韓国では近年、スイーツブームが巻き起こっている模様だ。
特に昨年は暖かい気候のためいちごの当たり年となり、いつにも増して“いちごマーケティング”が盛んに。日本のコンビニでよく見かけるいちごと生クリームのサンドイッチが初めて韓国のコンビニにも登場するくらいだった。
「いちご」といえば、実は2013年からソウル・明洞を中心に広まって、たびたび世間を騒がせているいちごの和菓子がある。それは、日本でも有名な“いちご大福”だ。
韓国の“いちご大福”ブームを作ったのは、2人の青年だった。仮にアン氏とキム氏としておこう。お店の創業者アン氏は、韓国でたこ焼き屋などを経営してきた人物。一方のキム氏は、いわば大番頭的存在だ。
2人はソウルの人気観光地・明洞でいちご大福専門店「いちご屋」を始めた。
オープンからたった5日でテレビに紹介されるほど、お店は大盛況。
お餅の中にフルーツを入れるという発想を持ち合わせていなかった韓国で、いちご大福はまさに“革命的”な食べ物として流行した。
そのおいしさはもちろんのこと、日本らしいかわいいラッピングが特に女性客の心をつかんだ。
並んで待つのが苦手な韓国人でも、お餅ができあがる時間に合わせて長い列を作る。その風景は現在も続き、日本生まれであるはずの和菓子が、韓国で“名物”とまでいわれる現象が起きているのだ。
しかし、この「いちご屋」の商売繁盛の裏では、アン氏とキム氏の熾烈な争いが繰り広げられていた。テレビ番組で紹介されたおかげでお店は有名になったが、テレビをきっかけに2人の争いが幕を開ける。
番組内では「流行のいちご大福を作るキム氏は、日本人のいちご大福職人の下で修業を積んできた“達人”」と、キム氏を主人公にして取り上げていた。
放送後、視聴者たちは立派な青年が現れたものだと騒ぎ立て、ネットでは「いちご大福をぜひ食べてみたい」という書き込みがあふれる。ところが、この放送からわずか一週間で“達人”のはずのキム氏は、アン氏から突然契約を解除され、店を追い出されるハメになってしまったのだ。
そんなキム氏の哀れな事情が今度は報道番組で“いちご大福の涙”というタイトルで紹介される。
日本で教わってきたいちご大福の技を同業者に奪われ、投資金も返してもらえず失業者となった達人のストーリーは、当然のごとく視聴者たちの同情を集め、逆にアン氏には非難が相次いだ。
少なからず社会的に波紋を呼んだ2人のいちご大福職人による仁義なき闘いは、キム氏が新しいお店を構えたことでさらにエスカレート。お互い「我こそがいちご大福の元祖」と言い張って、その座を譲ろうとしない。
ただ、その騒動から約2年が経ち、最近やっと事の真相が明らかになった。
実は、視聴者たちはキム氏に騙されていた。検察の調査やアン氏の証言によると、テレビで紹介された話はほぼ嘘で、キム氏には日本人師匠など存在しない。むしろ、いちご大福の作り方を一から教えたのはアン氏だったという。
にもかかわらず、テレビ番組内では「日本で修行した」と誇張するキム氏に怒ったアン氏は、キム氏に投資金を返して契約を解除するべく交渉するも、キム氏は拒否。
結局、2人の立場は平行線をたどり、キム氏は店を追い出されたわけではなく、自ら放り投げて飛び出したという。
韓国ではこのような騒ぎを巻き起こしたいちご大福。
1個2500~3000ウォン(約250~300円)とやや高めの値段だが、おいしい高級お菓子として認識されているのは間違いない。
いちご大福を取り扱うお店は全国的に次々と増え、フルーツ入り餅が定着しつつある。最近の韓国の若者たちは日本の食べ物について好意を持っているとはいえ、果たして流行の移り変わりが激しい韓国で、いちご大福人気はいつまで続くか。
個人的には、同情を誘う偽りの涙はもちろん、元祖と本家を争う無意味な競争もなく、食べる人・作る人みんなを笑顔にさせるお菓子として、韓国で長く愛され続けてほしいと思うが……。
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