朴槿恵大統領の弾劾訴追案の採決が注目される韓国で、ひそかに中国人観光客の“韓国離れ”が深刻化している。
複数の韓国メディアによると、中国人が数多く訪れる韓国のショッピング街・明洞(ミョンドン)や東大門(トンデムン)で、飲食店や衣料店の売上が急落しているという。
中国人観光客が減ったからだ。
そもそもここ数年、韓国は幅広い分野で中国と“蜜月時代”を築いていた。アメリカの世論調査機関ピュー・リサーチ・センターによるアンケートによると、韓国人の中国に対する好感度は61%。多くの韓国人が中国に好感を抱くようになったことがわかるだろう。
そんな蜜月を象徴するように、韓国を訪れる中国人観光客も右肩上がりで増えた。今年も1~11月までに訪韓した中国人観光客は、昨年同期間と比べて37%も“増加”している。
しかし、7月以前と以降とでハッキリと明暗が分かれた。具体的な数字を見るとわかりやすい。
7月(91万7518人)に比べて、8月(87万3771人)は5%ほど減少。さらに10月は68万918人と、7月比24.8%もの下落を見せている。要するに、ここ数カ月で“韓国離れ”が加速しているのだ。
原因の一つとして、米軍の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備が挙げられる。
韓国がTHAAD配備を最終的に確定した7月から、「中国は観光・文化・韓流など多方面で直接的・露骨的に報復をはじめた」(『亜州経済』)という見方だ。いわゆる“禁韓令”だろう。
ただ、政治的な理由ばかりと見るのは短絡的かもしれない。というのも、それ以外の原因で少なくない中国人観光客が「二度と韓国に行きたくない」などと失望していたというニュースや分析もあったからだ。さらにもう一点を付け加えるのであれば、最近の韓国で増えている観光客のトラブルの影響もあるかもしれない。
そういったことも影響していると思えるが、いずれにせよ中国人観光客の減少は、韓国ショッピング街に多大な影響を与えている。
とある韓国メディアは、明洞の飲食店店主らに話を聞いているのだが、店主たちは口々に「中国人が目に見えて減っている。中国人観光客が売上の半分くらいだったので、直撃弾を食らっている」などと話している。なかには「売上が40%以上も落ちた」と答える店主もいた。
興味深いのは、こういった報道を見た韓国人の反応が驚くほど冷たいことだ。
むしろネット上には、「中国人だけ優待して自国民の扱いを下げたやつらが何を言っているんだ」「この間、良い思いをしただけでも贅沢」「外国人観光客のせいで明洞はすべての値段が上がった。観光客も離れるわけだ」「韓国で商売しているのに、中国人がいなければ維持できないなんて、存在する価値がない店と言っているようなもの」などなど、“中国人観光客ファースト”で営業していた店舗を非難する声ばかりだった。
実際に、中国人観光客によってもたらされた弊害も少なくなかったからだろう。韓国各地で相次いだ中国人観光客による理不尽すぎる暴行事件などが、韓国人の中国人観光客に対する心象を悪くするに十分だったかもしれない。
とりわけショッキングだったのは“聖堂殺人事件”だ。韓国随一のリゾート地・済州島のとある教会で、韓国人女性が中国人観光客から複数回刺されて死亡する事件は、韓国社会に大きな波紋を呼んだ。その衝撃は今も冷めない。
いずれにしても、韓国メディアは中国人観光客の”韓国離れ”は当分続いていくという見方が強い。そんななかで中韓の蜜月時代を築いてきた張本人、朴槿恵大統領に弾劾訴追案が採決されるとなれば、皮肉以外のなにものではない。はたして…。
(文=慎 武宏)
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