韓国人は愛国心が強いことで知られる。国家の威信をかけたスポーツの舞台では、その愛国心が時に大きな成果を生む原動力にもなっているだろう。一方で、国歌斉唱や国旗掲揚などのいわゆる“国民儀礼”に対して厳しすぎる側面も。その厳しさを知らなかった外国人選手が突然の解雇を受けたこともあった。
舞台は、韓国プロバスケットボール・リーグのKBL。
2015年3月20日、昌原(チャンウォン)に本拠地を置き、LGエレクトロニクスがスポンサーになっている昌原LGセイカーズが、チームの大黒柱であるアメリカ出身のデイボン・ジェファーソンを緊急解雇したのだ。
LGセイカーズは当時、リーグ戦4位でプレーオフに進出しており、その中心選手がジェファーソンだ。レギュラーシーズンでは平均22得点を記録して得点王にもなっている。
そんなチームの大黒柱が大事なポストシーズンの最中に解雇されるきっかけとなったのは、日本では考えられない理由だ。
同18日の試合前に会場に流れる韓国国歌である愛国歌斉唱の際、ジェファーソンはストレッチをしながら体をほぐしていたのだが、この態度に「無礼だ」と非難集中。メディアやファンから厳しい声が上がった。
翌19日に本人が謝罪会見を開いたが、その一方で自身のSNSに両手で中指を立てている写真をアップしていたことが発覚し、さらに非難の的に。ジェファーソンは「韓国文化を無視したのではない。国歌が流れたときに痛みを感じたのでストレッチしただけ」と釈明したが、結局、昌原LGセイカーズが解雇を発表する事態になったわけだ。
LGセイカーズ側は解雇通告に当たり、「愛国歌の演奏中にストレッチしたから解雇するわけではない。今までの彼の不適切な行動を加味して下した」と説明。試合中に携帯電話をチェックしたり、自身のSNSに歓楽街で女性と撮った写真や下半身裸でベッドに横たわる黒人女性の写真をアップしてきたことなども問題視しての決断だったとしているが、“愛国歌ストレッチ”が解雇の決め手になったことは間違いないだろう。
もっとも、裏返せば大事な時期にチームの大黒柱を手放さなければならないほど、韓国では“国民儀礼”が過剰に重要視されていることがわかる。
過去にもサッカー韓国代表のキ・ソンヨンが、Aマッチ前の国歌斉唱時の敬礼を右手ではなく左手で行っていただけで非難されたこともあるほど、韓国人は“国民儀礼”に敏感なのだ。今回のジェファーソンの行いも“愛国歌ストレッチ”と揶揄され、「LGセイカーズの決断は正しい。ほかの外国人選手にも十分なアピールになる」と拍手を送る声も多い。
一方で、外国人にまで韓国愛を強要するのはいかがなものかという声も。韓国の一部ネット民の間では、「あれで解雇? マジで韓国の愛国主義はひどすぎる。逆に韓国の選手が日本に行ってジェファーソンと同じことをすれば、“よくやった”と褒めるくせに」と、行きすぎる自国の愛国主義を嫌味たっぷりで皮肉る声も上がっている。
ちなみに韓国ではプロバスケットボールだけではなく、プロ野球でもすべての公式戦で国歌斉唱が行われているが、アメリカのNBAやMLBに倣った慣例だといわれている。プロサッカーのKリーグでは行われず、プロバレーボールリーグのVリーグでは開幕戦とオールスター戦のみ行われる程度。アメリカに倣った慣例でアメリカ人選手が解雇されるのだから、それもまた皮肉だ。
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