国民の務めを破棄!? 韓国ゴルフ界のスター選手が巻き込まれた兵役問題

2016年01月06日 社会
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韓国ゴルフ界のスーパースターが告発されるという衝撃の事件が起きた。

告発されたのは、アメリカの男子ゴルフツアーで活躍するペ・サンムン。2008年と2009年に韓国ツアーの賞金王に輝き、2010年から日本ツアーに本格参戦。2011年には賞金王のタイトルを獲得している。さらに2012年から活躍の場を移したアメリカ・ツアーでも、通算2勝。日本で言うところの石川遼や松山英樹のような存在だ。年齢的にも脂の乗ったプロゴルファーで、今季は初のメジャータイトル獲得も期待されていた。

そんな彼がなぜ、告発されたのか――。原因となったのは、兵役問題だ。

そもそも韓国では、成人男子に約2年間の兵役の義務が課せられている。ただ、大学や専門学校に籍を置いている場合や専門的な職種の場合は、最大で26歳まで入営猶予が設けられており、さらに個人的な理由などで2年間先延ばしすることもできる。

原則的には満30歳の誕生日を迎える日までに入隊することが義務付けられているが、28歳前後がタイムリミットとなるケースが多い。K-POPアイドルたちが兵役に服すのも、ちょうどこの頃。最近では、東方神起のユンホが入隊している。

また、外国で永住権を得て当該国に1年以上居住していれば“国外旅行許可”が下り、入隊時期を延長することも可能だ。ペ・サンムンは成均館大学に籍を置くことで入営を延期し、2013年1月にはアメリカの永住権も取得。国外旅行許可も得て選手生活に専念してきたが、もはや兵役の先延ばしが難しくなっていた。

というのも、ペ・サンムンは兵務庁に国外旅行許可の3年延長を申請していたが、昨年末に兵務庁がその申請を却下。

韓国の兵役法では、1年のうち6カ月以上韓国に滞在したり、3カ月連続して韓国に滞在した場合は国内居住者と見なされ、国外旅行許可の取得も難しくなるのだが、兵務庁は彼が永住権取得後も韓国ツアーへの出場や大学院への進学手続きなどで133日間韓国に滞在したこと、韓国国内でも所得を得たことなどを理由に申請を却下したという。

国外旅行許可の延期が認められなければ韓国に戻らねばならず、2014年6月に満28歳を迎えた彼は、直ちに入隊手続きを始めなければならない。そこで兵務庁は、2015年1月31日までに帰国するよう通告していたが、これに従わなかったため、彼の本籍地である大邱地方兵務庁が兵役法違反で告発状を提出することになったというわけだ。

ペ・サンムンにとって悩ましいのは、どの道を選んでも苦渋の日々が待ち受けていることだろう。

帰国して2年間の兵役に服すことになればアメリカ・ツアー参加はもちろん、彼が目標にしてきた2016年リオ五輪出場も難しくなる。それどころが、一般兵として徴兵された場合は、クラブの代わりに銃を握らねばならない。2年のブランクは、除隊後の選手生活にも影響が及ぶ恐れがあるだろう。兵役は国民の務めだとわかっていても、おいそれと入隊できない事情があるわけだ。

また、韓国籍を放棄してアメリカで選手生活を続けるという選択肢もあるが、それは禁断の手。何しろ韓国では、兵役の不法回避が脱税や麻薬常用と並んで「国民が最も反感を抱く3大犯罪」のひとつとされているのだ。

兵役回避=国民の務めを放棄したと見なされ、“裏切り者”のレッテルが付いて回るだけでは済まされない。2000年代前半に兵役回避のために韓国籍を放棄した人気歌手ユ・スンジュンのように、入国禁止名簿にリストアップされてしまう可能性もある。つまり、兵役に服さなければ選手生命どころか、社会的にも抹殺されてしまうというわけである。

まさに窮地に追い込まれた韓国ゴルフ界のスーパースターだが、2月5日現在、依然としてアメリカに滞在している。

「133日間韓国に滞在したというが、いずれも特殊な事情によるもので、実質的には米国で生活していた」として、国外居住者として認めるよう行政訴訟を起こしている。

そして、その決着がつくまで韓国に戻るつもりはなく、引き続きアメリカ・ツアーに参戦するとしているが、はたして……。

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