ドナルド・トランプ米大統領が求めている「25%の相互関税」の発動期限(8月1日)が2日後に迫るなか、韓国・李在明(イ・ジェミョン)政権が重大な局面を迎えている。
アメリカ側は韓国に対し、最終的かつ最善の交渉案を提示するよう圧力をかけており、韓国大統領室は交渉カードと対応過程を厳重に秘匿しながら水面下での交渉に全力を挙げている。
今回の交渉結果が、政権にとって初の「外交評価」となるだけに、政府の動きも機敏だ。
7月29日(現地時間)の各国メディアの報道によると、アメリカは日本やEUとの連続的な通商合意を引き合いに出しながら、韓国にもトランプ大統領を納得させられる最高の条件を提示するよう迫っている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、ラトニック長官が最近スコットランドで行われた会合で、韓国の通商アドバイザーらに対し「最高の条件を持ってくるべきだ。トランプ大統領を説得するには、それに見合う理由が必要だ」と強く求めたと報じた。
韓国政府も交渉期限が迫るなかで、対応を加速している。現地では、いわゆる「通商のツートップ」であるキム・ジョングァン産業通商資源部長官とヨ・ハング通商交渉本部長が、トランプ大統領に随行しているラトニック長官やUSTR(米通商代表部)のジェイミソン・グリア代表らと会談するため、スコットランドとアメリカを行き来しながら奔走している。
また、ク・ユンチョル経済副首相兼企画財政部長官も渡米し、通商のツートップと共にこの日、ラトニック長官と2時間にわたり通商協議を行ったとされる。さらにク・ユンチョル副首相は、7月31日にトランプ再選政権で通商実務を担当する予定のスコット・ベッセント米財務長官と会談を控えている。
チョ・ヒョン外交部長官も渡米し、マルコ・ルビオ米国務長官との面会を予定している。加えて、韓国の財界関係者も現地入りし、後方支援に乗り出している。
韓国国内でも、李在明大統領がアメリカ現地の交渉チームや大統領室の参謀陣から随時報告を受けながら、米韓間の通商・安全保障交渉を指揮しているとされる。ただし、李在明大統領が交渉に公に関与することは、実務チームの裁量を狭める恐れがあるため、大統領自身が会議を主宰することは控えているという。
また、大統領室は交渉過程についても沈黙を守っている。時間に追われるなか、韓国側のカードを事前に晒す必要はないとの判断からだ。
大統領室のカン・ユジョン報道官は7月29日のブリーフィングで、「交渉過程が公開されるほど、むしろ国益を損なう可能性がある。カードに対する過剰な関心や“知る権利”が、かえって国益に不利に働く場合もあるため、詳細は申し上げられない」と語った。
韓国政府としては、「実利外交」を掲げて国益を守ると公言してきただけに、国民の納得を得るためにも、すでにアメリカと協定を結んだ国々の条件を指標とし、日本やEUに比べて不利にならないよう交渉をまとめる必要がある。
たとえば、日本やEUは自動車関税を15%に引き下げていることから、韓国としても主力産業である自動車の輸出競争力を確保するため、最低でも15%の税率は維持したいところだ。
韓国が交渉テーブルに出すとみられる主なカードは、大きく3つに分けられる。製造業や造船業を基盤とした①対米直接投資の拡大、②農畜産物市場の開放、③デジタル貿易における非関税障壁の緩和だ。
このほか、関税とは直接関係しないが、両国の重要な懸案である防衛費の増額なども、パッケージ交渉の一部として議論される可能性がある。
特に、関税引き下げの交渉カードとして注目されているのが、「MASGA(Make American Shipbuilding Great Again=アメリカ造船業を再び偉大に)」プロジェクトだ。通商当局では、韓国の造船業の強みを活かし、アメリカとの産業協力体制を築くことで、これを関税交渉の“てこ”にする構想を進めているとされる。これに伴い、韓国からの対米投資は2000億ドル(約30兆円)規模に達する見込みだ。
さらに、コメ・牛肉市場の開放も交渉のテーブルに上げ、アメリカとの意見調整に臨む計画だ。アメリカの要求を可能な限り受け入れつつ、韓国国内の受容性も考慮しながら交渉を進める方針といえるだろう。
韓国大統領室のウ・サンホ政務首席は7月28日、「アメリカ側からの圧力が非常に強いのは事実だ。具体的に農畜産物の開放要求があるのも事実だ」とした上で、「国内産業を可能な限り守るため、譲歩の幅を最小限にとどめようと努力している」と説明した。
デジタル規制の緩和もアメリカが重視する核心課題の一つだ。これに関連して、米下院議員らは韓国の「プラットフォーム法」がEUのデジタル市場法(DMA)を模倣しており、アメリカ企業に不利に働く可能性があると問題提起していた。
現在、韓国国内でもアメリカの反応を考慮し、プラットフォーム法の立法推進速度や内容の調整が行われている。
結局のところ、関税引き下げの見返りとして韓国側が提示する「対米投資」を軸に、農畜産物市場の開放やデジタル規制の緩和といった非関税障壁において、いかに韓国側の損失を最小限に抑えられるかが鍵となる。
今回の交渉の行方は、協定成立の可否のみならず、李在明政権にとって初の外交評価を左右する重要な試金石となる。
(記事提供=時事ジャーナル)
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