日本・石川県産の最高級ブドウ「ルビーロマン」が韓国で栽培されているとのことで、波紋が広がっている。だが、日本と韓国の間にはブドウに限らず、同じような果物の議論がある。
代表的なのは、イチゴだ。日本のイチゴが韓国で無断で改良されていると、2018年に問題となった。
きっかけは日本の読売新聞が2018年12月18日付で報じた内容だ。同紙によれば、日本のイチゴ「とちおとめ」が韓国で勝手に他の品種と交配され、新品種として出回り、香港などに輸出されている。
農林水産省は、韓国産イチゴの9割以上は日本の品種を交配して生産されたものとしており、日本のイチゴ業界が5年間で最大220億円分の輸出ができなかったと推計したそうだ。
この記事は当日すぐに韓国でも報じられた。報じたのは、韓国の一般紙『ソウル新聞』だ。
『ソウル新聞』は12月18日付けで、「“韓国イチゴの元祖は日本”…日本、農産物の無断複製に対策を準備」というヘッドラインをつけて、読売新聞が報じた内容を詳しく伝えた。反論などかあったわけではないが、これが事実なら今後、新たな論争の火種になるかもしれないという懸念を抱かせた。
というのも、そもそも韓国でもイチゴはポピュラーな果物として親しまれており、近年はスイーツブームで“いちご大福”が注目を集めたこともある。
韓国でいちご大福を流行らせた2人が「我こそがいちご大福の元祖」と言い張ってもめるという、なんとも見苦しいお家騒動もあったが、それだけイチゴが果物の中でも人気があると言えるだろう。
そんな韓国産イチゴが最近は輸出面でも絶好調。韓国農水産食品流通公社が発表した2016年のイチゴ輸出額は、3244万9000ドル(約36億5000万円)にもなるという。
この数字はここ5年間の最高値で、主要輸出国は香港やシンガポールなどで、特にタイやベトナムでは韓国産イチゴが“プレミアム果実”という評価も受け、高級品としての人気を集めているそうなのだ。
2017年もさらに輸出額を伸ばすと予想されるなど、韓国メディアも「イチゴ輸出市場、過熱の“注意報”」とうれしい悲鳴を上げているほどだった。
ところが、そんな韓国産イチゴがもともとは日本の品種だったということになれば、どうだろうか。日本の立場からすれば、当然のごとく看過できないだろう。
イチゴに限らず、日本のキャラクターやアニメ、ドラマではこの手の論争が絶えないだけに、「また韓国がパクった」という皮肉も聞こえてきそうだ。
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ただ、韓国側としてはイチゴに関しては“解決済み”という認識があるのも事実だ。
例えば、2015年時点で「韓国産イチゴ、日本産イチゴに痛快な逆転勝ち」(『TV朝鮮』)という報道が出ている。
それによると、韓国では1970年代から本格的にイチゴの栽培が始まり、当時は日本の品種が大部分だったという。「韓国国内のイチゴ農家の86%が日本の品種を使っていた」が、その流れは2005年まで。ロイヤリティー(栽培料)の問題が生じたからだ。
当時、日本が要求したロイヤリティーは31億ウォン(約3億1000万円)だったとのこと。しかし「ロイヤリティーの問題が生じたが、そのとき韓国の技術で誕生した“ソルヒャン”が解決士の役割をした」と解説しているのだ。
“ソルヒャン”を漢字で書くと「雪香」となる。イチゴの品種名だ。今では韓国産イチゴの70%を占める人気品種らしい。
ソルヒャンを生み出したのはキム・テイルという農学博士で、『世界日報』の記事によれば、キム博士は「日本の品種を無断で栽培していた(韓国)国内の農業現場では、国産化が急務だった」なかで、ソルヒャンを開発。
ソルヒャンは「日本とのロイヤリティーをめぐるイチゴ戦争で韓国を勝利に導いた品種」になったらしい。このソルヒャンを開発したことによってキム博士は、「農家の間では“イチゴ英雄”と呼ばれる育種の大家」(『世界日報』)ともされている。
だが、韓国の農業専門紙『園芸産業新聞』によると、そのソルヒャンも日本の品種である「章姫」と「レッドパール」を交配して作った品種だというのだ。キム博士が試行錯誤して開発したソルヒャンが日本のロイヤリティー問題を解決したというが、どこかスッキリしない。
仮にキム博士が「章姫」と「レッドパール」の開発者の許可なく、勝手に交配してソルヒャンを作り出していたのなら、筋が通らないだろう。ちなみに日本のイチゴ輸出の額を見てみると、2016年は前年比35%増の約11億円(『日本経済新聞』)となっていた。韓国の3分の1ほどだ。
いずれにしても日本政府が「種苗法」を改正し、ブランド農産物の種や苗木の海外持ち出しを禁止したのは、2021年4月のこと。今回のブドウ騒動も過去のイチゴ騒動も、日本は泣き寝入りするしかないのが現状かもしれない。
(文=慎 武宏)
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