12月5日(現地時間)、米ホワイトハウスは公式サイトを通じて「国家安全保障戦略(NSS)」を発表した。国家安全保障戦略はアメリカ政府の安全保障・外交戦略の青写真に当たる文書で、政権発足初期や中期に転換点が必要な際に公表されてきた。
これまでは大統領やホワイトハウスの最高位関係者が直接発表し、内容を説明するのが通例だった。
新たな国家安全保障戦略は、ジョー・バイデン前大統領の在任期だった2022年以来、3年ぶりに出されたもので、ドナルド・トランプ大統領2期目の対外構想をうかがい知ることができるとして、世界各国が注目していた。米国防総省はこの国家安全保障戦略を基礎に、今後「国家防衛戦略(NDS)」を策定する。
ただ、今回は前触れもなく静かに公開された。新たな国家安全保障戦略で最も多くの分量が割かれた地域は「アジア」だった。
報告書は冒頭から中国を念頭に置き、不快感をあらわにした。すなわち「アメリカは30年以上にわたり、中国に対して誤った前提を抱いてきた」とし、「アメリカ市場を中国に開放し、米企業の対中投資を奨励し、製造業を中国にアウトソーシングすれば、中国は規範に基づく国際秩序に編入されると考えてきた」と批判した。国家安全保障戦略は「これは実現しなかった」とし、「中国は豊かで強大になり、その富と権力を軍事的利益のために用いてきた」と分析した。
そのうえで、中国が達成した経済的成果についても記述した。中国の地位を認めつつ、「今後は中国との経済関係を再調整し、アメリカの経済的独立を回復するため、相互主義と公正性を優先する」と明らかにした。
国家安全保障戦略は「中国との貿易は均衡が取れていなければならず、敏感でない分野に集中すべきだ」と指摘した。中国とのイデオロギー的・安全保障的対立よりも、経済関係に重点を置いた姿勢だ。
その後は「中国」という表現ではなく、「半球外の競争国」という言い回しを用いた。バイデン政権の国家安全保障戦略では、中国を米国が直面する「最大の挑戦」と位置づけていた。
新たな国家安全保障戦略は、アジアにおいて軍事的脅威を抑止すべきだとして、半導体生産および東北アジアと東南アジアを分ける要衝である台湾に焦点を当てた。特に「軍事的優位を維持して台湾紛争を抑止することが優先事項だ」とし、「第1列島線のどこであっても侵略を阻止できる軍事力を構築する」と明言した。
列島線とは「島々で連なる鎖」を意味する概念だ。中国では1980年代、当時の海軍司令官だった劉華清が3段階の列島線戦略を打ち出し、アメリカの海洋封鎖戦略を打破しようとした。第1列島線とは、日本の九州、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオを結ぶ海域の支配権を確立する構想である。
ところが、アメリカはこの構想を逆手に取り、第1列島線で中国の太平洋進出を阻止しようとしている。ただし、国家安全保障戦略は「アメリカはこれを単独で行うことはできないし、そうすべきでもない」とし、同盟国による役割分担を強く求めた。そして「アメリカの外交努力は、第1列島線内の同盟国およびパートナー諸国に対し、アメリカの港湾やその他施設へのアクセス拡大、自国の防衛予算増額、侵攻抑止能力の強化への投資を促すことに集中すべきだ」と強調した。
第1列島線内の同盟国は、韓国、日本、フィリピンである。国防費増額を求める対象国として、韓国と日本を名指ししたわけだ。
国家安全保障戦略の発表後、台湾がいち早く立場を表明した。12月6日、林佳龍外交部長は声明で「国家安全保障戦略は、台湾がサプライチェーンおよび地政学的戦略においていかに重要かを指摘し、アメリカが同盟国およびパートナーと協力して台湾の安全を確保することを強調した」と歓迎した。
そのうえで、12月2日にトランプ大統領が署名した「台湾保証履行法」に大きな意味を付与した。「台湾保証履行法」は、国務省が5年ごとに台湾との交流に適用される規定を検討し、改善策を策定するよう求めるもので、また交流に関する「制限指針」を解除するかどうかを判断することも定めている。
アメリカは1979年、中国と国交を樹立する際に台湾と断交した。その後は中国を刺激しないため、高官の台湾訪問を禁じ、台湾との交流は非公開とするなど「制限指針」を適用してきた。
しかし、トランプ政権1期目に米中貿易戦争が勃発して中国との対立が本格化すると、そのタブーは破られた。2022年には、権力序列3位だったナンシー・ペロシ下院議長が台湾を公式訪問した。「台湾保証履行法」が成立すると、12月3日、中国外交部の報道官は「台湾問題は中国の核心的利益の中の核心であり、中米関係において越えてはならないレッドラインだ」と反発した。
同様の主張は、12月8日の外交部定例会見における国家安全保障戦略への見解でも示された。郭家昆報道官は「台湾問題は中国の核心的利益の中の核心だ」とし、「台湾問題をどう解決するかは中国人自身の問題であり、いかなる外部の干渉も許さない」と強調した。またアメリカに対し、「中国と結んだ『一つの中国』原則に対する約束を厳格に順守するよう」求めた。
注目すべき点は、中国が一方的に反発しただけではなかったという点だ。郭報道官は「中米が協力すれば双方に利益があり、争えば双方が傷つく」とし、「相互尊重、平和共存、協力Win-Winが中米の正しい共存の道であり、現実的な選択だ」と述べた。これは、国家安全保障戦略が中国の経済的実体を認め、中国との関係を事業的利益の観点から捉えたことによるものだ。したがって、米国との関係を実利主義的利益に基づいて再定義しようとする中国の立場とも一致する。そのため郭報道官は「対話と協力を強化して意見の相違を管理し、中米関係を安定的かつ持続可能に発展させよう」と呼びかけた。
アメリカが中国を牽制対象と認識している一方で、中国は国家安全保障戦略に「台湾に対する長年の宣言的政策を維持する」と明記された点にも注目した。
これは、独立のような台湾の一方的な地位変更や、中国による台湾への武力侵攻のいずれも排除する立場を意味する。実際、台湾問題における現状維持は、中国の長年の政策基調でもあった。
過去30年以上にわたり、中国の最高指導者たちは鄧小平の路線を踏襲し、「一国二制度」による台湾の吸収統一を目指してきた。しかし台湾では、民進党が長期政権を維持し、これを否定して独立を追求してきたと中国は認識してきた。
ところが、アメリカが台湾問題における現状維持を宣言したことで、中国は歓迎せざるを得なかった。さらに最近、日本の海域や空域で中国が行っている武力示威に対し、アメリカが沈黙している状況も注目を集めている。
12月5日、中国空母「遼寧」が率いる艦隊は日本・沖縄海域に接近し、7日まで沖縄本島を「コの字」形に取り囲むように航行した。8日からは南大東島周辺を「S字」形に包囲するかのように移動し、沖ノ鳥島方向へ南下した。4日間で、遼寧から艦載機やヘリコプターが約140回も離着陸した。
これまでも中国の空母艦隊は、沖縄諸島の南西を通過した後、西太平洋に進出する訓練を続けてきた。しかし今回は、沖縄本島を取り囲むように航行し、台湾と日本の要衝を塞ぐかのような訓練を行った。その過程で、中国軍の艦載機と日本の自衛隊戦闘機が互いを妨害・威嚇する行為も発生した。
このように中国が露骨な武力示威を行ったにもかかわらず、アメリカは12月10日までいかなる立場も示さなかった。このため、国家安全保障戦略の発表以降、アメリカが中国の「地域覇権」を一定程度認めた結果、こうした武力誇示を黙認しているのではないか、という見方まで浮上している。
(記事提供=時事ジャーナル)
前へ
次へ