現在、TBSで放映中のドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』。偽装結婚を題材にしていることから何かと比較されているのが2016年の秋ドラマとして同じくTBS系列で放映された『逃げるが恥だが役に立つ』だという。
『逃げ恥』は今から5年前の放送時、韓国でもちょっとした注目を集めていた。
当時、筆者は試しに韓国の大手ポータルサイトで、『逃げ恥』を韓国語に訳して検索してみたが、多数のブログでドラマの見どころや視聴レビューが紹介されていた。
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『逃げ恥』は当時、韓国のケーブルテレビ局のチャンネルで、韓国語字幕ありバージョンと字幕なしバージョンをオンエアしていたのだ。
なぜ、韓国の日本ドラマファンたちの間でも『逃げ恥』が関心を集めているのだろうか。
理由のひとつには、韓国でも人気の大谷亮平が出演していることもあるだろう。今や韓国では多くの日本人タレントが活躍しているが、大谷はその中でも最近もっとも成功した日本人タレントのひとりである。韓国で『逃げ恥』を検索すると、主演のふたりよりも大谷の近況のほうが先に出てくるほどだった。
ただ、理由はそれだけではないような気がする。
何しろドラマに関しては、ことさらうるさく思い入れの強い韓国ファンたちである。今年夏にフジテレビで放映されたドラマ『HOPE~期待ゼロの新入社員~』に関しては、放映前から賛否両論が起こったほどだった。
気になっていろいろと調べてみると、ひとつのヒントに出会った。
「35歳の独身男、就活に失敗した妄想女、世話焼きの叔母に優雅な独身貴族など、韓国でも通用するキャラ設定がいい」という韓国ファンのドラマ視聴レビューだ。
新垣結衣演じるみくり、星野源演じる平匡、さらには石田ゆり子扮する百合ちゃんや大谷亮平演じる風見さんなどのキャラ設定が、韓国人にとっても感情移入しやすいのだろう。
実際、データがそれを物語る。韓国の統計開発院の「韓国の社会動向2015」を見ても、未婚率は30~34歳38.5%、35~39歳19.1%となっており、ドラマの世界のように若年層の “結婚離れとおひとりさまブーム”が進んでいる。つまり、“プロの独身”を自称するリアル平匡が、韓国にも存在するのである。
また、みくりのように高学歴ながら就職できなかった女子も多い。それどころか最近の若者たちは恋愛、結婚、出産を放棄した3放世代や「5放世代」(3放+人間関係、マイホームを放棄した世代)に「7放世代」(5放+夢、希望を放棄した世代)まで増えている。
自国を“ヘル朝鮮”と呼び、自分たちを“スプーン階級論”という新たな社会的身分制度で自虐する韓国の若者たちにとって、就職もできず契約社員としても打ち切られたみくりの状況は自分たちと重なる面もあるのかもしれない。
ただ、平匡もみくりにも悲壮感はなく、むしろ素朴でけなげに生きる姿に、韓国の視聴者たち(特に若者たち)は心が洗われ救われるのだろう。ロマンチックコメディアというジャンルの特性もあるが、みくりと平匡が見せる“ムズキュン”な恋模様に、忘れかけていた“ときめき”を一瞬だが取り戻しているのかもしれない。
興味深いのは、『逃げ恥』を韓国メディアも評価していることだ。それも良識ある一般紙として知られる『ハンギョレ新聞』が『逃げ恥』をこう評価していたのだ。
「『逃げ恥』は破格的な発想が際立つロマンスドラマだ。一見すると“ルーザー”である女性と草食男の軽いロマンチックコメディのようだが、女性の雇用不安、若い層の結婚回避現象など、作品の中に内在されている社会的争点の重みがある。(中略)。このすべての展開が水を流れるように進み自然に面白く描かれていることが、このドラマのもうひとつの美徳だ」
まさに韓国も高く評価している『逃げ恥』。韓国社会にも通用する要素を内在し、ファンの関心も評価も高かったわけだが、ならば『婚姻届に判を捺しただけですが』はどうだろうか。
主演の坂口健太郎は韓国でも有名でも人気があるだけに、『逃げ恥』同様の人気が韓国でも期待できそうだが、はたして。
文=慎 武宏
*この原稿はヤフーニュース個人に掲載した記事を加筆・修正したものです。
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