今なお人気の『進撃の巨人』が韓国でも異例の快進撃を炸裂させたワケ

2021年09月25日 話題
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別冊少年マガジン5月号(講談社)にて完結し、今年6月に発刊された最終34巻で幕を閉じた『進撃の巨人』。何の理由もなく人間を食い尽くす巨人たちは、日本はおろか海を越えて韓国にまで進撃して人気を集めていた。

2009年から別冊少年マガジンにて連載が始まった『進撃の巨人』。韓国では単行本はもちろん、劇場版や実写映画も公開されるほどの人気作だった。

例えばアニメ『進撃の巨人』の第1話がTOKYO MXテレビで放映された2013年4月7日、韓国最大のポータルサイト「NAVER」では「進撃の巨人」がリアルタイム検索ランキングで1位になったこともあった。

日本での放映だったにも関わらず、韓国のファンたちの間ではアニメがどんな仕上がりなのかツイッターやフェイスブックで話題となり、「早く韓国でも見たい!!」などの期待が集められたのだ。

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そんな関心の高さに応えるかのごとく、それから3日後の4月10日には、アニメ『進撃の巨人』の韓国内版権を持つ韓国の日本アニメ専門チャンネル「アニプラス」で第1話が放送。たった3日のタイムラグでのオンエアーは、当時としては異例だった。

(画像=『進撃の巨人』韓国ポスター)

しかし、この3日のタイムラグすら耐えられず待ちきれないという要望が「アニプラス」に殺到。抗議にも近いその熱望に驚いたアニプラスは、第10話からTOKYO MXの放送時間とまったく同じ時間である毎週日曜日午後11時30分に「日韓同時進行」で放送を行うこともあった。

韓国では1998年から順次的に日本の大衆文化のオンエアーを開放してきたが、さすがに「日韓同時進行」は異例だった。それだけ『進撃の巨人』人気が凄まじかったことを物語っているといえるだろう。

それだけではない。

話題の主題歌『紅蓮の弓矢』が収録されたLinked Horizonのシングル『自由への進撃』や、澤野弘之によるオリジナルサウンドトラックもほぼ同時に正式発売された。いくら日本のアニメが人気とはいえ、主題歌やOSTが発売されることは、韓国では滅多にないことだった。

ウェブトゥーンと呼ばれるインターネット漫画が市場を占領し、紙の漫画がまったく売れなくなった韓国で、2011年から正式翻訳出版されているコミックスも漫画では異例の総合ベストセラー・ランキングで上位に食い込むなど、その人気の高さは異常だった。

日本発のアニメが日本と同時期に韓国でも盛り上がり、社会現象まで巻き起こしたとても珍しい。

原作の絵が整えられたアニメに対する高い評価や話題性を聞いて、アニメを見たいという人が増えたのも、韓国の『進撃の巨人』人気の特長だった。

もともと韓国の若者たちには日本の漫画やアニメ、ゲームのようなサブカルチャーを好む“オドック”(日本の“オタク”と同じ意味)が潜在的に多いとされてきたが、『進撃の巨人』は“オドック”だけではなく、流行に敏感な小・中・高校生から20~30代はもちろん、中年世代たちも「一度見てみたい」という声が増えたほどだった。

韓国人が熱狂した理由

韓国では19歳未満視聴禁止の判定を受けた『進撃の巨人』だが、そのことを気にする人はほとんどいない。極端な話、まるでジブリ作品のような大作として扱われる不思議な現象まで起きたのだった。

しかも、作品の設定やタイトルからアイディアを得たパロディも溢れた。

MBC放送の人気バラエティ番組『無限挑戦』では、怪力を誇るとある番組レギュラーのことを巨人に例えて「進撃の○○」と名付けたり、新聞の4コマ漫画では元大統領官邸代弁人をこれまた巨人として風刺したりなど、韓国では「進撃の○○」「○○の巨人」という造語をよく目にするようになったほどだ。

また、それまで韓国では「進撃」という単語そのものが日常的によく使われなかったが、その独特な語感を日常に持ち込むことで面白さを感じている人々が増えた。当時、釜山(プサン)に暮らす20代男性もこう語っている。

「職場で営業成績が良い者がいると“進撃の◯◯さん”と呼んだりするし、態度が横柄だったり、図体がでかいだけで“釜山の巨人”というあだ名がつく。ネットにもいろんなパロディ動画が上がっているので、それを真似てみたり。話題は尽きませんよ」

実際、当時の韓国ではツイッターやフェイスブックといったSNSやブログ上でも、『進撃の巨人』に関する話題が後を絶たなかった。

キャラクターの役割と秘密、巨人の正体、どんな結末なのかについてのネタバレや推測、解釈も活発に行われた。

作品の地名、キャラクター名などが北欧の神話と似ていることを細かく分析したり、「抑圧されている人類は長い不景気によって無気力になった日本人を象徴する」という主張など、作品をめぐってさまざまな解釈ができたことも、多くの韓国人が『進撃の巨人』に熱狂した理由のひとつだろう。

作家の右翼的コメントが炎上

その一方で、2010年に原作者の諌山創が自分のブログで明かしたことが、波紋も呼んだこともあった。作品中のキャラクターであるピクシス司令のモデルが秋山好古で、彼を尊敬するといったコメントや、ミカサというヒロインの名前の由来は戦艦「三笠」からだという点を挙げて、「諌山創の政治的性向が右傾している」「軍国主義的な話なので見てはいけない」と主張する人たちも出てきたのだ。

挙句の果てには2013年6月、反日感情剥き出しにした韓国人読者が、諌山創のブログを荒らす事件も起きている。

明るい未来を語ろうとする作品に、過去の話を押し付けて足を引っ張るのは残念なことだが、それは『進撃の巨人』が韓国でもたくさんのファンに支持を得ていて、大きく注目されていた証拠でもあった。

とある映画評論家はケーブルテレビ番組で『進撃の巨人』を称賛し、「作品を政治的に解釈せずに、純粋な漫画作品として、作品自体を楽しむべきだ」と主張。

また大衆文化評論家たちは、「圧倒的な巨人の存在とちっぽけな人間の死を見ると、人間の尊厳性を疑うようになる。その気持ち悪さは我々の不安と恐怖に似ている」と伝えた。

また「若者がこの作品に感情を移入する理由は、巨人を不安な未来と例え、自分たちも戦おうとする気持ちになるから」など、作品に対するさまざまな意見を出しながら人気の理由を探っていた。

こういう分析もある。

「巨人の正体についてのミステリアスな設定こそがこの作品の一番の人気要素であり、巨人は何とでも例えられるカオスな存在だからこそ、この作品が大きな力を持つ」

たしかに『進撃の巨人』の世界の中で生きる人類は、閉塞感に苦しみ、絶望的かのようにも映る。それは今の日本と韓国が置かれた政治・経済・社会的状況と似ており、現実の問題が投影されているともいえなくもない。

ただ、個人的に最も注目してほしいのは劇中で登場するこんな言葉だ。

「人間は巨人になれるけど、意志のない巨人は巨人以上にはなれない。だったら人間は巨人よりもっと偉大な存在ではないか」

一見すると謎かけのように思える言葉だが、そこには誰もが忘れがちな“人間の尊厳”に関するテーマが隠れ潜んでいるような気がしてならない。

誰もが一度ぐらいは蟻を指でブチュッとつぶした経験があるだろう。その瞬間、蟻にとっては人間が巨人であり、理解不能な存在だったはずだ。そんなことを考えながら『進撃の巨人』を見ていると、なんだか哲学的なことまで考えてしまうのは韓国人だけではあるまい。

外の世界に対する好奇心と強い意志を持つ主人公・エレンの生き様は、人間として生まれたからには家畜とは違う何かを、すなわち自分なりの革命をなすべきだといっているようである。

その静かだが強烈なテーマ性こそが、『進撃の巨人』が日本はもちろん韓国でも支持される理由なのかもしれない。

(文=サーチコリア編集部)

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