10月下旬のことだ。とある日本メディアの記事が目を引く。こんなタイトルだった。
「巨人・オコエがイ・スンヨプ臨時コーチに大興奮『聞きたいことは山ほどある』秋季キャンプで指導熱望」
報じたのは『スポーツ報知』。読売新聞グループの系列社だ。つまり、読売ジャイアンツと同じルーツを持つ。よく「機関紙」とも呼ばれる。そんな同紙の記事は、“アジアの大砲”と呼ばれたイ・スンヨプが巨人の秋季キャンプで臨時コーチを務めるというニュースに、オコエ瑠偉が大きな期待感を示したという内容だった。
オコエは「削っていない宝くじ」のような存在だった。優れた身体条件（185cm・90kg）を誇り、素質も秀でている。まさに5ツールを備えた人材だ。だが、まだ“2％”が足りない。特に打撃が問題だった。だからこそ、イ・スンヨプとの出会いが注目された。
ところが問題が起きた。予想しなかった状況だ。期待に溢れたコメントから1カ月後、突然の球団発表が出た。オコエを自由契約で放出するというものだ。
一体何があったのか。ひとまず外見上はクールだ。「オコエ選手も当球団もともに、オコエ選手が海外の野球リーグなど他球団でプレーできるチャンスを設けたほうが本人にとって良いとの結論に達し、双方合意の上で保留者選手名簿に掲載しないこととし、オコエ選手を自由契約選手にいたします」というのが読売の発表だ。
これに『OSEN』は「“偉大なイ・スンヨプ”との出会いを熱望した巨人の有望株は、なぜ急にチームから追い出されたのか」と題して注目している。
実のところ、選手側の問題であれば任意引退で処理される。その場合、前所属球団の同意なくして移籍は不可能となる。ただ、巨人は自由契約でオコエを放出した。ある程度の「好意」が作用したという意味だ。阿部慎之助監督も、オコエの退団発表時にコメントを伝えていた。
“円満な別れ”であることを強調する説明だが、そんなはずがない。健全な20代の有望株だ。何の理由もなく、突然こんなことが起こるはずがない。まして彼は秋季キャンプのリストにも含まれていた。“切る”選手であればわざわざそうする必要はないのに、ということだ。
いくつかのメディアが触覚を尖らせる。そして、もっともらしい推論がいくつか登場した。大筋はこんな内容だ。
阿部監督が秋季キャンプを意欲的に準備した。不振だった今季を反省し、来季で巻き返すために一生懸命やろうという覚悟が込められた。親友のイ・スンヨプを臨時コーチとして招いた。
そして、名前が生まれた。「地獄の秋キャンプ」という別称だ。巨人ファンにとっては、長嶋茂雄監督時代の「地獄の伊東キャンプ」を想起させる。当時は早朝から夜まで、苛酷な練習が選手たちに課された。
ただでさえ、阿部監督はスパルタ式でよく知られている。二軍監督時代の逸話もあり、大学生に敗れた選手に“罰走”を命じたこともあった。
こうしたやり方が秋季キャンプの序盤から進行された。そこに自由奔放なオコエが“ぶつかった”というのが周辺の関係者の推測だ。
オコエは一応、キャンプには参加していた。しかし、練習3日目から姿が見えなかった。待ち焦がれたイ・スンヨプとの出会いもあったはずだが、忽然と姿を消してしまった。
キャンプだけではない。ファンフェスタや、納会ゴルフ、納会など、その後の球団の公式イベントにも姿を現さなかった。あるメディアは「失踪説」を報じたりもした。
こうした一連の過程の末、チームを去ることになったとみられる。ただ、球団も監督も静かに収拾させようという意図が見える。むやみに事を大きくして得るものはないからだ。だから任意引退ではなく、自由契約という方式を選んだという解釈もできる。
オコエは父がナイジェリア人、母が日本人である。高校時代から甲子園大会のスターとして名を馳せた。
プロ初のチームは東北楽天ゴールデンイーグルスだった。2016年にドラフト1位で入団した。契約金8000万円を受け取った。高卒ルーキーとして開幕戦エントリーにも入った。
しかし、プロの壁は高かった。一軍と二軍を行き来する日々が続き、何回も“話題の人物”としてさらされた。髪の毛の染色、（スーツではない）私服姿、高級外車の利用など、外部から冷たい視線を浴びた。
そんな折、現役ドラフトを通じて2023年に巨人へ移籍した。当時は原辰徳監督も期待のコメントを伝えたが、2024～2025年も苦しいシーズンだった。それぞれ出場は68試合、61試合のみで、打率も0.261、0.246。ホームランは3本がすべてだった。
巨人移籍後には、暴力団関係者が主催する宴席に出席したニュースが報じられ、オンラインカジノをしたとして検察の調査を受けた。これにより球団の懲戒処分を受け、社会奉仕活動などを行っていた。
イ・スンヨプへの期待を表しながらも巨人を去ったオコエ。今度はポジティブなニュースをプロ野球ファンに届けることができるだろうか。
（記事提供＝OSEN）
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