「夏といえばビール」。一昔前までは共感を得られた言葉だったが、最近はどうも違うようだ。
日本のビール大手5社が7月12日、1~6月のビール系飲料の出荷量を発表した。それによると、課税済み出荷量は前年同期比1.3%減の1億9025万ケースだったという。
1ケースは大瓶20本換算ということだが、上半期としては5年連続で過去最低を更新。ビール、発泡酒、第三のビールともに減少しており、3分野がそろってマイナスになるのは、初めてのことらしい。
もっとも、ビール市場の縮小は日本に限らない世界的な傾向だという。
国際酒類市場研究所(IWRS)の報告書によると、世界のビール販売量は2016年に前年比1.8%減となっており、さまざまな酒類のなかで最も大きな減少幅を見せたというのだ。
ビール販売量の大幅な減少が見られたのは、中国(4.2%減)、ブラジル(5.3%減)、ロシア(7.8%)で、アメリカも5%減(今年2~4月)だった。
そんな世界的な傾向の逆を行っているのが韓国だ。
韓国メディアによると、韓国のビール市場の規模は昨年2兆8100億ウォン(約2810億円)となっており、前年比5.4%増。年々増加傾向にあるという。
韓国といえば焼酎のイメージがあるだろう。実際に、焼酎の広告モデルにトップ美女ばかりを揃えていることからも、各メーカーの努力は十分に伝わってくる。
そんななかでビール市場も元気というわけだが、詳しく調べてみると、韓国産ビールの売り上げの伸びはほぼ横ばいということがわかる。
つまり、韓国のビール人気を牽引しているのは国産ではなく、輸入ビールなのだ。
2013年には3000億ウォン(約300億円)に過ぎなかった輸入ビールの売り上げは、2016年に6200億ウォンと倍増。コンビニのビール売り上げのシェアを見ると、韓国産ビールは2015年の58.3%から今年は44.5%にも落ちている。輸入ビールは今年55.5%となっており、ついに韓国産ビールを追い越したという。
ではなぜ、韓国では輸入ビールが人気を博しているのだろうか。
最も大きな要因は、価格が安いからだろう。
例えば、人気の韓国産ビール「cass」の場合、コンビにでは500ml缶は2700ウォン(約270円)。一方で韓国では輸入ビールとなる「アサヒ」の500ml缶は3900ウォン(約390円)だ。単純に1缶あたりの価格では、韓国産ビールのほうが安い。
しかし、「アサヒ」の4缶セットになると1万ウォンで購入できるため、1缶あたり約2500ウォン(約250円)となり、輸入ビールのほうが安くなるという計算だ。
そのカラクリは大量輸入や税金、流通費用などが複雑に絡まって生じているという。
今では韓国のコンビニで輸入ビールは「4缶1万ウォン」が常識になっている。
興味深いのは、韓国産ビールと輸入ビールに圧倒的な価格の差がないにもかかわらず、輸入ビールだけが急成長していることだろう。
韓国ネット民たちの反応を見てみても、「味がまったく違う」「同じくらいの値段なら輸入ビールを買うに決まっている」「ビールに限らず、安くて旨いものを買うのは当たり前だろ」と、とにかく韓国産ビールの味についての批判が目立つ。
つまるところ、韓国の人たちはもともと美味しい輸入ビールを飲みたかったということになる。
韓国で『ポケモンGO』が流行っていたときに、「我が国では死んでも作れない」と嘆いていたが、ビールにおいても“質”の面で他国と明確な差があったということだろう。
そんな潜在的需要に価格という決定的な要因が相まって、輸入ビールの急成長につながっているわけだ。
いずれににしても韓国産ビールと輸入ビールの争いは、今後さらに激しくなっていくだろう。
それは同国の焼酎業界の競争が「日本企業だ!!」などとデマを駆使するほど激化しているのを踏まえると、容易に想像できる。
世界的な傾向と逆を行って、拡大している韓国のビール市場。その成長は今後も続くのだろうか。
(文=慎 武宏)
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