10月21日の内閣発足以降、高市早苗首相は「責任ある積極財政」「国会議員の定数削減」「安全保障3文書の改定」などを掲げ、内外に積極的な動きを見せている。首相就任直後にはASEAN首脳会議、ドナルド・トランプ米大統領の訪日、慶州で開かれたAPEC首脳会議など外交舞台でも存在感を示し、高市内閣の支持率が“うなぎ上り”を続けている。
『毎日新聞』が11月22日から2日間実施した世論調査では、高市内閣を「支持する」と答えたのは65%、「支持しない」は23%だった。
特に目立ったのは若年層の支持。18~29歳、30~39歳、40~49歳の回答者の70%以上が高市内閣を支持した。また、10月のトランプ大統領訪日に伴う日米首脳会談についても、回答者の77%が「(ポジティブに)評価する」と答えた。
FNNが同日に実施した調査でも、高市内閣の支持率は75.2%だった。11月7日の衆院予算委員会で、岡田克也元外相の質問に対し高市首相が「台湾有事」は日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に該当し得ると発言したことを受け、日中対立が激化し中国政府が「訪日自粛」を発表した状況でもなお、高い支持率が続いている形だ。
FNN世論調査では、高市首相の「台湾有事介入」発言を支持する回答は61%に達した。一方で、高市の国会答弁後、薛剣・在大阪中国総領事がSNSで高市首相の「汚い首は斬ってやる」といった“斬首発言”を行い、南アフリカで行われたG20首脳会議で高市首相と中国の李強首相の会談が実現しなかったなど、日中関係の緊張が高まる状況に対しては49.3%が懸念を示した。
東京大学客員教授の藤原帰一名誉教授も、11月19日付の『朝日新聞』内の寄稿で、高市首相の国会答弁は台湾有事への対応について「戦略的曖昧性」を維持してきた日本政府の方針を変え、「日本外交の選択肢を狭めるだけでなく、中国と合意された現状を日本が変更することで、日本が“現状変更勢力”とみなされる機会をつくってしまう」と分析した。また「中国でもアメリカでも台湾でもなく、日本が先頭に立って緊張を拡大し、東アジア国際関係に不安定をもたらすことになるのではないか」と懸念を示した。
11月21日には市民約1700人が首相官邸前に集まり、高市首相の「台湾有事介入」発言の危険性を指摘し、「戦争をあおる発言を撤回せよ」と抗議デモを実施。25日と26日にも発言撤回を求める集会が続いた。
11月26日午後には、高市首相就任後初の党首討論が開催された。まず“最も敏感な争点”である「台湾有事介入」発言をめぐる日中関係冷却について、立憲民主党の野田佳彦代表が発言の経緯を質問。高市首相は、政府の従来の答弁を繰り返すだけでは予算委員会が止まる可能性もあることを考慮し、具体的な事例(台湾有事)への質問に対し「可能な範囲で誠実に答弁した」と説明した。
また、「存立危機事態」の判断基準については「状況を総合して判断する」という従来の政府見解を維持する姿勢を示した。内閣発足後の「積極財政」政策が円安を加速させているという指摘に対しては、「経済成長なくして財政健全化は実現できない」と述べ、積極財政で経済成長を引き出す考えを示した。
党首討論で高市首相は、公明党の連立離脱後、日本維新の会との連立における条件となった「国会議員定数削減」問題に触れ、野党に協力を求めた。高市内閣の定数削減案は、現在465議席の衆議院(下院)議席を最低45議席以上削減する内容で、これにより年間45億円の予算削減が可能だと試算している。
内閣発足後、政府支出の効率化を検証するため「租税特別措置・補助金見直し担当室」(仮称)の設置を検討しているのも、維新との連立を維持しつつ、増税を行わず税収拡大に基づく積極財政の財源を確保するため。すなわち、議員定数削減と歳出効率化を狙う意図があるとみられている。
しかし定数削減をめぐっては、自民党内に「維新との連立を急ぐあまり、党内合意なしに首相が議員定数削減を進めている」との不満があり、この問題が自民党と維新の連立の火種になる可能性も指摘されている。また、比例代表議席の削減で国会内の多様性が失われるという野党側からの反発も出ている。
高市内閣の高支持率については、「主張する首相」のイメージが国民の支持を得ているという評価が続いている。まず、第2野党・国民民主党の玉木雄一郎代表は、高市内閣の高い支持率維持について、日中関係に対して「毅然とした態度を見せている点が高く評価されているのではないか」と述べた。また政治評論家の田﨑史郎は、韓国・中国に強硬姿勢を示すことで世論の支持を得た安倍晋三元首相を踏襲し、高市が「台湾有事介入」発言を撤回しないのだと分析した。
ただし、11月25日に行われた日米首脳の電話会談で、トランプ大統領が高市首相に対し「日中関係の悪化は望まない」と伝えたとされ、今後の日本の対応が注目されている。元駐中国大使の垂秀夫は、中国政府が高市首相に「台湾有事介入」発言の撤回を求めている状況に関連し、「中国からの圧力があると日本が屈してしまう」という印象を避けるためにも、高市は同発言を「撤回してはならない」との立場を示した。また今回の日中対立を機に、日本政府が対中戦略を再構築すべきだと強調した。
(記事提供=時事ジャーナル)
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