韓国で一つのジレンマが生じている。性売買を根絶しようと施行された「性売買特別法」に対して、「そもそも同法は憲法違反ではないか?」という疑問符が投げかけられたのだ。
問題視されている条項は、性売買特別法の第21条第1項。「性売買を行った者は1年以下の懲役または300万ウォン(約30万円)以下の罰金、拘留、または科料に処する」という規定だ。
性売買を行った女性が「国家が、搾取や強要のない成人間の性交渉にまで介入してもいいのか」と主張したことを受け、ソウル北部地裁が憲法裁判所に違憲法律審判を提起した。
たしかに、売春婦にとって性売買は“仕事”だ。彼女たちからすれば、職業選択の自由を侵害されることになる。プロである彼女たちが人権侵害を受けているわけでもないだろう。ただ「合法化された場合、性売買産業が拡大される」という反論にも筋が通っている。
現在、むしろ性売買が合法化されることで「“管理”しやすくなる」「性売買の海外遠征が減少する」などなど、さまざまな意見が飛び交っている状態で、憲法裁判所でも公開弁論が行われたほどだ。
去る2015年4月の公開弁論には、違憲派としてキム・ガンジャ氏が参加した。彼女は、ソウル鍾岩警察署の元署長。
韓国の鍾岩といえば、風俗街“ミアリ・テキサス村”がある地域だ。公開弁論が行われた直前の3月13日にも、私服警官が同地の風俗店に潜入するなど取り締まりを強化したことで、鍾岩警察署の前で売春婦たちが抗議活動を行っていた。一言でいえば、風俗街を厳しく取り締まっていた警察署というわけだ。
そんなソウル鍾岩警察署の元署長が、なぜ性売買特別法に反対しているのだろうか。ある韓国メディアがインタビューしている。
それによると、キム前署長は「性売買特別法は違憲であり、売春街は合法化されるべき」と強く主張している。
「これまで、学ぶことができず、やれることがなくて売春婦となった人たちと数多く出会ってきました。彼女たちにとって性売買は生活のための手段。大々的な取り締まりを行って彼女たちに『ほかの仕事をしなさい』と言っても、結局はまた風俗街に戻っていく。最低限の生活費を稼ぎながら、教育を受け、“脱性売買”できるよう手助けする制度が必要だ」
また、性売買特別法が施行されたといっても、現場警察の捜査が十分に行えない現実もあるという。
「私の経験上、風俗店1軒を取り締まるためには、最低でも10人の警察官が必要だ。しかし性売買特別法の施行以降も、警察の人力はまったく増えていない。警察の取り締まりだと気付く目ざとい客は、すぐに下着を身に着ける。彼らが『していない』と言い張れば、処罰する方法がないのです」
実際問題、性売買特別法が施行されたことによって、性売買はより“隠密化”したとの指摘も尽きない。性売買を根絶することができない現実がある以上、合法化するほうが合理的とも考えられるが、はたして。
前へ
次へ