スポーツ漫画大国といえる日本。そんな日本のスポーツ漫画がお隣・韓国でも人気を呼んでいることをご存知だろうか。
そもそも韓国の漫画市場の年間売り上げは約7400億ウォン(約740億円)を超えるとされており、そのうちの30%が日本作品で占めるといわれている。
最近は“webtoon(ウェブトゥーン)”と呼ばれるネット媒体限定のウェブ漫画も人気だが、『ONE PIECE』など日本漫画の人気は依然として高いらしい。
日本の漫画は売り上げランキングでも、韓国作家の作品を追い抜いて常に上位にランクインしているほどだ。
そんな日本の漫画の中でもスポーツ漫画として今でも根強い人気を誇るのが、『スラムダンク』だ。
日本では1990年代に人気を博し、韓国でも翻訳版が出版されると人気爆発。韓国では1997年に男子プロバスケットボールリーグのKBLがスタートしているが、その背景には『スラムダンク』の影響もあったといわれている。
ただキャラクターの名前は変えられており、主人公の桜木花道は「カン・ベクホ」、流川楓は「ソ・テウン」、キャプテンの赤木剛憲は「チェ・チス」、宮城リョータは「ソン・テソプ」、三井寿は「チョン・デマン」といった具合。ヒロインの赤木晴子は「チェ・ソヨン」だ。
当時の韓国は日本文化に対する規制が厳しく、なるべく韓国式に変えるという方針があったという。
韓国版の名付け親である女性編集長(当時)チャン・ジョンスク氏は、「桜木花道の名前をカン・ベクホにしたのは、学生時代、“ベク・ホギ”という友だちがいたからなんです。すごく格好いい名前だなと思っていたので、個人的に好きな苗字である“カン”と組み合わせて“カン・ベクホ”にしました。そうやって名前をつけていったんですが、あまりにも登場人物が多くて、挙句は卒業アルバムを開いてキャラクターに似合いそうな名前を探しました」と語る。
そんな変更に反発したマニアたちの意向を受けて、昨年は日本で発売されたものが忠実に再現された“オリジナル完全版”が発売されたというのだから、その人気は本物だ。韓国語で書かれた表紙も味があって面白く、意外な都市伝説もあるらしい。
この『スラムダンク』と並んで韓国の日本漫画マニアたちの間で長い人気を誇るのが、『H2』だというのも意外だ。
『ダイヤのA』や『おおきく振りかぶって』などの最新漫画がコミックスだけでなくアニメ版も放映されているそうだが、『H2』は今でもファンが多い。
あだち充といえば『H2』の前に『タッチ』だろうという意見も聞こえてきそうだが、どうやらそこには韓国ならではの事情もあるらしい。
韓国で人気のドラマ『応答せよ』シリーズの脚本家やロック・ミュージシャンたちも、『H2』に影響されたドラマや楽曲を作ったと公言しているほどなのだ。
もっとも、日本でヒットしたスポ根漫画がすべて韓国でヒットしているとも限られない。
例えば、サッカー漫画の不朽の名作『キャプテン翼』である。
日本のサッカーブームの火付け役となり、日本代表やJリーガーたちはもちろん、ジネディーヌ・ジダン、アレッサンドロ・デルピエーロ、リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタなど世代を超えた世界のスーパースターたちが“キャプ翼”のファンであることを公言しているが、どういうわけか韓国ではあまり認知度が高くない。
以前、某雑誌から「“キャプ翼”を愛読していた韓国人選手を探して取材してほしい」と依頼を受けたこともあったが、なかなか選手が見つからなかった。
『キャプテン翼』が韓国で出版されなかったわけではない。『ナルアラ(翔べ)キャプテン』というタイトルで、1996~1998年にソウル文化社から翻訳出版されている。ただ37巻までで、南葛中学を率いた大空翼が日向小次郎率いる東邦学園と両校同時優勝するまでで終わっている。
ジュニアユース編も、その後に続くワールドユース編などは翻訳出版されなかったというのだ。
韓国の漫画事情に詳しい関係者に聞いてみると、思いがけない答えが返ってきた。
「小学校、中学校の全国大会優勝を目指すまでは良いのですが、日本代表になって世界と戦う大空翼に共感する韓国人はいない。韓国でサッカー日本代表の躍進を読みたがる人はいませんから、中学編で終わったのでしょう」
つまり、サッカーでは日本に負けないという韓国のプライドが『キャプテン翼』を許さなかったわけか。ちなみに翻訳版では大空翼の名前が、「ハン(韓)・ナルゲ(翼という意味)」だったらしい。
いずれにしても、韓国にも何らかの影響をもたらしている日本のスポ根漫画。スポ根漫画ではないが、最近は『ドラえもん』や『ポケットモンスター』など日本の漫画とコラボレーションする韓国プロ野球チームも増えている。それも斬新なユニホームで公式戦を戦っているのだから驚きだ。
種目を問わずスポーツでは“日本には絶対に負けない”と対抗心を燃やす韓国だが、日本のサブカルチャーには意外と寛容なのかもしれない。
(文=慎 武宏)
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