日本で医師になる道筋は、国が認可した医学部・医科大学を卒業し、医師国家試験に合格し、さらに2年間の卒後臨床研修を受けるというもの。韓国でも医師になるための道筋は日本と似ているが、大学卒業後などに兵役があるため、さらに2年ほど余計に時間がかかる。
やはり医師になるには、かなり高いハードルを超える必要があるわけだ。
そんな韓国で近年、一体誰が執刀医なのかもわからない“幽霊手術”が横行している。
韓国で幽霊手術の担い手は、「オーダリー(orderee)」と呼ばれている人たち。もともとは、医師の指示(order)を受けて働く男性看護師や看護助手を指す俗語だった。しかし、彼らのなかから医師を差し置いて直接メスを握る人物が出てきたため、次第に無免許執刀医を指すようになったという。
不法手術の担い手は看護師ばかりではない。なんと、医療機器を納品している業者の中にもいるそうだ。
実際に2015年7月には、江南地域のとある整形外科の院長が医療機器業者を雇用して整形手術を行っていたことが発覚。そのオーダリーは整形手術歴が20年にもなり、業界内では「優れた腕前の人物」として知られていたという。
同病院では彼を使って年間12億円を稼いでいただけでなく、彼を講師に、免許を持った医師を対象とした講演会まで行っていたというのだから驚きだ。
現在、韓国には、少なくとも500~1000人のオーダリーがいるといわれている。
オーダリーによる不法な幽霊手術が行われている背景には、病院の拝金主義があるといえるだろう。オーダリーの月給は40~50万円ほどで、韓国の勤務医の平均的な月給60~70万円よりお得。その差額は、病院側の収入になる。
また、急増する整形手術の需要を受けて、無理な手術日程を消化するために幽霊手術が行われるというケースも少なくない。
周知の通り、韓国は人口1万人当たりの年間手術件数が131件という、世界一の整形大国。年間の整形手術件数は韓国全体で65万件にも上り、最近は目や鼻だけでなく、豊胸手術が年間3万件と急増しているそうだ。整形手術を求める客は増えているのに、執刀医が足らない。そんな需要と供給のスキマに、病院側がオーダリーの起用に走っているというわけだ。
一番心もとないのは、国の医療行政を担当する保健福祉部(日本の厚生労働省に相当)が、幽霊手術が横行する現況を正確に把握できていないことだろう。保健福祉部の関係者が韓国メディアに実情を明かしている。
「全国8万5000の医療機関で起こっていることを、すべて把握するのは難しい。全国の保健所などで実際に取り締まりを強めており、それを総括する役割しかできない」
韓国では整形手術の失敗がニュースになることが増えているが、医師免許を持たないオーダリーによる幽霊手術がひとつの原因になっていることはいうまでもない。一日も早い根本的な解決に期待したい。
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