「韓国は地獄のような国だ」
そんな韓国の若者たちの嘆きから生まれた“ヘル(Hell)朝鮮”という言葉は、今ではメディアや文化人が取り上げるほど韓国で定着している。
実際に、大手求人サイト『JOBKOREA』が7月1日に発表したアンケート結果によると、「ヘル朝鮮という言葉に共感するか?」という質問に、社会人・大学生(3173人)のうち90%が「共感する」と答えたという。
同アンケートを年齢別に見ると、共感したと答えた比率は20代(90.7%)、30代(90.6%)、大学生(90.5%)が非常に高く、なかでも「強く共感する」と積極性を示した人が多かったのは30代(39.2%)だったそうだ。
逆に「共感しない」は、50代の24.1%が最も高かったという。若い世代ほど、“ヘル朝鮮”という言葉に共感している現実が浮き彫りになったわけだ。
では、なぜ韓国の若者たちは、自国を地獄と呼ぶのだろうか。
ある韓国メディアがその理由を「出生率、世界最下位圏」「会社員の有給消化率、世界25カ国中最下位」「医療費増加率、OECD中1位」「老人貧困率、OECD中1位」などと、数十も挙げて説明していたが、最大の理由は貧富の格差にあるのではないか。
韓国に行く度に友人や記者仲間たちと意見交換しながら感じるのだが、より正確にいえば多くの若者たちがその格差を覆せない硬直的な社会構造に絶望していると考えることができるはずだ。
それは米ブルームバーグが発表した「世界の富豪400人ランキング」(2015年末基準)にも表れている。
同ランキングの400人のなかには、韓国から5人がランクインした。それぞれ、サムスングループのイ・ゴンヒ会長、アモーレパシフィックグループのソ・ギョンベ会長、サムスン電子のイ・ジェヨン副会長、現代(ヒュンダイ)自動車グループのチョン・モング会長、SKグループのチェ・テウォン会長だ。
日本もファーストリテイリングの柳井正会長兼社長をはじめ、ソフトバンクの孫正義会長など5人がランクインしているのだが、両国富豪の“質”はまったく違う。
一言で、日本の富豪5人は自身が実質的な創業者であるのに対し、韓国の富豪5人はいずれも親世代から財産を引き継いだ“相続型”の富豪なのだ。
つまり、誰の子に生まれたかによって、自分の人生が決まってしまうという悲観が根底にあるわけだ。それを証明するかのように、韓国の若者たちは「スプーン階級論」という独自の身分制度を作り出した。
「スプーン階級論」では、「裕福な家庭に生まれる(Born with a silver spoon in one’s mouth)」という英語の慣用句を受けて、「金の匙」「銅の匙」「土の匙」など、貧富の差によって人を区別し分類する。
「金の匙」は親の資産が20億ウォン(2億円)以上などと細かく定義されており、「鉄の匙」「木の匙」と“身分”が下がっていく。低いものになると「糞の匙」「手の匙」という言葉もあるという。
覆せない貧富の格差に対して、韓国の20代たちは“あきらめる”という防御策をとっている。
一時、彼らは「3放世代」(恋愛、結婚、出産を放棄した世代)、「5放世代」(恋愛、結婚、出産、人間関係、マイホームを放棄した世代)と呼ばれていたが、最近は「7放世代」(恋愛、結婚、出産、人間関係、マイホーム、就職、夢を放棄した世代)とも呼ばれている。放棄するものが年々増加する事態になってしまっているわけだ。
そんなこともあって最近の韓国の若者たちは、もし生まれ変わったら韓国ではなく他国に生まれたいと願っているという。
若者の研究機関「大学明日20代研究所」のアンケートでは、日本、中国、韓国、インド、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの8カ国のなかから、生まれ変わりたいと思う国を問うている。
それによると、25.4%と大きな支持を集めたのはドイツだった。ちなみに、ドイツは韓国における好感度が非常に高い国家で、同アンケート内の「教育を受けたい国」「自分の子供を育てたい国」「老後を送りたい国」などでも首位となった。ただし、韓国のドイツに対する思いは、“片想い”であるという調査結果もある。
いずれにせよ、経済的な貧富の差、そして、それを覆すことができない社会構造から、希望を持てない若者が増えている韓国。一方で、現在の韓国を先進国の入り口で“成長痛”を味わっている段階と分析する専門家もいる。
“ヘル朝鮮”という言葉が一時の流行であることを願わずにはいられない。
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