韓国の若者たちに広がる反中感情、原因は?イデオロギーではなく、“日常での摩擦”と政府の忖度

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韓国に中国人団体観光客が再び押し寄せている。

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韓国政府が9月29日から来年6月30日まで、中国人団体観光客の無ビザ入国を許可したためだ。

観光は内需サービス業の重要な柱といえる。外国人観光客が増えるということは、内需市場、特に零細自営業者の多い飲食業・宿泊業にとって追い風となる。

法務部によると、今年9月に韓国へ入国した中国人は52万5396人で、前年同期比16.4%増加した。事実上、無ビザ政策が10月から施行されたことを考慮すると、第4四半期の旅行需要はさらに大きく増加すると予想される。

韓国では若い世代ほど反中感情が強い

外国人観光客が韓国を訪れることはありがたいことだ。しかし論争が絶えない。

今年の秋夕(チュソク)連休期間、オンライン上では済州島・龍頭海岸で幼い子どもに排泄をさせていた中国人観光客の写真が拡散し、多くの人々の怒りを買った。

同じ頃、京畿道のある焼肉店では、中国人団体客が店内でたばこを吸い、トイレの洋式便器を壊すなどの醜態をさらし、眉をひそめさせた。クルーズ船で入国した中国人観光客のうち数人が姿を消したというニュースには、「無ビザ政策を撤回しろ」というコメントが相次いだ。

無ビザ団体観光の許容が反中感情に火をつけた格好だ。

韓国の仁川国際空港
(写真=OSEN)韓国の仁川国際空港

アメリカのピュー・リサーチ・センターは今年7月、中国に対するイメージ調査を発表した。24カ国2万8333人を対象としたものだ。

この調査で、中国に対する好感度は前年(31%)より5ポイント上昇した36%と示された。非好感度は61%から54%に下落した。前年より中国への好感度が高くなったのは、2020年のパンデミック発生以降、初めてだ。

しかし韓国人の認識は依然として冷ややかだった。韓国は25カ国の中で唯一、中国への好感度が前年より低下した国だった。

注目すべき点はもう一つあった。それは世代だ。

多くの国では若い世代(18~34歳)が中高年世代(50歳以上)よりも中国を肯定的に評価した。ポーランド、イギリス、カナダなどでは若い世代の中国の好感度が中高年の2倍にもなった。

ところが韓国では、年齢が低いほど中国への非好感度が高かった。この傾向は今年だけでなく、ここ数年の調査でも一貫して確認されている。反中には男女差もない。中国風表現の論争を引き起こしたドラマ『朝鮮駆魔師』は、女性中心のオンラインコミュニティによる「総攻勢」に屈し、放送2回で早期終了した。

2000年代まで、韓国の青年たちの対中認識はかなり好意的だった。中国発の好況のおかげだった。中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟し「世界の工場」として位置づけられると、中間財の需要が爆発的に増加した。その相当部分が韓国に流れ込んだ。

世界貿易の拡大により商業船舶の需要も急増した。このとき最も恩恵を受けたのが韓国の造船会社だった。中国のおかげで企業の業績が伸び、雇用が増えたのだから、若者が好感を持つのは当然だった。

状況が変わり始めたのは、2010年代からだ。2010年に中国のGDPは日本を追い抜き、世界2位となった。名実ともにG2へと成長した中国は、「狼戦士(戦狼外交)」のような姿勢で周辺国を威圧した。

2017年のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備が引き金となった中国政府の「限韓令」(韓流制限令)と観光統制は、今も多くの人々にとって脅威的な記憶として残っている。中国で1994年から実施された愛国主義教育を受けてきた世代が青年となり、韓服やキムチの起源をめぐってオンライン上で韓国の若者と絶えず衝突してきたという事実も見過ごせない。

「政府が中国に遠慮している」という不満も

中国人への嫌悪は、ほかの外国人に対する嫌悪とは性格が異なる。

例えば黒人やアラブ人に対する嫌悪が「不慣れさ」から生じたものだとすれば、中国人に対する嫌悪は「あまりにも慣れすぎている」ために膨らんだ側面がある。代表的な分野が観光だ。

ソウル明洞には多くの中国人観光客の姿が
(写真=時事ジャーナル)ソウル明洞には多くの中国人観光客の姿が

2008年に世界金融危機が起き、各国の消費が大きく落ち込んだ。これに伴い貿易量も急減した。これ以上、投資と輸出だけではやっていけなくなった中国は、消費に活路を見出した。2011年に経済発展に関する「第12次5カ年計画」を発表し、内需拡大を図った。この時期、中国の家計所得は急速に増加した。中産層が大規模に形成され、旅行需要も爆発した。

「遊客(ユーカー)」と呼ばれた中国人団体観光客は、近隣国に押し寄せた。彼らが出すごみや観光バスの違法駐車による交通渋滞は大きな悩みの種となった。「済州島が中国の土地になった」という不満の声が出たのもこの頃だ。こうした不満は皮肉なことに、THAAD問題後に中国政府が自国民の韓国団体観光を禁止し始めてから消えた。

今日の20~30代は、少なくとも大学時代から中国人と肩を並べて生活してきた。2010年前後、政府が大学の授業料統制を強化すると、各大学はこれを打開するため外国人留学生を大幅に増やした。外国人留学生の大半は中国人だった。

しかし多くの大学は、それを支える施設や教育システムを整備していなかった。韓国人学生は韓国語も十分にできない中国人留学生と同じ授業を受けざるを得なかった。グループ課題を共にする際には、彼らの不足分を補う負担を背負わなければならなかった。これは特殊な事例ではなく、2010年代に大学に通った若者世代なら誰もが経験したことである。

このように日常で感じた不便が、若者世代の反中感情を形成することにつながった。

最近、保守陣営がイデオロギー的問題として反中感情を刺激しているが、これは本質とは距離がある。保守陣営の一部が主張する「中国の不正選挙介入」などの論争は、一般の若者の間では話題にすらならない。一部の強硬保守系若者の声がメディアによって過大に取り上げられているにすぎない。

中国のせいで韓国国民が日常で感じるさまざまな不便に対し、政府が中国に遠慮して消極的に対応しているという認識は、反中感情をさらに強める要因として作用する。

中国発の微小粒子状物質(PM2.5)問題について、大統領当選前には「中国に言うべきことは言う」としていたのに、その後発言を控えた文在寅(ムン・ジェイン)元大統領が代表的な例だろう。最近の「中国人観光客へのレンタカー貸出許容検討」をめぐる論争も同じ文脈だ。

警察は「韓国人は中国で臨時運転免許を取得できる」として相互主義の原則を強調しているが、多くの人々は「韓国人が中国で臨時運転免許を取得する手続きは非常に厳しい」として、これに反発している。

中国人の無ビザ団体観光が許容されたことで、韓中両国民の接触面はさらに広がることになった。低迷する内需市場を考えれば、間違いなく歓迎すべきことである。しかし、日常での摩擦が以前のように反中感情を強めるきっかけとして働く可能性も否定できない。

その摩擦をいかに減らすかによって、中国をどう見るかという韓国人の世論も変わることになるだろう。

(記事提供=時事ジャーナル)

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