音楽配信サービスの普及が進む中、世界的に“CD離れ”が叫ばれて久しいが、それは韓国でも同様だ。
韓国コンテンツ振興院が今年6月に発表した「2016音楽産業白書」によれば、アンケートに応じた15~59歳の男女1200人のうち、CDやDVDの再生装置を使って音楽を聴く人は25.6%に過ぎなかった。
一方、日本レコード協会が発表した「2016年度 音楽メディアユーザー実態調査報告書」によれば、日本では38.4%の人々がCDを利用しているとされている。世界的に日本はまだCDが流通されていると言われているが、韓国では着実に“CD離れ”が広がっているといえるだろう。
ただ、奇妙なことに、韓国ではここ最近、CDの売上自体が伸びている。
『東亜日報』が「韓国版ビルボート」と呼ばれるガオンチャートに依頼した調査結果によれば、2016年の上位400位のCD売上総枚数は1080万枚に上っている。売上数が1000万枚を超えたのは2011年の調査開始以来、初めてのことで、ここ5年間で約40%も売上が増加しているというのだ。
同時期の日本のCD生産数を見ると、2011年には約1億9951万枚だったのが、2016年には1億6119万枚と20%近くも減少している。
『韓国日報』は、「アイドルCD1000万枚時代…音盤価値の暴落は“逆説”」との見出しを打った記事で、韓国でCDの売上が伸びている背景には、アイドル市場の成長があると分析している。
記事では、2012年にデビューしたEXOや2015年に登場した防弾少年団とTWICなどの人気上昇によってアイドルに対する関心が高まり、自然とCD市場も拡大したとも綴った。
実際、2016年のCD売上総数の中で、アイドル曲が占める割合は94.3%にまで上っており、韓国のCD売上増加=アイドルのCD売上増加と言っても過言ではない状況だ。
もっとも、重要なのは、こうしたアイドル人気がある上で、なぜ配信ではなくCDの売上が伸びているのかということだろう。
アイドルのファン層は10代~20代の若年層ということを考えれば、CDではなく配信ダウンロードのほうが相性が良いはずなのだ。
なぜ、韓国では配信ではなく、CDなのか。
理由の一つは、関連企業による「組織買い」にあるといわれている。
例えば昨年8月には、ガールズグループLABOUMに「組織買い」疑惑が持ち上がっている。デビューアルバムの初週売上が約2100枚だったのに対し、セカンドアルバムは初週売上が3万枚に達したことで疑惑が持ち上がった。
所属事務所のGlobal H Mediaは「組織買いではない」と否定しながらも、とあるスポンサー企業がイベント用に購入して販売数が増加したと認めている。
韓国のある音楽関係者によれば、こうしたスポンサー企業による大量購入は頻繁にあることなのだという。
韓国の現行法では、スポンサー企業は「組織買い」の規制対象ではないため、スポンサーが大量購入をしても法律上は問題がない。
しかし、この制度は事実上の「組織買い」に悪用される恐れがあると指摘されており、韓国文化体育観光部(日本の文部科学省に相当)の大衆音楽産業課の関係者も、「スポンサーが音楽産業関係者に該当するかどうか、関連法を見直す計画」にあると語っている。
韓国で売上を伸ばしているもう一つの理由は、日本のアイドルと関係している。ガオンチャートのキム・ジヌ研究員はこう語っている。
「2000年代に入り、全世界的にCD市場が縮小することが予見されていた中で、日本で2011~2012年にAKB48に対する国民的関心が高まり、CD販売量が激増した事例と似ている」
実際、日本レコード協会が発行した「日本のレコード産業2017」を見ると、日本のCD生産数は毎年、減少しているが、2012年だけは前年比9%増加している。CD生産数が増化するのは1998年以来14年ぶりのことだった。
AKB48が売上を伸ばしている要因は、CDを大衆が1枚ずつ買うのではなく、熱心なファンが複数枚を購入している点にあると言われている。
その具体的な戦略は、例えば一つのシングルでも、それぞれ異なる生写真が封入された数種類のパッケージを用意し、特典を手に入れるために大量に購入してもらうというものだ。
いわゆる“AKB商法”と呼ばれるこの販売戦略が、現在は韓国のアイドルの間で主流となっているわけだ。前出の『国民日報』の記事は次のように伝えている。
「アイドル音楽の消費者がCDを購入する理由は、多くの場合、音楽を聴くためではなない。CDに封入されているスターたちのポストカードを収集し、サイン会に応募するための道具としてCDと買っている」
実際、韓国で販売されているアイドルのCDを見ると、AKB48と同じように、同じ曲が収録されたCDでも別の特典が付いているものが多い。
例えば日本でも人気のTWICEの最新アルバム『SIGNAL』は3種類発売されており、特典のフォトカードも27種からランダムで封入される仕様となっている。
同記事は、現在は購入したCDから特典だけを抜き取って、肝心の楽曲が納められたディスクのほうは中古CDショップに売ってしまう人々も溢れているとしながら、こう締めくくっている。
「音楽が収録されたものではなく、ただの写真集に落ちぶれたというのがCDの現状だ」
かつて日本でも、AKB48のCDが「総選挙」の投票権だけが抜き取られて大量に捨てられていることが物議を醸したことがあったが、韓国でも同じような現象が起こっているのである。
「CD離れ」と「CDの売上増加」という矛盾した状況の裏には、こうした問題が隠れているわけだが、今後もこの現象は続いていくのだろうか。
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