振り返れば、東京オリンピックのエンブレム問題で日本デザイン業界の体質が騒がれたが、デザイン業界がさまざまな問題を抱えているのは、どうやら日本だけではないようだ。
2015年11月26日、教え子への過剰な暴行容疑で逮捕された韓国デザイン界の権威チャン・ホヒョン元教授(52歳)に、懲役12年の実刑判決が下された。
チャン元教授は京畿道の大学で教鞭を執りながら、2006年に韓国のデザイン分野の発展を目指す非営利団体「デジタルデザイン協議会」会長職に就任。2009年には、政府から軍人を除く職務に精進する公務員に与えられる最高の賞「大韓民国勤政褒章」を授与されるなど、韓国デザイン界の第一人者であった。
チャン元教授はそうした権威を背景に、業界内の“暴君”として君臨。数々の問題行動を取ってきたが、そのたびに側近たちによって隠蔽されていた。しかし、2015年7月、チャン元教授の教え子のひとりがマスコミに彼の悪行を告発。常軌を逸した暴力行為は、韓国中を震撼させた。
以下は、そのごく一部だ。
・野球のバットによる暴行(全治6週間の大ケガ。殴られた部分の皮膚が壊死して、皮膚移植まで)
・小便や人糞を無理やり口にさせる
・2~3日の強制断食や睡眠の禁止令
・頭にビニールをかぶらせて、カプサイシンの約8倍の刺激をもつワサビ原液をガス状にして噴射(皮膚は焼けただれ、専門家の多くはこれを「殺人行為」と分析している)
・取り巻きに暴行を指示して、それを動画撮影
これには、さすがの韓国ネット民も「懲役はもちろんだが、全財産を賠償金として徴収しろよ」「あまりにもひどすぎる……」「こいつ本当に人間なのか?」と、驚きを隠せない。
事件の波紋は大きく、チャン元教授は3人の取り巻きとともに逮捕。マスコミやネット民からは、“人糞教授”との蔑称を与えられた。
警察関係者によると、チャン元教授は罪を認めながらも、「弟子の成長のためにしたことだ」と同情を求めたという。
韓国中の関心を集めたこの事件は、捜査の進展とともに波紋がさらに広がった。なでも、2014年、ある国家機関の評価委員を務めていたチャン元教授が1000万円の裏金を受け取っていたとされる横領事件に対する処罰は、国民の怒りをさらに煽っている。
当時、関係者にはすべて実刑が下されたものの、事件を主導したチャン元教授だけは軽い罰金刑で逃れたのだ。この特別待遇が知れわたったことで、世論の風当たりはさらに強まった。
閉鎖的な業界内における権威の力は、実に恐ろしい。“怪物”を作ったのは、権威に迎合する社会なのかもしれない。
前へ
次へ