「街中の時限爆弾」被害妄想に沈む殺人者たち 日常に潜む“予測不能の凶行”を防ぐには《韓国専門家の見解》

2026年01月03日 社会 #時事ジャーナル
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「被害妄想」とは、他人が自分を欺こうとしている、監視している、あるいは危害を加えようとしているという考えに執着する状態を指す。単なる錯覚ではなく、現実を判断する能力が深刻に歪められた状態だ。本人は自分が妄想する世界を現実そのものだと固く信じているため、合理的な対話や説得は通用しない。

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このような被害意識が蓄積され、そこに特定のきっかけ(失職、別れなど)が加わると、それが引き金となって爆発し、家族や周囲の人々、さらには社会全体に深刻かつ広範な危険をもたらすことがある。妄想に基づく殺人などの凶悪犯罪へと発展する可能性もあり、誰もが被害者になり得る。

忠清北道清州市五松邑(チュンチョンブクト・チョンジュシ・オソンウプ)に住むA氏(78)は、誰かが自分を害そうとしているという妄想にとらわれていた。彼は10年来の知人であるB氏(85)を疑い、執拗に意識するようになる。

昨年5月19日、A氏はB氏に電話をかけ、五松邑西坪里(ソピョンリ)のあるバス停付近で会おうと約束した。A氏はポケットに刃物を忍ばせ、自転車に乗って約束の場所へ先に向かい、待ち構えていた。

一人で叫ぶ、罵声を浴びせるなど異常行動の兆候

しばらくしてB氏も自転車で現れ、2人はおよそ10秒ほど会話を交わした。

その直後だった。

A氏はポケットから刃物を取り出し、B氏に向かって振り回し始めた。無防備な状態で逃げる間もなく攻撃を受けたB氏は、刃物で刺されて地面に倒れた。しばらくして、心停止状態で倒れているB氏を発見した住民が119番通報し、警察と消防が出動して病院へ搬送したが、最終的に死亡が確認された。

警察は防犯カメラ(CCTV)を確認し、A氏を殺人容疑者として特定、自宅で身柄を確保した。A氏は警察に対し「恨みがあった」と供述したが、日常的に妄想にとらわれた末の犯行だったことが判明した。被害妄想が、ついに悲劇へとつながったのである。

妄想犯罪の被害は、家族であっても例外ではない。昨年7月、自身の誕生日を祝ってくれた息子を手製の銃で殺害し、大きな衝撃を与えた「仁川(インチョン)銃器殺人事件」の犯人も、妄想に陥っていたことが明らかになった。

C氏(62)は結婚後、性犯罪を起こして妻と合意離婚した。元妻は驚異的な事業手腕で成功を収め、約120億ウォン(約12億円)規模の資産を築く資産家となった。2人の間には息子が1人いた。C氏は離婚後も元妻に依存して生活し、元妻名義の約70坪のマンションに住み、毎月生活費などの支援を受けていた。

被害者となった息子は、母親が経営する企業の子会社の代表だった。C氏は元妻とは別に、息子にも生活費を要求し、別途支援を受けていた。両者から支援されていた生活費は、それぞれ月320万ウォン(約32万円)、合計640万ウォン(約64万円)に上っていた。ところが、生活費を二重に受け取っていた事実が元妻に発覚し、片方の支援が打ち切られる。

C氏はこの時から、元妻と息子が自分を排除し、孤立させているという妄想にとらわれ、孤独感を募らせた末に犯行を計画し、実の息子を殺害した。

彼はそれにとどまらず、現場にいた嫁、孫2人、さらに嫁の知人(外国人家庭教師)までも犯行対象にしようとしていた。C氏は犯行の過程で、血も涙もない姿を見せた。この事件は、被害妄想がいかに恐ろしい結果を招くかを端的に示す事例である。

昨年9月、ゴルフ場でキャディとして働いていた元同棲相手を殺害したD氏(50代)も、妄想に陥った末の犯行だった。

彼は2009年から昨年7月まで約16年間、被害者と同棲し、事実婚関係にあった。旅行会社を経営していたD氏は、コロナ禍で経営が悪化すると、被害者から生活費などの経済的支援を受けていたが、次第に過度な金銭要求などを巡って対立が深まり、最終的に被害者から別れを告げられた。

D氏は偶然、被害者が元夫などに送金した履歴を確認し、元同棲相手が自分を捨て、元夫や子どもたちと再び家庭を築こうとしているという妄想を膨らませていった。

そして最終的に、ゴルフ場の作業員を装って近づき、元同棲相手を殺害した。D氏の場合、別れの原因が自分にあるという事実を否定し、被害者のせいにして怒りを増幅させたと見ることができる。

写真はイメージ
(写真=サーチコリアニュース編集部)

2024年7月29日夜、ソウル恩平区応岩洞(ウンピョング・ウンアムドン)のあるマンション正門前の路上では、凄惨な殺人事件が発生した。

このマンションの住民であるE氏(37)が、たばこを吸っていた同じマンションの住民(43)を突然、日本刀で襲撃したのである。被害者は額、腕、腹部を刺されて病院へ搬送されたが、死亡した。警察の調べによると、加害者E氏と被害者は顔見知り程度で、特別な人間関係はなかった。

犯行当時、E氏は酒や薬物を摂取していた状態でもなかった。彼は警察に対し、「被害者が継続的に自分を尾行している中国のスパイだと思い、犯行に及んだ」と供述した。日本刀を持ち出した理由については「中国スパイを処断するためだ」と、支離滅裂な発言をしていた。

警察によると、E氏は2021年頃、勤務していた会社を不祥事で退職した後、特段の社会活動をしていなかった。この頃から、マンション住民との間でトラブルを起こすなど、異常行動が見られるようになったという。

2023年10月以降は「中国のスパイが韓国に戦争を起こそうとしており、自分がそれを阻止しなければならない」という妄想に陥り、最終的に殺人事件へとつながった。この結果、何の落ち度もない平凡な住民が命を落とした。大黒柱を失った妻、父を失った2人の息子は深い苦しみに突き落とされ、円満だった家庭は崩壊してしまった。

E氏の場合、一人で叫んだり罵声を浴びせたりするほか、日本刀を持ち出して遊び場にいた子どもたちに「剣術ごっこをしよう」と近づくなど、事前に異常行動の兆候があったが、最終的に惨事を防ぐことはできなかった。

いつ、どこで、誰に起きるか予測が難しい

妄想犯罪の特徴を見ると、加害者が現実とかけ離れた非合理的な信念(妄想)にとらわれていることがわかる。

多くの場合、「誰かが自分に危害を加えようとしている」という被害妄想を抱いている。彼らの妄想は非現実的だが、本人の世界観の中では非常に論理的で体系的であることも多い。

そのため、周囲の人々は、妄想に関わる部分を除けば、彼らが普通に日常生活を送っていると錯覚することがある。

問題は、一度妄想に陥ると、考えが簡単には変わらないという点だ。妄想が事実と異なっていても、論理的な説明や反論では修正されず、自分の信念が非合理的だということを受け入れられない。これは、個人の学歴や社会的地位などでは説明できない。

妄想は一度始まると、自ら増殖していく性質がある。一般人には荒唐無稽に見えても、本人にとっては切実で現実化される。

妄想が深刻化すると、不安や怒り、被害的な性格が強まり、時にはうつ病や人格障害などを伴うこともある。そこに統合失調症(精神分裂症)などの重篤な精神病性症状が加わると、時限爆弾のように極めて危険な状況へと発展しかねない。いつ凶悪犯罪に及ぶか分からないからだ。

被害妄想が最も極端に表出する形が「殺人」である。

一般的な殺人犯罪は、金銭、痴情、怨恨など現実的な動機を持つ。それに対し、妄想殺人は、非現実的な妄想を解消または防衛する手段として発生する。「被害者が自分を殺そうとしていたため、正当防衛として先に排除した」という信念のもとで行われる殺害である。

冒頭に取り上げたバス停付近で知人を殺害したA氏のケースが、これに該当すると見ることができる。

「配偶者の不倫相手、あるいは不倫に関与した人物だ」という誤った確信のもとで相手を殺害するのは、嫉妬妄想による殺人に該当する。

また「自分が世界を救わなければならない」「何らかの使命を果たしている」という宗教的誇大妄想にとらわれて殺人を犯すこともある。

妄想による殺人は、予防が非常に難しい。彼らの行動が、現実に基づく予測可能な論理ではなく、個人の歪んだ非合理的な妄想によって動機付けられているからだ。

一般的な犯罪は比較的明確な動機があるため、ある程度の予測が可能だが、妄想犯罪は、いつ、どこで、誰に起きるのかを予測することが極めて難しい。

被害者が実際には何の落ち度もなくても、妄想の中で「自分を害する存在」と規定されれば、誰であっても犯行対象になり得る。

妄想は論理的思考では修正できない強固な信念であるため、対話や説得は通用しない。一度犯行を決意すると、他人が介入して制止しても無意味だ。犯行の形態も残忍になりやすい。被害者に向けられた敵意や恐怖が、極端な形で表出し、犯行が凄惨になる場合が多いからである。

危険人物に遭遇したらどうするべきか

問題は、妄想に陥っている人の多くが、自分の状態を病気だと認識していない点にある。自発的な治療だけでなく、外部からの管理や介入も拒否、あるいは不快に感じる。根本的な精神疾患が治療されない限り、妄想は再発し、いつでも再び危険な行動に及ぶという悪循環が続く。

妄想殺人者は、現実感覚を失ったまま自分だけの世界に閉じこもって行動するため、一般的な社会安全網や常識的な対応策では、その危険性を制御することが極めて困難であり、最も危険な存在だと言える。

では、事件が起きた際、ただ無力に被害を受けるしかないのだろうか。

精神健康の専門家たちは、いくつかの原則と一般的な安全対策を通じて、リスクを最小限に抑える方法を提示している。妄想犯罪は不特定多数を対象とすることが多いため、日頃から個人の安全に対する基本的な注意を払うことが最善だという。

見知らぬ人の接近や異常行動に対して、常に警戒心を緩めてはならない。特に、人通りの少ない場所や夜遅くに一人で行動することは避けるべきだ。

状況や人物に不快感や危険を感じたら、速やかにその場を離れることが望ましい。イヤホンで大音量の音楽を聴くなど、周囲の状況を把握しづらい行動は控え、常に周囲に注意を払いながら移動する必要がある。

もし、妄想症状を示す危険人物と直接遭遇した場合、その妄想について論争したり嘲笑したりせず、直ちにその場を離れるべきだ。危険と思われる状況や他人の異常行動を目撃した場合は、無関心にやり過ごさず、必要に応じてためらわず警察に通報することが重要である。それが、取り返しのつかない被害を防ぐことにつながる。

誰かが自分や他人に明確な危害を加える恐れがある場合、あるいは深刻な妄想により制御不能な状態にある場合にも、通報して助けを求めるべきだ。

●探査ジャーナル、チョン・ラギン事件専門記者

(記事提供=時事ジャーナル)

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