若者を集める“まきえ”に使われることも…なぜ韓国では若い人ほど中国を嫌うのか、高まる反中感情のワケ

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「中国は私たちが安全保障・経済・文化・人的交流などあらゆる分野で緊密に協力している重要な国家だ」

【注目】日本人の9割が“中国嫌い”の調査結果、韓国が共感

この発言をした大統領は誰だろうか。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領? いや、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領だ。それも今からわずか3カ月前に発した言葉だ。

尹大統領は昨年11月15日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)出席のため訪れたペルー・リマで、中国の習近平国家主席と韓中首脳会談を行った。その際、習主席の手を取り、「両国が相互尊重、互恵、共同利益に基づき、戦略的協力パートナー関係を充実させていこう」と述べた。

このように韓中協力を強調していた尹大統領だったが、わずか1カ月後には再び中国を持ち出した。ただし、今回は習近平ではなく「中国のスパイ」に向けてであり、戦略的パートナーではなく、「弾除け」としての役割を求める内容だったという違いがある。

12月12日の対国民談話で尹大統領は、非常戒厳令発動の理由を説明しながら、「中国人スパイが跋扈しているのに、野党がこれを処罰できないよう妨害している」と主張した。また、「中国産の太陽光発電施設が全国の森林を破壊している」とも述べた。

あからさまな戦略ではあったが、その効果は相当なものだった。保守派の支持層を強く刺激したのだ。

特に、あるメディアが「非常戒厳令が発令された当日、在韓米軍が選挙研修院で中国人スパイ99人を逮捕した」と報じた後、尹大統領の支持者たちの反中感情はさらに高まった。その記事を書いた記者は、虚偽事実流布の疑いで警察による出国禁止措置を受けたが、支持者たちはまったく意に介さなかった。

20~30代の44%「最も嫌いな国は中国」

尹大統領の支持者たち
(写真=時事ジャーナル)尹大統領の支持者たち

最近、弾劾反対派の陣営では反中・嫌中のスローガンがさらに強まっている。

これは単に中国へ怒りの矛先を向けるためだけではない。反中は若者を引き寄せる手段でもある。尹錫悦支持勢力は、弾劾反対の正当性を確保するために若年層の参加を繰り返し呼びかけている。

過去、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾時のように、中高年層だけが街頭に出るよりも、若者も共に行動したほうが幅広い支持を得られるように見えるからだ。彼らは「反中」が若者を引き込むのに適したテーマだと考えている。

実際、極右的な傾向を持つYouTubeチャンネルや「青年保守」系のオンラインコミュニティでは、反中の話題がますます増えている。ある若手政治家は、反中集会を主催するほどだった。

韓国の20~30代が強い反中感情を抱いていることは、すでによく知られている。韓国ギャラップが2023年2月に実施した「韓国人が好きな国・嫌いな国・生まれ変わったら住みたい国」に関する世論調査によると、20~30代の44%が「最も嫌いな国」として中国を挙げた。この割合は上の世代より10~20ポイントほど高かった。

日本・北朝鮮・ロシアを挙げた割合は、いずれも10%台にとどまった。

この傾向は、アメリカの世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが毎年実施する中国に対する認識調査にも表れている。比率に多少の変動はあるものの、変わらないのは「韓国の若年層は中高年層よりも中国への嫌悪感が強く、そのような国は調査対象国のなかで韓国だけ」という事実だ。

他の国々では年齢が上がるほど中国への反感が強まる傾向があるが、韓国だけは若年層のほうが中国を嫌っている。

中国と韓国
(写真=photoAC)

20~30代と40~50代の中国に対する見方の違いは、中国の国際的な地位の変化と関係している。

40~50代が若者だった20~30年前、中国は発展途上国として成長していた。特に2001年のWTO加盟後、「世界の工場」としての地位を確立し、経済成長が爆発的に加速した。隣国の韓国はその恩恵を直接受けることができ、中国関連の輸出企業はかつてないほどの好況を迎えた。中国が世界中に商品を供給するなかで、韓国の造船・海運業もその輸出品を輸送することで繁栄を遂げた。

設立から10年足らずで財閥13位にまで上り詰めたSTXグループの事例は、その時代の中国関連産業のダイナミズムを象徴している。

しかし、20~30代が就職市場に出始めた2010年代には状況が一変した。中国はもはや韓国から消費財・中間財を買う顧客ではなく、競争相手になっていた。さらに、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備問題以降、中国は韓国企業のビジネスを妨害する存在になった。

そこへ追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスが中国・武漢で発生し、民間経済に大きな打撃を与えた。

とはいえ、韓国の若者の反中感情の直接的な要因は、歴史や文化的な摩擦にあるといえる。中国の若者世代は、1994年から始まった愛国主義教育を受けて育った。2000年代の「東北工程(中国が韓国の歴史を自国史に組み込む動き)」をきっかけに、中国国内で民族意識が強まり、2010年代に入ると習近平政権の強硬な外交政策、そしてSNSの普及と相まって、ナショナリズムはさらに拡大した。

その結果、韓国の20~30代と中国の20~30代の間で、キムチや韓服をめぐる「起源論争」が頻発するようになった。さらに、K-POPグループ「TWICE」のツウィのように韓国で活動する台湾出身の芸能人が、中国のネットユーザーから攻撃される事例も相次いだ。

こうした摩擦が韓国の若者の間で反中感情を強める要因となっている。

青年たちの反中情緒、高齢層の「反共」とは違う

最近の20~30代の男女は、保守・進歩(リベラル)で明確に分かれている状況にもかかわらず、「反中」という共通の感情を持っている。しかし彼らの反中感情は、保守の伝統的な支持層である高齢層の感情とは異なる。

若年層の反中感情は、「イデオロギー」ではなく、「日常的な被害」と関連している点が特徴だ。

中国人留学生の増加による授業での不便さ、中国団体観光客のマナーの悪さ、微細粉じん(PM2.5)といった日常的な被害が、前述した要因とともに若者の反中感情を形成している。

太極旗集会の参加者が強調する「反共」とは距離がある。「滅共(共産主義撲滅)」を叫んでいた財閥企業の経営者は、若者の間で笑いの種になった。洪範図(ホン・ボムド)将軍の銅像移転問題で若者が尹大統領に冷笑を向けたのも同じ流れにある。

2020年代に「共産主義と戦う」ということ自体が、彼らにとってはコメディのように映るのだ。

尹大統領の弾劾に反対する人々は、反中が世論の支持を得るのに役立つと考えているようだ。例えば、与党「国民の力」のキム・ミンジョン議員は「中国人が弾劾賛成集会に参加している」と主張したことがある。

尹大統領の弾劾反対を訴える市民たち
(写真=時事ジャーナル)尹大統領の弾劾反対を訴える市民たち

しかし、弾劾に反対する市民ですら、その理由として中国を挙げることはない。

韓国ギャラップが2月14日に発表した定例世論調査によると、回答者の38%が弾劾に反対している。その反対理由として挙げられたのは、「野党の妨害・連続弾劾」(37%)、「戒厳令は大統領の固有権限」(13%)、「弾劾事由に該当しない」(10%)、「国政の安定」(6%)、「李在明(イ・ジェミョン)が嫌いだから」(4%)などであり、中国に関連する回答はなかった。

大統領と与党の「巻き添え作戦」に、中国政府は強く反発している。戴兵駐韓中国大使は「韓国の内政問題を中国と無理に関連づけることに反対する」と述べた。さらに、中国人観光客に対する極右系ユーチューバーの脅迫が、新たな韓中間の摩擦を引き起こすのではないかと懸念されている。

今の「反中扇動」が日常生活の不利益として跳ね返ってきたとき、はたして反中を掲げたからといって若者が弾劾反対勢力を支持するだろうか。「中国も嫌いだが、彼らのほうがもっと嫌だ」という声が聞こえてくるだけではないか。

(記事提供=時事ジャーナル)

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