日韓サッカー交流の最前線で生きる男・趙光洙コーチが語る「天野純とKリーグ」

2022年06月25日 スポーツ #サッカー
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韓国サッカー界の英雄であるホン・ミョンボが監督を務め、サッカー元日本代表の天野純や池田誠剛コーチが属する蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)には、日本と韓国の両方で選手と指導者を経験した人物がいる。

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趙光洙(チョ・グァンス)。今年で41歳になる彼は、岐阜で生まれた在日コリアン3世。小、中、高校と民族学校で学び、大阪体育大学に進学。大阪体育大学サッカー部ではキャプテンも務めた。

W杯と五輪を経験した在日フットボーラー

大学卒業後はデンソーや佐川印刷SCなどJFLでプレー。2008年からは韓国の実業団リーグであるNリーグでプレーしている。選手としては日本でも韓国でもプロの第一線で活躍した経歴はないが、国際舞台での経験は豊かだ。

何しろホン・ミョンボ監督が率いた韓国代表のチーム・スタッフとして、2012年ロンドン五輪と2014年ブラジル・ワールドカップを経験しているのだ。チーム・スタッフとはいえ、オリンピックとワールドカップの両方を経験した在日コリアンのサッカーマンは、おそらく趙光洙しかいないし、彼が初めてだろう。

また、ジェフユナイテッド市原・千葉の強化部で学び、ブラジル・ワールドカップ後はオランダのユトレヒトで指導者留学も経験。2015年から2017年には、ホン・ミョンボ監督や池田誠剛コーチを補佐するコーチとして杭州緑城で中国リーグも経験した。

杭州緑城を退団したあとは山梨学院大学サッカー部コーチを経て、ふたたび韓国へ。2018年と2019年には城南(ソンナム)FC、2020年には済州(チェジュ)ユナイテッドでコーチとしての実績を積み、ホン・ミョンボの監督就任に合わせて2021年から蔚山現代のコーチになった。

「僕はホン・ミョンボ監督や池田さんから多くのこと学んだからこそ、今がある。その恩返しはもちろん、もう一度、一緒に仕事がしたいと思っていました。監督がKFA(韓国サッカー協会)の専務理事になられたときも、いずれまた現場に戻ってくると信じていたので、それまでの間、僕はKリーグでコーチ修業しようと決めて、韓国で頑張ってきました。ホン監督や池田さんとともに優勝という最高の結果を残したい。それが今の僕の原動力です」

趙光洙コーチ(写真提供=FA PHOTOS)

天野純ら日本人Kリーガーの長所と強み

今季でKリーグでのコーチ生活も5年目。その間に多くの日本人Kリーガーたちを見てきただけに、近年目覚ましい日本人Kリーガーたちの活躍には目を細める。

「昨季Kリーグ2で大ブレイクしたマサ(石田雅俊/大田ハナシチズン)が最初にKリーグの練習に参加したのが、僕がいた城南FCだったんです。外国人枠やアジア枠がすでに埋まっていたため城南とは契約までに至らなかったのですが、コーチ陣の間ではかなり好評でしたから今の活躍は予想できたことですよ」

今季から蔚山現代に加入した天野純の活躍も、早い段階から確信していたらしい。

「ビザや新型コロナウイルス感染症の防疫対策の問題もあって、天野のチーム合流はかなり遅れたんです。それこそキャンプ終盤だったのですが、いきなり紅白戦で1得点1アシストを決めて実力を見せつけた。かなりインパクトがあったようで、選手たちもすぐに天野の実力を認めて、彼のもとに自然とボ―ルが集まるようになりましたから、Kリーグに慣れるのは時間の問題だろうなと思っていました」

ただ、開幕早々にゴールを決め(5月28日時点で13試合6得点1アシスト)、マン・オブ・ザ・マッチ2回、週間ベストイレブン2回、月間ベストゴール賞1回にも輝くほどの活躍は「予想していた以上」だという。

「天野はパスやキックの質が高く、ターンもできて、相手が激しくプレスを仕掛けてきてもそれをかわして絶妙なパスを出せる。明らかに韓国には少ないタイプであるし、日本人選手の良さがKリーグにも威力を発揮することを天野は証明しましたよね」

日本サッカーの良さや長所を韓国で示しているのは天野だけではない。前回紹介した池田誠剛コーチは言うに及ばず、趙光洙コーチもそのひとりだ。

練習でも試合中でも立ち止まることはない。選手たちとともに汗を流し、ときには指示や檄を飛ばしながらチームを鼓舞していた。その熱心さがあるからこそ、選手たちも趙光洙を信じ慕うのだろう。

「日本サッカー界の恩人にも応える義務がある」

「もともと僕の指導者としてのキャリアは日本から始まっているんです。日本でB級、A級の指導者ライセンスを取得しましたし、塚田雄二さん(元セレッソ大阪監督)、鈴木淳さん(元ジェフユナイテッド市原・千葉監督)、小野剛さん(現JFA技術副委員長)、江尻篤彦さん(東京ヴェルディ強化部長)、安田好隆(ガンバ大阪ヘッドコーチ)、中山元気(レノファ山口コーチ)など、お世話になった方々も数えきれないほど多い。もちろん、韓国サッカー界にもお世話になった方々は多く、そういったすべての恩人たちの期待と信頼に応える義務が自分にはあると思っています。

ただ、僕は選手として華々しい経歴があるわけでも、一流選手のような“自分だけのノウハウ”があるわけでもない。だからこそ、たくさんの文献や資料映像を貪るように集めてはチェックし、それを実践する繰り返しですよ」

そう言って苦笑いを浮かべるが、ホン・ミョンボ監督も池田誠剛コーチも言っていた。

「グァンスがいるからこその部分が大きいし、ある部分ではグァンスに任せ頼るところもある。チームに欠かせぬ存在だ」と。そのことを伝えると、趙光洙は少し照れてはいたが嬉しそうでもあった。

「でも、だからといってイエスマンではいけないですし、なるつもりもないです。ミョンボ監督にも意見や要望も出しますし、違うと思ったら自分の考えをはっきり主張します。もっとも、それに耳を傾けてくれる度量の広さと思慮深さが監督にはあるんですけどね(笑)」

ホン・ミョンボ監督の哲学と池田誠剛コーチのノウハウを吸収しながら、指導者として成長し着実にそのキャリアを重ねている趙光洙。

ホン・ミョンボ監督と池田正剛コーチが蔚山現代で目指す“日韓ハイブリッド”の完成形のために、天野がアクセルの役割を果たしているとするなら、日本を知り、韓国も知り、その “橋渡し役”もできる趙光洙は潤滑油の役割を担っているのかもしれない。

文=慎 武宏

*この原稿はヤフーニュース個人に掲載した記事を加筆・修正したものです。

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