使って一攫千金を狙う輩もいるというのだから驚く。盗撮や盗聴という罪を犯してまで、“キム・ヨンラン法”の違反者を申告する犯罪者も出てくるのではと危惧されているのだ。

そういった危惧が今から懸念されているところを見ると、今から10数年前に施行された「性売買特別法」が思い浮かぶ。法律で性売買を厳しく取り締まったが、韓国の性産業をさらに多様化・巧妙化させたとの指摘が尽きないからだ。

最近は、「改善されることのない韓国社会に対する不満」から一般人の韓国籍離れや移民志向も高まっている韓国。痛みを伴う“金英蘭法”が現状を打破するか、注目したい。

(文=慎 武宏)

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