政界を相手にした旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の全方位的ロビー疑惑をめぐる波紋が、拡大の一途をたどっている。
韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁を頂点とする中枢の人物たちが、長年にわたり教団の宿願事業だった「日韓トンネル」を現実化するため、ロビー活動を行ってきたとみられる情況が次々と明らかになり、捜査の矛先がどこまで及ぶのかにも関心が集まっている。
大規模な家宅捜索を進めた警察は、捜査線上に浮上した主要政治家らを順次召喚し、ロビー疑惑の解明に乗り出す方針だ。
警察庁国家捜査本部の特別専担捜査チームは12月16日、旧統一教会の天正宮やソウル本部、「共に民主党」チョン・ジェス議員事務所などを対象に行った全方位的な家宅捜索で確保した各種決裁文書や証拠物の分析を進めている。
専担チームは前日、旧統一教会の政界ロビー疑惑に関連し、10カ所余りを同時多発的に家宅捜索した。
専担チームは、旧統一教会が2018年前後を起点に、釜山(プサン)地域の3選中堅であるチョン議員はもちろん、前・現職の釜山市長らに対しても集中的に接触し、管理してきた情況を把握した。これらの政治家は旧統一教会の行事に何度も出席したり、祝辞を寄せたりしており、一部は公の場で「日韓トンネル」推進を支持する発言を行ったことが確認されている。日韓トンネルを自身の政策と結び付けたり、研究用役を実施したりしたケースもあった。
旧統一教会が日韓トンネル推進のため、釜山や慶南(キョンナム)といったPK地域の政治家たちを戦略的に管理してきた点から、今回のロビー疑惑が地域政界を直撃する可能性も指摘されている。
ユン・ヨンホ元世界本部長は2018年、旧統一教会の釜山地域行事の翌日、チョン議員に言及し「我々の仕事に積極的に協力することにした」とする特別報告を行ったと伝えられている。
また、2022年の大統領選挙当時、「国民の力」候補だった尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏のキャンプで活動していたPK地域の人物らを集中的に接触し、「教団との協力、協調」に関する内部報告を作成したことも把握されている。旧統一教会が釜山地域の政界関係者から「協力」と「支持」を引き出そうとした案件は、日韓トンネル事業であると指摘されている。
日韓トンネル事業は、教団創始者の故文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が1981年に「国際ハイウェイ・日韓トンネル」構想を公式化したことで、教団の宿願事業として位置付けられた。
このプロジェクトは、路線ごとに釜山または巨済島(コジェド)と大韓海峡(対馬海峡)、対馬、九州を結ぶ全長約200キロの海底トンネル建設を骨子とするものだ。韓国と日本を物理的につなぎ、平壌や北京、モスクワ、ロンドン、ニューヨークなど世界の主要都市を一つにつなぐ高速道路網を建設するという計画であり、その日韓トンネルと国際ハイウェイの求心点が釜山地域だった。
文鮮明氏は44年前、この構想を発表しながら「日韓トンネルが建設されれば、アジア帝国は高速道路でつながり、一体化することができる」と述べ、事業推進への強い意志を示した。韓国政府が公開した外交部文書によると、文鮮明氏は日韓トンネル構想を公表してから10年が経過した1991年、訪朝し、当時の金日成(キム・イルソン)北朝鮮主席に対しても、トンネルと連結する「世界平和高速道路建設計画案」を提案していた。
教勢の拡大とともに日本政界でも強大な影響力を持っていた旧統一教会は、実際に日本現地で土地を買収し、探査目的のトンネルまで掘削していた。しかし、100兆ウォン(約10兆円)を超える莫大な予算問題に加え、日韓両国の政界と政府の承認・支援・協力が不可欠な案件であるため、教団単独での推進は不可能な構造だった。
教団レベルの支援により関連研究や用役が進められたこともあったが、専門家や学界では事業の現実性が低く、地質特性などを考慮すると安全性も担保できないという懸念が強かった。
結局、日韓トンネル構想は漂流し、2012年に文鮮明氏が死去して以降、教団レベルでの推進の動きも下火になったとされている。しかし、韓鶴子総裁が教団を率いるようになった時期を境に、再び水面上に浮上し、政界を狙ったロビーの動きも可視化したとみられている。
宗教界と政界では、文鮮明氏が生前に成し遂げられなかった事業を、韓鶴子総裁が引き継ごうとしたのではないかと見ている。自身の息子たちや教団後継者をめぐる泥沼の争いが長期化するなど、影響力の低下を懸念した韓鶴子総裁が、文鮮明氏の宿願事業を成功させることで立場を強化しようとしたという分析だ。
ユン前本部長は特検の調査で「チョン議員に対し、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の2018~2020年に、統一教の宿願事業だった日韓トンネル事業に関する請託とともに、高級腕時計2点と現金2000万ウォン(約200万円)を提供し、“親”李在明(イ・ジェミョン)系に分類されるイム・ジョンソン前共に民主党議員とキム・ギュファン前未来統合党議員には、総選挙を前にそれぞれ3000万ウォン(約300万円)相当の金品を渡した」と主張したと伝えられている。
しかし、法廷での暴露戦を予告していたユン前本部長は「そのような供述をしたことはない」として、再び立場を翻した。警察の専担チームは家宅捜索で、ユン前本部長が渡したと推定される高級腕時計は確保できなかった。
警察は、特検チームが家宅捜索当時に発見しながらも、捜査範囲ではないという理由で別途の押収手続きを取らなかった天正宮内の個人金庫に保管されていた280億ウォン(約28億円)相当の現金の束が、ロビー資金と関連しているかどうかについても調査を進める方針だ。多額の現金には、官封券の束やドル、円なども含まれていると伝えられている。
これに対し、旧統一教会側は当該資金について「教団の予算とは別であり、韓鶴子総裁が別途管理しているもので、入出金の内訳は把握していない」との立場を示している。
(記事提供=時事ジャーナル)
前へ
次へ