韓国で男同士の恋愛を描いた「BL(Boy’s Love)」が注目を集めている。
かつては一部のマニア層が“日陰”で楽しむ徹底したマイナージャンルだったが、ここ1、2年の間にエンタメ界のブルーオーシャンとして脚光を浴びるようになった。
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その理由はずばり、ウェブ漫画やウェブ小説に限られていたBLがドラマ(ここでいうドラマは、ネット上で配信されるWebドラマを指す)として制作され始めたからだ。ドラマになるということは、日陰から日向に引きずり出され、大勢の人の目に触れるということに他ならない。ところが、思いのほかBLドラマが世間で大いに盛り上がり、今や1つのジャンルとして確立されつつあるのだ。
韓国で「BLドラマ」を謳った最初のドラマは2020年に配信された『君の視線が止まる先に』(Rakuten TVで配信中)だ。
15年来の親友同士である高校生2人が、お互いに妙な感情を抱くことで経験する変化を描いたこのドラマは、その作品性が認められ、「第24回富川国際ファンタスティック映画祭」にも招待された。日本ではRakuten TVの2020年年間ランキング韓国ドラマ部門で第1位に輝いている。
2021年には前出の『君の視線が止まる先に』を手掛けたファン・ダスル監督の新作『To My Star』(Rakuten TVで配信中)が公開され、大きな反響を呼んだ。
主演俳優ソン・ウヒョン、キム・ガンミンらは一躍注目を浴び、ファンの声に応えて台本集やDVDも発売。それだけでなく、ドラマを再編集した劇場版が上映されたり、シーズン2となる『To My Star2:僕たちの言えなかった話』(Rakuten TVで配信中)も制作されたりと、BLドラマの新たな可能性を示した。
そして本格的にBLドラマブームを巻き起こしたのが、2022年2月に配信された『セマンティックエラー』(Watchaで配信中)だ。
韓国の動画配信サービス・Watchaの初のオリジナル作品となるこのドラマは、8週連続で視聴ランキング1位をキープするという前代未聞の出来事を起こした。
興味本位で見始めた人も物語にすんなりと取り込めるソフトな演出や、パク・ソハム、パク・ジェチャンら主演俳優たちの優れたビジュアルと演技力などがヒットの要因として挙げられている。
これらの作品の成功を受け、韓国ではBLドラマの制作はより活発になったのが現状だ。
中小制作会社だけでなく、大手映画配給会社もBLドラマの制作に積極的に乗り出し、『新感染 ファイナル・エクスプレス』『7番房の奇跡』などで知られるNEWは今年3月にBLドラマ『Blueming~君に染まる』(U-NEXTで配信中)を公開。『建築学概論』や『アイ・キャン・スピーク』などを制作したMyung FilmもBLドラマを準備中という。
BLドラマの出演が人気俳優への登竜門となる現状を目の当たりにした芸能界にも、変化が起こり始めている。
新人俳優はもちろんのこと、ある程度知名度のある俳優やアイドル出身者も「BLドラマに出演したい」と自分から申し出るくらいだそうだ。以前はLGBTQジャンルに否定的だった芸能マネジメント会社も、今は真剣に検討する雰囲気が広まっているという。
韓国のBLドラマの主な消費者は20、30代女性と見なされている。好きなドラマがあればSNSで紹介し、二次創作を楽しみ、労力をかけて俳優や監督にも会いに行く最もアクティブな層だ。
Watchaのプロデューサーであるキム・ソヒ氏は『W Korea』の取材に対して次のように語っている。
「高い忠誠度と経済力を持つファンと、極端に少ないコンテンツ数が出会ったらどうなると思います?『お金はあるから新しい作品を出してくれ、熱烈に支持するぞ』じゃないでしょうか。いまBLドラマ市場のポテンシャルが高いと判断するのも、こういうファン層と市場と特殊性のためだと見られます」
動画配信サービスの拡大と確かな需要、そして多様性を受け入れ始めた社会的雰囲気が芽生えつつある韓国。うまくいけばBLに開放的な日本やタイとのコラボも期待できる。これらが相まったBLジャンルの高いポテンシャルに業界が注目するのも、ある意味で当然かもしれない。
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