トランプ大統領や金正恩氏が何と言おうと、韓国は「非核化」の原則を貫かなければならない

2025年11月01日 国際 #時事ジャーナル
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トランプ米大統領が韓国の慶州(キョンジュ)で開かれたAPEC首脳会議などへの歴訪の途上で、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との「電撃的な会談」を試み、世界を揺るがせた。

【注目】韓国に「興味がない」と金正恩の妹

記者の質問に答える形式を利用し、繰り返し金委員長を“誘い出す”ような発言を行ったのだ。

まず10月24日、「北朝鮮がアメリカと対話するには“核保有国(nuclear power)”として認められる必要があると主張しているが?」という質問に対し、トランプ氏は「ある意味、“核保有国”だと思う。私は北朝鮮がどれほどの核兵器を保有しているかを知っており、北朝鮮のすべてを把握している。本当に多くの核を持つようになれば、そのとき私はそう認めるだろう」と答えた。

さらに10月27日、「金正恩に提示するカードは何か?」との問いには、「制裁だ。それがかなり大きな出発点であり、ほぼ最大のものになるだろう」と発言。可能性と曖昧さ、そして自信を交えたレトリックで対話の糸口を探る姿勢を見せた。

トランプ大統領はまた、マルコ・ルビオ国務長官兼国家安全保障補佐官を背後に立たせ、対北提案の信頼性を高める演出も行った。

こうした突発的な発言は、北朝鮮を中・露・朝の“弱点”と見なし、前線をかく乱することで金委員長の挑発の口実を和らげ、軍事的緊張を緩和しようとする布石と解釈される。米日、韓米、米中の各首脳会談の中で主導権を握る狙いもあったとみられる。

トランプ大統領(左)と李在明大統領
(写真=大統領室通信写真記者団)10月29日、米韓首脳会談の記念撮影を行うトランプ大統領(左)と李在明大統領

しかし、北朝鮮の核問題に対する実質的な解決策を示さないまま、“フォトセッション”やYouTubeショート動画の政治的パフォーマンスばかりを意識したようなトランプ氏のやり方は、信頼に値するとは言いがたい。

韓国の感情的な一部メディアや、対北融和的な政治家・学者たちまでもがこれに便乗し、「希望的観測」に陥っているようにも見える。根拠や実現性が乏しいにもかかわらず、“望むこと”を“現実”と信じてしまっているのだ。

こうした風潮は、「北朝鮮を事実上の核保有国として認め、制裁を緩和すべきだ」という方向に傾く危険を孕んでいる。ある与党議員は「米朝首脳が開城(ケソン)で会うかもしれない」と興奮し、李在明(イ・ジェミョン)大統領の同行を求める発言までした。

トランプ「北朝鮮は一種の“核保有国”だ」

韓国政府の内部では意見が二分された。

ウィ・ソンラク国家安保室長は一貫して「情報も証拠もない」と述べ、トランプ・金正恩会談の可能性を低く見積もった。「まだ対話の入り口に過ぎない」として期待値を下げ、「李大統領が必ず参加すべきだとは考えていない」という立場を示した。

チョ・ヒョン外交部長官もまた、「北朝鮮がさらに多くの要求を突きつける可能性があり、制裁問題を対話の前提条件にするのは難しい」と述べた。

一方、チョン・ドンヨン統一部長官は最後まで希望を捨てなかったが、結局何も起きなかった。そもそも「会うこと自体が目的」という成果のない会談であり、実務的な支えもなく、破綻は必然だった。

アメリカの高位国防当局者が10月22日、「北朝鮮が極超音速弾道ミサイルを完成させたという証拠はなく、大陸間弾道ミサイル(ICBM)も大気圏再突入を含む飛行全段階で完全な性能を示していない」と発言。10月27日にも米国務省高官が「アメリカの対北政策は依然として“非核化”だ」と明言した。

金正恩側も会談提案を受け入れない姿勢を見せ、10月27日にはチェ・ソニ外相をプーチン大統領のもとへ派遣し、北露の信頼関係を再確認。翌28日には西海上で艦対地戦略巡航ミサイルの試射を実施した。トランプ氏も29日、「いずれ再び会うことになるだろう」と後退姿勢を示した。

筆者はこれについて2つの観点を提示したい。

第一に、「準備しながら時を待つ」ことだ。『中庸』では、君子の徳として“時中”を挙げている。すなわち、歴史と時代の流れを読み、機を知り、実力を蓄えて実践する力だ。

金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、文在寅(ムン・ジェイン)の歴代大統領の南北首脳会談を振り返ると、いずれも「北朝鮮が手を差し伸べざるを得ない状況」で行われてきた。

1994年に金日成(キム・イルソン)主席が死去してから2000年までの「苦難の行軍」時代、2007年10月には金正日(キム・ジョンイル)が健康悪化で後継問題を急いでいた時期、そして2016年1月の第4次核実験後、国際制裁が本格化して経済的に追い詰められた時期だ。

米朝接近の裏には、常に中国の牽制があった。習近平国家主席は2018年、「中国が国連安保理の対北制裁を忠実に履行している間に、米朝は交渉を進めた」と不快感を示し、以降、金正恩との会談を計5回重ねた。

現在の北朝鮮は、国際政治的にこれまでで最も強い立場にあるとされる。中露との結束が強固で、アメリカの大統領ですら彼に会おうと努力するほどだ。

第二に、「非核化なき平和」は成立しないということだ。南北の平和を唱えても、非核化を達成できなければ国民の理解は得られない。

平和とは守り抜く力から得られるものであり、非核化の過程でも「誰がより多くの利益を得るか」「合意を守るか否か」は最終的に“力の論理”に帰結する。3政権にわたる南北首脳会談、3度の米朝首脳会談がいずれも成果を残せなかった歴史が、その証拠だ。

「NPT体制」への疑念も

国際社会ではリアリズムが台頭している。日本の高市首相も「戦後で最も厳しい安全保障環境だ」と語り、トランプ、習近平、プーチン、金正恩が追求する“力の政治”の列に加わっている。

北朝鮮国旗
(写真=OSEN)

国際社会には国家を統べる上位機関が存在せず、各国は不安と恐怖の中で攻撃能力を高める。相手国の意図は不明確で、善意か悪意かもわからない。国の本質が“生存”である以上、国家は合理性によって動く――これがリアリズムの説明力を高めている。

しかし、与党や国策シンクタンク、学界、市民社会の中で影響力を持つ“対話基盤の対北接近派”は、この現実主義や歴史の教訓に十分注意を払っていない。「核を持つ北朝鮮」との共存の限界は誰もが理解しているはずなのに、彼らは知らず知らずのうちに金正恩兄妹の戦略フレームに乗せられている。

先に平和体制を求め、南北首脳会談を万能視し、「2つの国家論」に同調し、韓米合同訓練の中止や先行的なリスク削減を唱える。そうした非合理的な主張を繰り返しているのだ。その結果、国家存亡をかけた“非核化”という本来の目標が抜け落ち、国民を不安にさせている。韓国の戦略的利益を損ね、北朝鮮を誤算させ、アメリカの信頼をも失う危険な姿勢だ。

金委員長がどれほど核保有国と既成事実化しようとも、中露が北を庇おうとも、トランプ氏がイベント政治に走ろうとも、韓国人であるならば断固として北の核を拒み、非核化を守る主体性と、統一韓国を実現するアイデンティティを失ってはならない。

もし中露が北朝鮮の核を国際法的に容認するような事態になれば、韓国だけがいつまでも「核不拡散条約(NPT)」体制にとどまるべきなのかという疑問が生じるのも当然だ。

李在明大統領が「E・N・D(交流・正常化・非核化)」に続き、10月29日のAPEC韓米首脳会談で原子力潜水艦建造の合意を取り付け、防衛力強化に踏み切ったのは極めて適切な判断だ。

今こそ、北核外交と韓米同盟の抑止力を基盤に、北朝鮮の“変化の時”を引き寄せるべきだ。

●成均館大学国政専門大学院、チョ・ギョンファン兼任教授

(記事提供=時事ジャーナル)

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