サッカーの世界において、宿命のライバル関係にある日本と韓国。それゆえに代表監督は常に比較されるだけではなく、その対戦結果が進退問題にもかかわってきた。
例えばカタール・ドーハで行われた1993年ワールドカップ・アジア最終予選。韓国はハンス・オフト監督率いる日本代表に敗れたが、当時の韓国代表を率いたキム・ホ監督はこう振り返っている。
「ワールドカップ出場を決めて韓国に戻っても、テレビ番組で私の責任を問う公開討論番組が生中継されたほどでした。国民もマスコミも怒り心頭でした」
1994年アジア大会では準々決勝で韓国に逆転負けを喫したロベルト・ファルカン監督が、その試合を最後に解任された。
1997年のフランスW杯アジア最終予選の途中で更迭された日本代表の加茂周監督解任の引き金となったのも、韓国戦での敗北だった。
また、1998年3月のダイナスティカップでは逆に韓国のチャ・ボングム監督が日本に連敗したことで、解任の危機に立たされている。
2000年アジアカップ3位ながら韓国のホ・ジョンム監督が退陣した背景には、当時のトルシエ・ジャパンの躍進があったし、そのフィリップ・トルシエも2000年4月の日韓戦で敗れたことで、一時は解任寸前まで追い込まれた。
このように歴代監督の多くが、日韓戦の結果がその進退問題にかかわってきたが、直接対決をせずとも何かと比較される監督たちも多かった。
代表的なのが、日本を率いたトルシエと韓国を率いたオランダ人のフース・ヒディンクだろう。2人は何かにつけて比較され戦術、采配、年俸といったピッチの中はもちろん、家族、趣味、プライベートなどピッチ外の私生活まで比較されたほどである。
最近では2015年のアジアカップが記憶に新しい。
2014年ブラジルW杯後、日本はメキシコ人のハビエル・アギーレ監督に指揮を任せた。
ブラジルW杯でグループリーグ敗退した韓国は、現役時代から“国民的英雄”だったホン・ミョンボ監督が辞任。復活を期して外国人監督起用に舵を切るが、2010年南アフリカW杯でオランダ代表を準優勝に導いたベルト・ファン・マルワイク氏とは条件面で折り合わず白紙となり、イタリア人で元ユベントスの監督だったチロ・フェラーラ氏とも合意できず。新監督がなかなか決まらなかった。
そんな韓国とは対照的に、ブラジルW杯後に早々とアギーレ監督招聘を決めた日本に対し、韓国のメディアやファンたちたちは言ったものだった。
「韓国とは対照的な日本の迅速で確実な投資はいつも羨ましく映る。これがアジアのサッカー先進国と後進国の違いだ」
韓国は紆余曲折の末、1970~80年代にドイツ代表で活躍したウリ・シュティーリケと契約を交わしたが、メキシコ代表を2度のワールドカップ16強に導き、スペインリーグでも実績を残したアギーレと比較するとネームバリューは弱く、近年は中東カタールで活動していたことから“峠を過ぎた監督”と落胆するファンも多かったほどだ。
ところが周知の通り、アギーレはスペイン時代の八百長疑惑が発覚し、アジアカップでも準々決勝で敗退。逆にシュティーリケは韓国をアジアカップ準優勝に導き、一気にその株を上げる。
「シュティーリケとアギーレ、監督に対する韓日の温度差が克明」(サッカーメディア『SPORTAL KOREA』)と、韓国では2人を比較する記事まで出回ったほどだった。
だがしかし、そのシュティーリケも非難の矢面に立たされた。アジアカップ準優勝直後は「GODティレケ」と絶大な支持を得ていたのだが…。
と同時に、日本のハリル・ハリルホジッチとの比較も増えていった。
そもそも韓国でハリルホジッチは日本以上に有名人だった。日本代表に就任したときも、「韓国を泣かせたハリルホジッチ監督、日本代表監督に」(スポーツ新聞『スポーツソウル』)、「ホン・ミョンボ号を泣かせたハリルホジッチ、日本の司令塔に」(スポーツ新聞『イルガン・スポーツ』)といった大見出しが、韓国のニュースサイトを賑わした。
というのもブラジルW杯で韓国代表は、アルジェリア代表とグループリーグの第2戦で対戦。抽選決定直後から「勝てる相手」と見込み、一部では“フランスのイミテーション”と甘く見ていた韓国だったが、初戦から先発を5人入れ替えたハリルホジッチ監督の策に対応できず、2対4で完敗。煮え湯を飲まされている。その記憶から、ハリルホジッチの名を知る者が多かったのだ。
また、ワールドカップでの敗戦後はハリルホジッチの手腕と采配を高く評価する声も上がり、ファンや一部メディアでは韓国代表監督候補にも上がった。
そんな因縁の人物がライバル日本の新指揮官に就任したときには、韓国の大手ポータルサイト『NAVER』のスポーツニュースのコメント数ランキングで「ハリルホジッチ就任」のニュースが総合3位にランクインしたほどである。
当時、特に目を引いたのはネットメディア『SPORTAL KOREA』の記事である。「“偏屈男” ハリルホジッチ、日本の賭博は成功するか」と題された記事の中で、同メディアはこう綴っている。
「ひとつ目の懸念は、彼の偏屈な性格だ。ハリルホジッチは近年、率いるチームで不仲説が絶えない。外部からの干渉を嫌い、頑固な性質は良い悪いを別にして葛藤の種にもなる。実際、多くのチームを率いてきたものの、4年以上定着したところはなかった。
サッカースタイルも問題だ。日本がワールドカップ後にアギーレ監督を招聘した背景には、技術とパスを重視する日本サッカーの長所を最大限引き出せるという信頼があったからだが、ハリルホジッチのスタイルは異なる。彼がワールドカップで見せた印象的な指導力と、日本が志向する理想には違いがあった。
互いにある程度は調整するだろうが、追求する方向が異なれば混乱が起きる可能性もあるだろう」
韓国メディアからすると、ハリルホジッチは「頑固で堅守速攻のスタイル」という印象があるらしく、そんな彼が日本代表をどう変えていくか、韓国も注目していたわけだ。
ただ、そのハリルホジッチも日本のメディアやサポーターから支持を得られず、結局はロシアW杯前に更迭された。
韓国のシュティーリケは、ロシアW杯アジア最終予選の最中に更迭されている。
双方がお互いを意識していなくとも、それぞれ互いのライバル国を率いているため、比較される宿命からは逃れられなかった日本と韓国の代表監督たち。
2人からしてみれば面倒で迷惑な話だろうが、両国サッカーファンたちは今後もライバル国の代表監督には注目せずにはいられないだろう。
(文=慎 武宏)
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