犯人は懲役30年でも今なお議論絶えない「江南通り魔事件」の闇

2021年08月14日 社会
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2016年5月、韓国ソウルの江南駅で起こった無差別殺人をご存知だろうか。

犯人のキム氏(35歳)は当時、江南駅近くにあるトイレで22歳の女性を10数回に渡って凶器で刺して殺害。キム氏と被害女性にはなんら関係がなかったこと、また犯行動機として「数日前に女性に吸殻を投げつけられた」と話していたことから、韓国では“女性嫌悪(ミソジニー)”による犯行として大きな注目を集めていた。

「江南通り魔殺人事件」と呼ばれるこの事件の判決だが、韓国の大法院(日本の最高裁に相当する)は、殺人容疑で起訴されていたキム氏(35歳)に懲役30年を言い渡している。

無期懲役や死刑を望む世論が多かったため、韓国ではこの判決が大きな話題を呼んだが、それ以上に注目を集めたことがある。

女性嫌悪による犯行かどうかという点だ。

裁判所は、「キム氏は女性を嫌悪したというよりも、男性を怖がる性格で、被害意識から相対的に弱者である女性を犯行の対象にした」と判断。女性嫌悪による犯行とは認めなかったかたちだ。

それに対して韓国ネット民からは、「最後まで女性嫌悪による犯罪ではないと言い張るのが物悲しい」「女性だけを対象にしているのだから、女性嫌悪そのものではないか。酒を飲んで運転したのに飲酒運転ではないと言っているようなもの」といった声も上がっている。

実際に裁判所の判断を受け入れず、「江南駅“女性嫌悪”殺人犯、懲役30年確定」(『ニューシス』)などと報じる韓国メディアもあったほどだ。

*編集部注:写真はイメージであり事件とは一切関係ありません。

それほど韓国では、女性嫌悪が社会的な問題となって久しい。

もともとはネット世界の話であったが、現実世界にも表面化しており、その際たる悲劇が「江南通り魔殺人事件」だとされてきた。そんな女性嫌悪の風潮は韓国文学界にも及んでいるそうで、若手詩人がその実態を暴露して大きな議論を巻き起こしたこともある。

もちろん、対策がまったくとられていないわけではない。

例えばソウル市は「女性安心特別市」として、さまざまな女性政策を実践。昨年はデートDV専用の相談窓口を設けており、さらに今年は市が民間団体と連携して無料法律・医療支援を試験的に実施するとか。デートDVやデジタル性犯罪の撲滅キャンペーンを推進していくそうだ。

それでも、すでに深刻化した韓国の女性嫌悪問題は、非常にセンシティブだ。「江南通り魔殺人事件」は「女性嫌悪による犯罪」と裁判所は判断しなかったが、未だに議論は尽きない。一刻も早い改善策が求められている。

文=慎 武宏
 

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