尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の妻であるキム・ゴンヒ夫人が、ついにフォトラインに立った。
ドイツモーターズの株価操作をはじめとする複数の疑惑で検察の捜査を免れてから、わずか1年あまりのことだった。
キム・ゴンヒ夫人は、2022年の第20代大統領選挙の過程で、尹錫悦前大統領が“星”のように登場した瞬間から、数々の論争の中心にいた。尹政権発足以降は、巫俗人、宗教団体、政治ブローカーなどとの関係をめぐる疑惑が次々と提起された。
彼女は、あらゆる方向から吹き荒れる特別検察(特検)チームの捜査により、ついに公開の場に姿を現した。前大統領夫人として初めて公開召喚されたこの日、キム・ゴンヒ夫人に批判的な勢力はセクハラまがいの発言を浴びせ、支持者たちは「女性の人権」を主張してキム夫人を擁護した。
8月6日、ミン・ジュンギ特検チームの事務所が入るソウル鍾路区のビル前には、100人あまりの人々が集まっていた。進歩系のYouTubeチャンネル運営者など、尹政権と対立してきた人物たちの姿も見られた。
マイクを握ったあるユーチューバーは、キム・ゴンヒ夫人に向けて拡声器で罵声を浴びせた。召喚調査が予定されていた午前10時に近づくにつれ、その罵倒のトーンはさらに激しくなっていった。
前大統領夫妻に対してセクハラまがいの発言も平然と飛び交った。ある人物は、キム・ゴンヒ夫人のドイツモーターズ株価操作疑惑に言及し、「自分の人生は株価の暴落で滅茶苦茶になった」と嘆きながら話した。前大統領夫人に対する罵倒は、光化門の空に数十分間響き渡った。群衆の中からは「キム・ゴンヒを拘束しろ」という掛け声も頻繁に上がった。
キム・ゴンヒ夫人を乗せた車両が到着すると、現場の雰囲気は過熱した。予定された調査時間を10分ほど過ぎた時刻、キム・ゴンヒ夫人は「拘束しろ」という声が響くなか、チェ・ジウ弁護士と共にビルの入口へと歩いていった。
この日、黒のスーツ姿で現れたキム・ゴンヒ夫人の表情は、やや青ざめて見えた。到着と同時に、支持者たちは歩道に集まり「夫人、頑張ってください」と声援を送ったが、その声はすぐに拡声器での批判にかき消された。
特検チームの事務所が入るKTビルの窓際には、キム・ゴンヒ夫人の出頭を見ようと集まった職員の姿も見られた。通りすがりの市民が、キム・ゴンヒ夫人が通る道に手を振る様子も確認された。
警察はこの日、機動隊とパトカーを動員し、KTビル周辺を警備。ポリスラインを設置して歩行者の導線を整理し、市民同士の衝突など突発的な状況に備えた。
KTビルに入った後、キム・ゴンヒ夫人は報道陣の前で謝罪の意を表明した。彼女は「私のような取るに足らない人間がご心配をおかけし、国民の皆さまに心からお詫び申し上げます。しっかり捜査を受けてまいります」と語った。複数の疑惑について立場や釈明があるかとの問いには答えず、そのまま移動した。
キム・ゴンヒ夫人の姿が見えなくなると、彼女に罵声を浴びせていた一部のユーチューバーらもその場を後にした。
その代わり、キム・ゴンヒ夫人の支持者と思われる十数人の市民がビル前に残り、「キム・ゴンヒ夫人の女性人権を保障せよ」と書かれたプラカードを掲げていた。このうちの一部は「李在明(イ・ジェミョン)を拘束しろ」と叫んでいた。
この日の調査は長時間に及ぶと見られている。キム・ゴンヒ夫人にかけられている疑惑は十数件に及び、容疑の内容も広範囲にわたるためだ。深夜までの調査や再召喚の可能性も取り沙汰されている。
特検チームはキム・ゴンヒ夫人の調査に先立ち、「国民の力」のユン・サンヒョン議員、元議員のキム・ヨンソン氏、巫俗人の「コンジン法師」チョン・ソンベ氏、統一教会の元世界本部長ユン・ヨンホ氏、政治ブローカーのミョン・テギュン氏、ドイツモーターズの元会長クォン・オス氏、キム夫人の口座管理人、国土交通部関係者など、周辺人物や容疑者への調査を行ってきた。
「共に民主党」が発議し、国会を通過した特検法による捜査対象は、▽チョン・ソンベ氏らによる人事介入・斡旋疑惑、▽ミョン・テギュン氏が関与した公認介入疑惑、▽楊平(ヤンピョン)高速道路終点変更の優遇疑惑、▽ウクライナ復興事業に関連した「三扶土建」株価操作疑惑など、計16件だ。
これに加え、新たに明らかになったキム・イェソン氏の事件も捜査中だ。これは、2023年6月に企業などが、キム・ゴンヒ夫人一家の“執事”として知られるキム氏の実質所有会社に184億ウォン(約18億4000万円)を投資し、キム氏がそのうち50億ウォン(約5億円)を自分の借名会社に流用したとされる疑惑だ。
キム・ゴンヒ夫人は午前10時23分から調査を受けている。キム夫人側はこれまで、キム氏や統一教など複数の疑惑に関し、メディア『時事ジャーナル』に対して「事実無根」との立場を明らかにしてきた。特検チームの調査過程で、すべての疑惑に対し説明するとしている。
しかし、第20代大統領選を前に「国民の力」党本部を訪れ、数々の疑惑について謝罪したキム・ゴンヒ夫人は、いまや前大統領夫人として特検の捜査線上に立ち、再び頭を下げることになった。
(記事提供=時事ジャーナル)
■『週刊文春』が報じた旧統一教会の“遠征賭博資金”を追及し始めた韓国検察
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