韓国国内の雇用市場で奇異な数字が出た。10月の失業率が「2.2%」というものだ。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も低い水準であり、数値だけで見れば事実上の「完全雇用」に近い。
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しかし、現場の体感温度は氷点下だ。「史上最大級の雇用好調」という政府の自評の陰で、意欲を失い労働市場を離脱した73万人の「雇用透明人間」が隠れているからだ。彼らが就職の「休止符」を越えて「ピリオド」を打つ前に、再び雇用現場へ呼び戻す政策と支援策の準備が急務だという指摘が出ている。
首都圏のとある大学を卒業したイ・ジンジュさん(仮名/32歳)の机には、受験書が塔のように積まれている。公務員試験を受け続けて4年。結果はすべて不合格だった。
今年の初め、イ・ジンジュさんは結局その本を閉じた。三十を超えた年齢、空っぽの4年の経歴。遅れてあちこちに履歴書を出してみたが、面接の機会も得られなかった。次第に敗北感が押し寄せた。友達が会おうと言うたびに、財布の事情を考えなければならなかった。いつも応援してくれた家族との疎通も断たれたも同然だった。
コンビニのアルバイトでもしてみようと思っても、知った顔に出くわすのが怖くて再び布団の中へ入る。求職活動をしていないため、失業率の統計にも捉えられない透明人間。それがイ・ジンジュさんの現状だ。
もう一人のキム・ジヨンさん(仮名/28歳)は、カード会社のコールセンター派遣職として働いていた。ただ、勤務3年目でコールセンターを辞めた。顧客の暴言と抗議にくたびれるだけくたびれたうえに、いよいよきちんとした経歴を積むことができる職業を探さなければならないと思いたったからだ。
その後、公的機関の就職カフェを行き来して教材を買い、資格学校にも登録した。しかし、数回の筆記試験不合格の末に通帳残高は底を見せた。机の前に座る時間も減った。
周囲では目線を低くしろと言う。しかし、再びコールセンター派遣職へ戻る勇気は出ない。そうして彼は、求職者でも労働者でもない「休む青年」になった。
国家データ処が最近発表した「10月雇用動向」によれば、韓国国内における15~64歳の雇用率は70.1%、就業者は2904万人だった。昨年10月より19万3000人増えた。
目立つ数値は、2.2%と集計された失業率だ。7月に発表された「OECD 2025雇用展望:韓国」でも、韓国はコロナ禍以降3%台の失業率を維持した国として紹介された。同時期、OECDの平均失業率が4.9%である点を考えると、国際的にも最上位圏だと言える。
ただ、詳しく見ると話は変わる。
失業者とは、「過去4週間で積極的に求職活動をしたが、仕事を得られなかった人」である。しかし、「重大な疾病や障害はないが、仕事もせず求職活動もしていない状態」の人は“非経済活動人口”として分類され、失業率に反映されない。分母が減ることで、失業率が低くなる錯視が発生したわけである。
問題は、「休止」人口が20~30世代を中心に急増している点だ。
今年10月の30代の「休止」人口は33万4000人だった。関連統計が作成された2003年以降で歴代最大値だ。20代を含む20~30世代「休止」人口も73万6000人で、10月基準で史上最大規模であった。学校へ通っておらず、健康に異常がないにもかかわらず、求職活動に参加しない青年が増加傾向を見せているのだ。
では「休止青年」はなぜ求職を断念したのか。背景としては、採用市場の構造的変化がまず挙げられる。
韓国銀行が昨年発表した報告書によれば、2009年に82.7%であった企業の新規採用比率は、2021年に62.4%まで下落した。同期間、中途採用比率は17.3%から37.6%に上がった。新規採用が消え、職務に即時投入可能なちゅうとさいようが雇用市場の大勢として位置を占めたということだ。「新卒はどこで経歴を積めば良いのか」という青年たちの自嘲混じりの嘆きが出る理由である。
実際、今年2四半期基準の20~30世代新規採用者は240万8000人で、前年同期比で11万6000人減った。2018年以降では最小レベルだ。一方、この期間の20~30世代の非正規職比率は31.7%と、10年ぶりの最高値を記録した。新規採用という狭い門をかろうじて通過しても、10人中3人は期間制や短期契約職で働くという意味だ。
目線に合った良質な仕事は減り、繰り返された不合格経験が累積されながら、「休止青年」は求職意欲そのものが折れる「学習された無力感」の状態に陥ったという分析が出ている。
さらに深刻な事実は、彼らが雇用市場に復帰する気配を見せていない点だ。
とあるアンケート調査では、「休止青年」の10人中7人が求職を望まないと答えた。一時的な休息ではなく、労働市場進入を完全に放棄する「ニート(NEET・求職断念者)」族拡大が憂慮される状況にあるのだ。この場合、潜在成長率の低下はもちろん、今後莫大な社会的費用を引き起こす可能性が大きい。
身近な事例が日本だ。
日本は2000年代初めから“ニート”が社会的イシューとして浮上した。バブル経済崩壊の余波で、就職氷河期が訪れた結果だった。
このため、現在も60万人以上の中高年層が労働市場の外に留まっている。この現象は生産可能人口の減少と税収不足、社会保障費の増加という負担を社会にもたらした。
日本政府は遅れて「就職氷河期世代支援プログラム」を稼働するなど、ニート族を労働市場へ引き出そうと必死だが、容易ではない状況だ。
では、韓国でも「休止青年」を再び雇用市場へ呼び戻すにはどうすればよいのか。専門家たちは大きく三つの方法を提示する。
まず、新規採用縮小と中途採用優先という構造的流れの中で、青年たちが経歴を積むことができる公共・民間協力型インターンシップや社会サービス職など、「経歴のはしご」を政策的に設計すべきだと提案する。初めての仕事を確保できない期間が長くなるほど、以後の就職確率が急激に下がるという理由からだ。
また、「休止青年」を政策対象として見る視角転換が必要だという声もある。これまで、青年雇用政策は失業者と就職準備生を中心に行われてきた。このため、「休止青年」は支援の死角地帯に留まっていたのだ。
韓国銀行調査局雇用分析チームは、「休止青年層が増加する現象は、今後の労働供給を制約するという点で、彼らを再び労働市場に誘引する政策的努力が必要だ」と明らかにした。
賃金・労働条件が過度に低い青年の仕事の質改善が併行されなければならないという助言も出ている。
統計庁によれば、「休止青年」の相当数は宿泊・小売・建設など内需脆弱業種と短期・非正規職で勤務した経験がある。これら業種の労働条件が改善されなければ、青年たちは「一度行ってみた仕事」とみなし、再び労働市場を離れる悪循環が繰り返される可能性が大きいという指摘が出ている。
(記事提供=時事ジャーナル)
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