韓国では現在、“お一人様族”というキーワードが幅を利かせている。
“お一人様族”とは、他人と関わるのではなく自分だけの余暇時間を過ごす人たちのこと。若者を中心に、一人を選ぶ人が増えているようだ。「一人飯」「一人酒」「一人旅行」「一人映画」にはじまり、「一人キャンプ」「一人コーヒー」などという言葉も生まれた。要するに、なんでも一人で楽しみたい人が増えているわけだ。
韓国経済界もこの流れに乗った商品展開を行っていて、お一人様用のラーメン店や焼肉店も増えているという。お一人様族のためのコンビニ弁当は多様化・高級化もされており、仁義なきコンビニ弁当戦争まで起こっている始末だ。“お一人様族”ブームにおける最も象徴的な商品だろう。
就業サイト「saramIN」が1593人を対象に行ったアンケート調査によると、自分自身が“お一人様族”に該当すると答えた人は52.5%に上るという。
彼らは“お一人様族”になった理由について、「自分が望むようにできるから」(75.9%)、「一人だけの時間が保証されるから」(66.4%)、「経済的な負担が少ないから」(36.7%)などと答えている。
では、“お一人様族”は一人で何をしているのだろうか。1位は「食事」(95.3%)となっており、自分が希望する時間、希望する場所で、希望する食事をとることを楽しんでいるそうだ。
その他、「ショッピング」(84.3%)、「運動」(83.6%)、「映画鑑賞」(74.7%)、「旅行」(59.7%)などが上位にランクインしてるが、それにしても、なぜ“お一人様族”が増えているのだろうか。
真っ先に挙げられる理由は、慢性的な不景気、そして未婚者の増加だろう。
韓国の未婚率は1960年の2.1%から、2010年には39.9%(いずれも韓国統計庁)にまで上昇。統計開発院の「韓国の社会動向2015」を見ても、未婚率は30~34歳38.5%、35~39歳19.1%となっており、1995年から2倍以上も上がっている。
自国を“ヘル(=地獄)朝鮮”と揶揄する韓国の若者たちが「3放世代」(恋愛、結婚、出産を放棄した世代)、「5放世代」(3放+人間関係、マイホームを放棄した世代)などと呼ばれていることからも、“結婚離れ”が加速していることは間違いない。それどころか最近は“結婚離れ”が、女性嫌悪や男性嫌悪にまで発展しているというのだから深刻だろう。
しかし、前出のアンケートによると、“お一人様族”が増えた原因を「不景気」と答えた人は19.8%、「未婚者の増加」と回答した人も12.1%にとどまった。
そもそも「ウリ(私たち)」という言葉を多用する韓国は、仲間意識や身内意識を大切にする文化がある。それを踏まえると“お一人様族”の増加は、ある種の価値観の転換が起こっているととらえたほうが正確かもしれない。
実際に、“お一人様族”が増えた原因として最も多くの人が挙げたのは、「個人主義的な価値観の拡散」(44.1%)だった。
ただ、“お一人様族”の増加は、深刻な社会問題に発展するという指摘もある。最も危惧されているのは、韓国の未来である。というのも、韓国は数年後に“人口絶壁”に直面するといわれており、人口絶壁に至ると15~64歳の生産年齢人口が激減し、大々的な消費萎縮が起きるとされる。今年で生産年齢人口が最高値に達した韓国は、これから本格的な人口絶壁を迎えるらしい。
ちなみに、朴槿恵大統領も“お一人様族”といえるかもしれない。母が凶弾に倒れ、父も暗殺され、弟や妹とも仲たがいし、夫も子どももいない天涯孤独の“お一人様族”である。
その孤独に付け込んだのが崔順実(チェ・スンシル)といわれいてるが、親友である崔順実氏が逮捕されたことで、「一人飯」や「一人酒」の日々を送っている可能性もあるだろう。歴代最低となる支持率5%となっても退陣する気はなさそうだが、国民たちの批判は収まりそうにない。
いずれにしても“お一人様族”が増えたことで、経済界だけでなく新たな価値観が生まれている韓国。個人的には、韓国の仲間意識や身内意識を大切にする文化がなくなってほしくないが、はたして。
(文=慎 武宏)
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