2021年8月に起きた、いわゆる「小田急線車内無差別刺傷事件」。犯人は「幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになった。誰でもよかった」と供述していることから、一部ではミソジニー(女性嫌悪)犯罪と言よれているが、実はこれと同じような事件が2016年に韓国でも起きている。
今から5年前、韓国はソウル江南駅近くの男女共用トイレで、当時23歳の女性がなんら面識のない男性に突然殺害されるという驚愕の事件があった。「江南通り魔事件」だ。
「江南通り魔事件」は、捕まった犯人が「女性を狙った」といった主旨の発言をしていたことから、“女性嫌悪”による事件と報道直後から韓国社会の注目を集めた。
事件から1年が過ぎた2017年5月17日には、ソウル世宗文化会館では女性団体たちの連帯記者会見が開かれている。
当時の韓国メディアの報道によると、参加した女性たちは自らを「偶然生き残った者」と規定していたという。もし自分があの時間、あの場所にいたら殺されていたかもしれないという意味だろう。
連帯記者会見では、同事件は「犯行の本質が女性に対する差別と暴力だった」と指摘。「女性への暴力と殺害は日常に蔓延した女性嫌悪と差別に起因する」と訴えた。
そもそも韓国の女性嫌悪はネット上から広がったとの見方が強い。ネット上で韓国人女性を揶揄する「キムチ女」といったキーワードが生まれ、その傾向が現実社会にも流れていったということだ。
そんな女性嫌悪の最たる例とされる「江南通り魔事件」がもたらした影響は大きい。程度の違いはあるが、韓国における男女間の葛藤はより深刻化したと考えられる。
また、日本人女性のウェブトゥーン作家が女性コミュニティから叩かれた例もある。
その作家は『寿司女・キムチ男』というタイトルで、韓国人夫との結婚生活をテーマにした作品を発表した。しかし、第2話の「割り勘」が掲載された以降、彼女は誹謗中傷を浴びせられるようになる。
「日本女性の従順さは精神病レベル」「日本の女は奴隷みたい」「男に媚びながら売春婦のように生きている」といった中傷コメントが寄せられたのだ。連載は結局、無期限中止となってしまった。
「江南通り魔事件」によって“女性嫌悪”がさらに社会問題化ししてしまっている韓国。今後も女性嫌悪をめぐる問題は複雑化していくのかもしれない。
文=慎 武宏
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