安倍元首相銃撃後に事業費急減も 旧統一教会の政界癒着、14年間で国際政治イベントに130億円超投入

2025年12月17日 政治 #時事ジャーナル
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旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の中核的な傘下団体である天宙平和連合(UPF/Universal Peace Federation)が、世界各地で国際政治イベントを開催するために、年間で多いときには2000万ドル(日本円=約30億円)近い資金を投じてきたことがわかった。

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UPFが主催するイベントは、韓国国内外の有力政治家をはじめ、宗教界、メディア関係者など各界の主要人物が多数参加する大規模な国際会議やカンファレンス、フォーラムが中心となっている。

こうした形で、2010年から2023年までの14年間にUPFが投入した金額は、累計で9000万ドル(約139億円)に迫る。

特に2016年、世界各国の前・現職国会議員数百人が参加するネットワーク組織「世界平和国会議員連合(IAPP/International Association of Parliamentarians for Peace)」を発足させて以降、イベント開催のための事業費が急増したことが確認されている。

最近、旧統一教会と政界との癒着疑惑が浮上するなか、UPFが毎年大規模な政治イベントを開催するために莫大な資金を投じてきた背景について、権力との接点を拡大するための「戦略的投資」だとする見方が出ている。

本サイト提携メディア『時事ジャーナル』が入手したアメリカの内国歳入庁(IRS/Internal Revenue Service)の非営利団体税務報告書(フォーム990)によると、UPFは2010年から2023年までに事業費として計8895万ドル(約137億円)を支出した。

同期間の総支出額が9374万ドル(約145億円)である点を考慮すると、少額の運営費や人件費などを除いたほぼすべての支出が事業に充てられていたことが分かる。

UPFは、旧統一教会創始者の故文鮮明(ムン・ソンミョン)氏と韓鶴子(ハン・ハクチャ)現総裁によって2005年に設立された非営利団体で、本部は米ニューヨークに置かれている。

旧統一教会
左から故文鮮明氏、韓鶴子総裁(写真=時事ジャーナル)

「政府、宗教、教育、市民社会が相互尊重の下で連帯し、平和を構築する」という設立理念を掲げているが、実質的には世界各国の政治家が参加する国際イベントやカンファレンス、フォーラムの主催が中核事業となっている。ドナルド・トランプ米大統領、安倍晋三元日本首相が祝辞を寄せた「ワールドサミット(World Summit)」は、代表的な年次イベントとされる。

韓国国内では、チョン・ドンヨン統一部長官や「国民の力」ナ・ギョンウォン議員が今年のワールドサミットで演説を行った。

このように大規模な国際政治イベントを主催していることから、UPFは旧統一教会傘下の非営利団体の中でも、対外活動の中心軸と位置付けられている。

実際、歴代のUPF理事会にはユン・ヨンホ元世界本部長、文姸娥(ムン・ヨナ/文鮮明氏の長男の後妻)鮮鶴学園理事長、文善進(ムン・ソンジン)元世界会長など、教団の中核人物が名を連ねてきた。

旧統一教会の政界ロビー疑惑を捜査している警察庁特別専担捜査チームの家宅捜索対象にも、天正宮、旧統一教会本部とともにUPF国内事務所が含まれていた。

2017年から増えた事業費、安倍氏銃撃後に半減

資料によると、UPFは2005年以前も、その前身である「世界平和超宗教超国家連合(IIFWP)」の名称で、毎年おおむね1000万ドル(約15億円)規模の事業費を執行してきた。

事業費の大半は「国際教育プログラム」の名目で行われる大規模国際イベントの開催費用や、それに伴う補助金の支給、参加者の移動のための旅費などに集中していた。出版やメディア、宗教委員会の運営なども別項目に含まれているが、年間事業費に占める割合は10万ドル(約1548万円)水準にとどまり、比重は小さかった。

こうした支出の流れは2010年を境に一時的に鈍化する。UPFの2010年の事業費は196万ドル(約3億351万円)で、前年(648万ドル=10億円)に比べて3分の1以下に急減した。

その後も2016年まで、年間事業費はおおむね200万ドル(約3億967万円)前後にとどまった。寄付金収入の減少により、事業費の執行も抑制的に行われたものとみられる。

しかし、UPFは2017年から、国際イベント開催などの主力事業に再び多額の資金を投じ始める。

2016年に158万ドル(約2億4460万円)だった年間事業費は、2017年に465万ドル(約7億1989万円)、2018年に518万ドル(約8億214万円)と増加し、2019年には1695万ドル(約26億2479万円)まで急騰した。わずか3年で、事業費の規模が10倍以上も拡大した計算になる。

その後も、新型コロナウイルス感染拡大が最も深刻だった2021年(708万ドル=約10億9637万円)を除けば、2020年に1326万ドル(約20億5351万円)、2022年に1869万ドル(約28億9443万円)、2023年に848万ドル(約13億1325万円)と、毎年おおむね1000万ドル(約15億4862万円)前後の資金が主力事業に投じられてきた。

注目されるのは、事業費が本格的に増加し始めた2017年が、UPFが各国の前・現職議員で構成される連合体「世界平和国会議員連合(IAPP)」を創設した直後に当たる点だ。

UPFは2016年にIAPPを設立し、その年だけで韓国、ベナン、コートジボワール、ナイジェリア、コンゴ民主共和国で計5回の総会を後援した。翌2017年には後援回数が年間40回以上と8倍超に増加し、その後も毎年20回以上の後援が続いた。国際政治家との接点を広げるイベントの規模と頻度が拡大するにつれ、事業費支出も急激に増えたのである。

UPFは、こうしたイベントで講演者として招いた政治家に対し、高額な講演料を支払っていたことも確認された。

UPFが講演料として支出した総額は、2021年が184万ドル(約2億8493万円)、2022年が584万ドル(約9億435万円)、2023年が62万ドル(約9601万円)だった。個別の講演者に支払われた具体的な金額は明らかになっていないが、ドナルド・トランプ米大統領が2021年と2022年にUPFイベントでそれぞれ10分前後の映像メッセージ形式の講演を行い、合計250万ドル(約3億8714万円)を受け取っていた事実が、米大統領候補の財務報告書を通じて公開された例もある。

UPFが毎年多額の事業費を支出できた背景には、それに見合う寄付金や補助金収入が存在していたとみられる。

実際、事業費が急減した2010年、UPFの寄付金および補助金収入は285万ドル(約4億4136万円)にとどまり、前年(777万ドル=12億330万円)に比べて67%減少していた。

2023年にも同様の傾向が見られ、同年の寄付金収入は149万ドル(約2億3075万円)で、前年(3290万ドル=約50億9509万円)から95%も急減した。それに伴い、事業費も1869万ドル(約28億9457万円)から848万ドル(約13億1332万円)へと、1000万ドル以上減少した。

特に、安倍晋三元首相銃撃事件以降、旧統一教会の日本国内での収入が急減した点が要因として指摘されている。

日本政府は2022年7月、安倍元首相を殺害した犯人が「母親が統一教会に多額の寄付をして家庭が崩壊した」と動機を供述したことを受け、旧統一教会の高額献金問題を本格的に調査し始めた。

その後、裁判所への解散命令請求など、法的・行政的措置が相次ぎ、旧統一教会の財政において大きな比重を占めていた日本国内の献金や物品販売収入などの資金源が断たれたとされる。こうした日本発の資金縮小が、UPFの財政にも影響を与えた可能性が高いというのが専門家の分析だ。

韓国捜査に反発したアメリカ…旧統一教会のNGO活用法か

非政府組織(NGO)が登録された固有の目的に沿って、事業に資金を投じること自体を問題視するのは難しいという指摘もある。

UPFは「創設以来、一貫して進めてきた国際的事業実績が認められ、2018年7月に国連経済社会理事会(ECOSOC)から最上位の地位である『包括的協議資格(General Consultative Status)』を承認され、幅広いNGO活動を展開している」と説明している。目的に合致した広範な国際NGO活動が合法的に可能だという意味だ。

また、IRSの税務報告書ではロビー活動に支出した費用を別途記載する必要があるが、UPFは発足以来、直接的なロビー資金を支出した事実が一度もなかったことも確認されている。

それでも、旧統一教会が毎年数百億ウォン規模の資金を投じてUPFのようなNGOを運営している背景には、政治的な思惑があるとの見方が出ている。韓国国内外の政治権力との接点を確保するための「長期的投資」と捉えられるというのだ。

アメリカの政治家の動きは、こうした解釈に説得力を与えている。今年、トランプ政権はキム・ゴンヒ特検チームが旧統一教会を家宅捜索したことに対し、韓国政府に対して懸念を超え、怒りに近い反応を示した。

UPF主催イベントに少なくとも4回以上出席したマイク・ポンペオ前米国務長官は、9月に行われた特検による韓鶴子総裁への召喚調査の試みに対し、「宗教の自由の侵害だ」として公然と圧力をかけた。

専門家たちも、こうした場面が偶然ではないと見ている。特に、旧統一教会が抱える外郭組織の規模と範囲を考慮すれば、UPFの事例は氷山の一角に過ぎないというのが共通した見方だ。

国税庁の公益法人決算公示によれば、昨年時点で旧統一教会の資産を管理する世界平和統一家庭連合維持財団の資産規模は3兆ウォン(約3136万円)を超えている。

長神(チャンシン)大学の卓志一(タク・ジイル)教授は、「韓鶴子総裁の旧統一教会は、宗教組織だけでなく、数多くの外郭組織を持っている。その理由は、旧統一教会や世界平和統一家庭連合という名称に対する拒否感のために遂行しにくい政治的・対外的活動や国際的ネットワーキングを担わせるためだ」とし、「これら非営利団体の資金は、旧一教会が保有するタコ足式の巨大事業体に加え、現金動員の基盤となる信徒の献金や資産から出ていると見るのが合理的だ」と説明した。

(記事提供=時事ジャーナル)

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