Netflixドラマ『おつかれさま』、韓国での評価は?文化評論家「涙を通じてもたらされる大いなる癒し」

2025年03月26日 話題 #時事ジャーナル
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Netflixで配信中の韓国ドラマ『おつかれさま』が国内外で熱い反響を呼んでいる。

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この作品を手がけた脚本家イム・サンチュンへの関心も高まっている。『サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~』から『椿の花咲く頃』を経て、『おつかれさま』へと続くイム・サンチュンの世界は、一貫して何を語っているのだろうか。

『おつかれさま』で、主人公エスン(演者:IU)は済州島の海女の娘として育った。父は早くに亡くなり、母は継父と再婚し、エスンを夫の実家で暮らさせた。

幸いその家はある程度の生活力があったため、そこに身を寄せていたエスンは幼い頃から実質的に家政婦のような役割を担っていた。その実態を知った母はエスンを引き取ったが、母も29歳という若さでこの世を去った。結局、10歳のエスンは継父の子どもたちの面倒を見ながら、牛のように畑を耕し、キャベツを売って生計を立てていた。

いつか憎らしいこの島を離れ、本土に渡って大学に進み、詩人になることが夢だったが、過酷な現実はそれを許さなかった。

1960~70年代を生きた親世代の苦労を描く

『おつかれさま』のグァンシク(左)とエスン
(写真=Netflix)『おつかれさま』のグァンシク(左)とエスン

だが、その過酷な人生を支え続けてくれた存在があった。いつもエスンのそばに寄り添い、その人生を癒してくれる温かな人物グァンシク(演者:パク・ボゴム)のような存在だ。

エスンは「島の男には絶対嫁がない」と言っていたが、最終的にはグァンシクと結婚し、幸せを感じるようになる。詩人になる夢は諦めたが、かわいい子どもたちの姿を見てエスンは後悔していない。

グァンシクも同様だ。アスリートになるのが夢だったが、鉄のような体を家族の生計のために惜しげもなく捧げる。子どもが事故で亡くなるという辛い経験もするが、それでも2人は支え合って生きていく。

『おつかれさま』は、こうした極めて平凡な“持たざる者”たちの人生を深く掘り下げて描く。エスンやグァンシクのような人物は、1960~70年代を生きた親世代の、決して平坦ではなかった人生の象徴だ。

舞台は済州島という特殊な環境ではあるが、激動の時代のなかで、どうにか貧困から抜け出そうとあがいたその世代の思いは共通している。持たざる者が、住む家ひとつ手に入れるにも身体をすり減らして働かねばならなかった時代。それでも、互いを思いやる家族の存在があったからこそ、その困難を乗り越えられた。

振り返ってみれば、大したことのないように思える今の“当たり前”の生活も、彼らの苦闘があってこそ可能になったのだと、ドラマは自然に語っている。英雄譚でもなければ、非凡な出世物語でもない、平凡な「土のスプーン」たちの人生が、まるで冒険譚のように鮮やかに描かれている。

ときに強烈な日差しのように痛く、ときに春の日差しのように温かく、人生の様々な局面が折り重なった物語だ。

貧しい庶民の人生を偉大なものとして見つめる温かな視線こそ、脚本家イム・サンチュンの一貫した世界観を象徴している。『サム、マイウェイ』ではその視線が、学歴もスペックもない「持たざる若者」たちに注がれていた。親が「土のスプーン」なら、子どもも同じような境遇を引き継がざるを得ない現実。そんな彼らが社会の壁に立ち向かう姿を、イム・サンチュンは描いた。

テコンドーの国家代表を夢見ていたコ・ドンマン(演者:パク・ソジュン)は、総合格闘家としてリングに立ち、ニュースキャスターを夢見ながらも現実はデパートのインフォメーションデスクで働くチェ・エラ(演者:キム・ジウォン)は、地方イベントの司会を経て格闘技専門アナウンサーになる。

『サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~』
(写真=KBS)『サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~』

『サム、マイウェイ』は、スペックがないというだけで「サムマイ(安っぽい)」と扱われるこの社会で、健やかな若者たちが自分だけの「マイウェイ」を歩んでいく物語だった。

鋭い台詞が物語る情感

イム・サンチュンの作品世界は、いつも「中心」ではなく「周縁」が舞台だ。

『サム、マイウェイ』が地方都市に暮らす若者たちの話だったとすれば、『椿の花咲く頃』は、海辺の小さな町にやってきた、幼い息子を育てながら「カメリア」というスナックを営むドンベク(演者:コン・ヒョジン)の人生を描いていた。

外から来た美しいシングルマザーがスナックを開いている――という背景は偏見を生み、町の人々から冷たい視線を浴びる。しかし「田舎のファム・ファタール」ヨンシク(演者:カン・ハヌル)の一途な愛情が、ドンベクに生きる力を与える。そして次第に、町人たちもドンベクを隣人として受け入れていく。

連続殺人犯「カブリ」の出現で町は不安に包まれるが、それでも人々の連帯がこの危機を乗り越える原動力になる。最も苦しい時期を経てこそ、ようやく花は咲く。『椿の花咲く頃』は、ドンベクのように偏見に苦しんだすべての人に、「その苦しみこそが花を咲かせるための試練だったのだ」と語りかけるドラマだ。

『椿の花咲く頃』
(写真=KBS)『椿の花咲く頃』

『おつかれさま』は、そうしたイム・サンチュンの世界がさらに深化したことを実感させる。

済州島の海女の人生に、荒々しい済州方言の色彩を加えることで、土着的でありながらも独特の緊張感をもった「文学的」な空気感すら醸し出している。その片鱗は台詞の表現にも現れている。

「だからフグなんかに手を出すんじゃないよ。毒で生きてるんだからね」といった台詞で、エスンの母グァンネ(演者:ヨム・ヘラン)の人生を端的に表現している。「みぞおちに刺さったトゲのような女」といった一言にも、グァンネがどれほどエスンを思い、苦悩しているかがにじみ出ている。

詩人を夢見たエスンが綴った詩も印象深い。「アワビを売って得た百ファン。そのお金で母を休ませたい。100ファン稼いで母を休ませたい」――この秀逸な表現が光る子ども時代の詩「憎きアワビ」。また、年を重ねて詩人の夢をすっかり諦めていたエスンが、詩のコンテストに出店しがてら綴った「秋風」という詩も見逃せない。

「春風に泣いた風が、今も泣くように。じっと胸を押さえ、静めようとしても。変わるのは月の形、心は老いぬ」

人生の秋に差しかかったエスンが、春の日に描いた夢をいまなお胸に抱いていることが、この詩には込められている。そこには、もしかすると脚本家イム・サンチュン自身がかつて抱いていた「文学少女」としての面影も垣間見える。

『おつかれさま』
(写真=Netflix)『おつかれさま』

今回の『おつかれさま』は、Netflixで公開されたという点でも、イム・サンチュンにとって大きな転機となるだろう。これまで彼女は、一貫してKBSを通じて作品を発表してきた。ある意味、最も「ローカル色」の強い放送局で創作活動を行ってきたともいえる。

そのKBSでこそ、イム・サンチュンの濃密な家族ドラマの魅力が際立ち、『椿の花咲く頃』はニールセン・コリア調べで最高視聴率23.8%を記録した。

最もローカルなコンテンツがグローバルになり得ることを、これまで証明してきたNetflix。その舞台において、イム・サンチュンの世界は確かなシナジーを発揮している。

公開2週目には、Netflixグローバル非英語シリーズ部門で2位にランクイン。ブラジル、チリ、メキシコ、トルコ、フィリピン、ベトナムなど41カ国でトップ10入りを果たした。済州や韓国の現代史など、なじみのないローカル要素が多い作品でありながら、親子関係や夫婦関係といった普遍的な人間模様を丁寧に描いたからこそ、誰にでも共感できる作品として受け入れられたのだ。

とりわけ、疎外された平凡な人々の日常を深く掘り下げ、その人生を偉大な冒険譚のように描き出すイム・サンチュンの作家世界は、冷酷な資本主義の中で苦しむ多くの人々にとって、「祓いの儀式」のように涙を通じてもたらされる大いなる癒しだ。

世界が注目すべき作家の誕生といえる。

●文化評論家チャン・ドクヒョン

(記事提供=時事ジャーナル)

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