予想されていた大統領選での保守の“惨敗”…「李在明の助っ人」のようだった“国民の力”と保守再編を導く2人

2025年06月07日 政治 #時事ジャーナル
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韓国の大統領選が終わった。

得票率は、李在明(イ・ジェミョン、共に民主党)候補が49.4%、キム・ムンス(国民の力)候補が41.2%、イ・ジュンソク(改革新党)候補が8.3%、クォン・ヨングク(民主労働党)候補が1.0%だった。

李在明候補とキム・ムンス候補の差は約8ポイント。キム・ムンス候補の惨敗だ。

なぜキム・ムンス候補は惨敗したのか。あるいは、李在明候補はなぜ圧勝したのか。

李在明候補が圧勝した理由の9割以上は、「国民の力」と保守勢力が手助けしたためだ。結論からいえば、12・3非常戒厳以降、李在明候補の「事実上の選対委員長」は3度交代したといえる。

李在明候補の「最初の選対委員長」は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領だった。国民すべてが驚愕した12・3戒厳を実行した。

ハン・ドンフン前「国民の力」代表を含む主要政治家たちを、携帯電話の電波すら届かないB-1バンカーに閉じ込めようとしたという疑惑を受けている。その後も尹錫悦前大統領は、反省するどころか、「逮捕の『た』の字も口にしていない」などの虚言を繰り返した。

尹錫悦前大統領
(写真=時事ジャーナル)尹錫悦前大統領

「李在明の助っ人」のようだった尹と「国民の力」

李在明候補の「2番目の選対委員長」はクォン・ヨンセとクォン・ソンドンの、いわゆる「クォン・クォン指導部」だった。

12・3戒厳までは、これは「尹錫悦個人」の狂気の行動と片づけることもできる。しかし、「勢力としての国民の力」は違ったはずだ。その後、「弾劾に賛成した」ハン・ドンフン代表(当時)を追い出し、賛成票を投じたキム・サンウク議員らを裏切り者扱いした。

組織的に「国民の力」は、党レベルで「違法戒厳と尹錫悦擁護」の立場を貫いた。この時点から国民の大多数は、「国民の力は民主主義を守ることに関心がない集団だ」と認識するようになった。「国民の力」の指導部は極右ユーチューバーらの扇動に乗り、「不正選挙陰謀論」を公に否定できない集団に成り下がった。

李在明候補の「3番目の選対委員長」は、ハン・ドクス候補とキム・ムンス候補だった。もし少しでも「共に民主党」に勝つ気があったなら、「国民の力」の大多数は大統領候補の予備選で「弾劾に賛成した候補」を支持すべきだった。

広い意味では、ユ・スンミン元議員、オ・セフンソウル市長、ハン・ドンフン前代表だ。オ市長とユ元議員は出馬を断念した。残ったのはハン前代表だけだった。

「国民の力」の指導部は、多者構図の中でハン・ドンフンが1位になるのを恐れ、決選投票制を導入した。「国民の力」の予備選は8人→4人→2人→1人へと絞られる方式だった。ハン・ドンフンは8人の中で生き残り、4人の中でも生き残って決選に進出した。勢いに乗っていた。

このとき、クォン・ヨンセ-クォン・ソンドンの指導部は「予備選の操作」を行った。党員ですらない部外者である「ハン・ドクス一本化マーケティング」に熱を上げた。明白な「反党行為」だ。

ハン・ドクス権限代行は、3者仮想対決でも2者仮想対決でも、キム・ムンス候補との支持率の差はほとんどなかった。大多数の世論調査で「誤差範囲内」にすぎなかった。「国民の力」の指導部は、候補登録直前にキム・ムンスの資格をはく奪し、未明3時に告示を出してハン・ドクス候補に差し替えるという暴挙を行った。「選挙で負けたいのか」と言いたくなるような指導部だった。

キム・ムンス候補
(写真=時事ジャーナル)キム・ムンス候補

李在明候補は5月10日、慶尚南道・昌寧郡の演説で、故・金泳三(キム・ヨンサム)元大統領の言葉を引用して、「黙っていれば相手が勝手に転ぶ。それで我々が勝つ」と話したほどだ。

まとめると、尹錫悦前大統領が「李在明候補の総括選対委員長」役を担い、クォン・ヨンセ、クォン・ソンドン、ハン・ドクスが共同選対委員長を務めたようなものだ。彼らが大統領選惨敗の真の主役といえる。

6・3大統領選の注目点のひとつは、イ・ジュンソク候補の活躍だった。

最終得票率は8.3%だった。イ・ジュンソク候補の成果と限界を評価してみよう。

まずは「成果」面から見る。6・3大統領選は1987年の民主化以降、9回目の大統領選だ。韓国は強固な二大政党制国家だが、1987年の金泳三、金大中(キム・デジュン)候補を除いて、第3の候補が5%以上を得票した例は計9人だけだ。

その9人は再び2つに分けられる。5~10%の得票者と10%以上の得票者だ。

まずは5~10%得票者を見てみよう(カッコ内は選挙年):キム・ジョンピル(1987年)8.1%、パク・チャンジョン(1992年)6.4%、ムン・グクヒョン(2007年)5.8%、ユ・スンミン(2017年)6.8%、シム・サンジョン(2017年)6.2%の計5人だ。

次に10%以上を得票した第3候補は、チョン・ジュヨン(1992年)16.3%、イ・インジェ(1997年)19.2%、イ・フェチャン(2007年)15.1%、アン・チョルス(2017年)21.4%の計4人である。

イ・ジュンソク候補は5~10%区間を得票した政治家になった。名前を挙げられた政治家は皆、名のある有力者ばかりだ。イ・ジュンソク候補は1987年以降で6番目の「5~10%の第3候補」になった。第3の候補が大統領選で5%を超えること自体が「大きな成果」であり、政治的実績だ。

イ・ジュンソクとハン・ドンフン、保守再編を導く双頭

「限界」も存在する。まず、テレビ討論第3回で女性の身体部位と絡めた、いわゆる「箸発言」論争である。第3回討論でイ・ジュンソク候補は、女性の身体部位に2度言及した。意図的で準備された発言だった。

約1000万人が見守ったテレビ討論が突如「R指定」状態になった。翌日、論争が起きて謝罪を求める声が高まると、イ・ジュンソク候補は「嫌悪の烙印を押す集団リンチ」に断固として対抗するとし、「人格攻撃」であり、「自分の質問のどこに嫌悪があるのか」と反論した。

イ・ジュンソク候補
(写真=イ・ジュンソク公式HP)

討論会の2日後、主要メディアのすべてが社説でイ・ジュンソク候補の発言を批判した。『中央日報』の社説タイトルは「イ・ジュンソクの女性嫌悪的な低俗発言、正気なのか」だった。『韓国日報』の社説は「公共の場での性暴力的発言、イ・ジュンソクは国民を侮辱した」だった。これらの社説が象徴するように、イ・ジュンソク候補の発言に問題意識を感じたのは、「進歩系」有権者だけではなかった。

「箸発言」も深刻だったが、その後の対応はさらに失望させた。明らかに「政治的打算」で、女性の身体部位と「箸」という刺激的な言葉を使ったのだろう。聞いた女性たちが感じたであろう痛み、不快感、侮辱にまったく共感せず、配慮もなかった。いわゆる「箸発言」は今後も多くの人々の記憶に重く残るだろう。

6・3大統領選は惨敗だったが、保守政治にとっては2つの成果が残った。

1つ目は、保守の「次世代リーダー」2人を発掘したことである。ハン・ドンフンとイ・ジュンソクであり、共通点は「ファンダム(熱狂的支持層)のある政治家」だ。2000年代以降、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、文在寅(ムン・ジェイン)、朴槿恵(パク・クネ)、李在明(イ・ジェミョン)という大統領当選者たちも皆、「ファンダムのある」政治家だった。ニューメディアの比重が増し、「ファンダム」は大統領候補級の政治リーダーにとって必須条件となっている。

2つ目の成果は皮肉なことに、「大統領選惨敗」という政治的資産を残したという点だ。惨敗も資産である。進歩と保守の1対1対決で、保守がここまで惨敗したのは初めてだ。1997年の大統領選で「国民の力」系のイ・フェチャン候補は、金大中候補に1.5ポイント差で敗れた。2002年の大統領選でも、イ・フェチャン候補は盧武鉉候補に2.3ポイント差で敗れた。2度とも1~2ポイントの惜敗だった。

ではなぜ惨敗が政治的資産なのか。それは「評価の根拠」が生まれたからだ。尹錫悦前大統領と決別しなければ惨敗する。不正選挙陰謀論に浸れば惨敗する。「弾劾に反対した」候補を出せば惨敗する。中道拡張のキャンペーンをしなければ惨敗する――という教訓が残された。

来年の地方選、保守「三国志」の第1幕

保守はどう再編されるか。

「3大プレイヤー」に注目すべきだ。ハン・ドンフン、イ・ジュンソク、親・尹錫悦系国会議員たちである。彼らを中心に、2028年の総選挙まで「保守政治三国志」が繰り広げられるだろう。

ハン・ドンフン前代表
(写真=国会写真記者団)ハン・ドンフン前代表

第1ラウンドは、党大会開催をめぐる党権争いだ。ハン・ドンフン前代表の出馬が有力視されている。最終決選でハン・ドンフン候補は、キム・ムンス候補に「党員票」で22ポイント差、「支持層世論調査」では4ポイント差で敗れた。代表に再び出馬すれば当選の可能性が高い。

仮に党大会を通じてハン・ドンフン代表体制が発足すれば、真の試練は2026年6月の地方選挙となる。2026年の地方選挙は、李在明政権の執権1年目で、基本的に与党に有利だ。

地方選でハン・ドンフン前代表は3つの難関を突破しなければならない。第1に、得票力のあるソウル市長と京畿道知事候補を立てなければならない。

第2に、改革新党のイ・ジュンソク議員との関係だ。6・3大統領選でイ・ジュンソク候補は、20代男性の約37%、30代男性の約26%の得票力を証明した。ハン・ドンフン前代表は20・30世代の男性票を巧みに奪うか、選挙連携を検討する必要がある。選挙は「有権者連合」によってのみ勝利できるゲームだ。

第3に、親尹勢力の抵抗だ。2026年地方選における公認権をめぐる争いはもちろん、「ハン・ドンフン揺さぶり」との戦いが待っている。

2026年の地方選は、「改革新党」にとって「チャンス」であり「危機」でもある。地方選では「広域自治体首長候補」が最も重要だ。大統領選は人物中心、総選挙は勢力中心の選挙といえる。広域自治体首長選はその中間にあたる。

2010年6月の地方選を控えた年初の世論調査で、当時の「進歩新党」のノ・フェチャン前議員がソウル市長候補に出馬すれば支持率が25%前後に達していた。しかし選挙が本格化すると支持率は「民主党」に集中し、最終得票率は3%にも満たなかった。

ノ・フェチャン前議員は「大統領候補級」の人物だったにもかかわらず、結局3%を超えられなかった。もし2026年の地方選でイ・ジュンソク議員やチョン・ハラム議員が広域自治体首長候補として出馬すれば、類似の状況に直面する可能性がある。

尹錫悦前大統領は、進歩層の支持者からはもっと嫌われるだろう。しかし、尹前大統領が実際に「壊滅させた」陣営はむしろ保守だ。進歩陣営には、むしろ「圧勝」という贈り物を与えた。尹前大統領は保守政治を壊滅させた「ヴィラン(悪役)」だった。

このヴィランを追放し、決別することこそが、保守政治再編の出発点だ。

(記事提供=時事ジャーナル)

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