「取り残される恐怖」に追われる韓国の若者たち 20~30代を襲う“FOMO現象”の脅威

2025年12月30日 経済 #時事ジャーナル
このエントリーをはてなブックマークに追加

韓国の若者たちにとって、2025年はどのような言葉で記憶される年だっただろうか。戒厳・弾劾・大統領選挙などが挙げられるだろうが、欠かせないのが「FOMO」だ。FOMOとは「Fear Of Missing Out」の略で、「取り残されることへの恐怖」といった意味に解釈できる。

【注目】韓国の若者たちに広がる反中感情、原因は?

この言葉はもともとマーケティング分野で使われていた。限定商品を発売したり、「締め切り間近」といった表現で消費者の焦りをあおる企業の戦略を指していた。

現在では、経済分野でより頻繁に使われている。不動産・株式・金などの資産価格が急騰し、周囲は皆資産を増やしているのに、自分だけ何もできずに「一夜にして貧乏人」になってしまうのではないかと不安に駆られる心理だ。

FOMO現象は突然現れたわけではない。新型コロナウイルスのパンデミック当時も、各国の財政支出拡大による流動性増加で不動産・株式・暗号資産などの価格が急騰した。投資に飛び込む20~30代が続出したことで、彼らの「パニックバイ」や「フルローン投資」は社会問題としても取り上げられた。

こうした投資狂騒曲は、2022年のアメリカによる政策金利引き上げで資産市場が冷え込み、しばらく沈静化した。しかし2025年、再び頭をもたげ始めた。FOMOは2026年にも繰り返される可能性が極めて高い。政治環境の変化と無関係ではないからだ。

若者の焦りを刺激する不動産・株式市場

2025年のFOMO現象が最初に現れたのは不動産市場だった。6月3日に行われた第21代大統領選挙が、その号砲となった。

李在明(イ・ジェミョン)候補の当選は、「共に民主党が政権を取れば不動産価格は上がる」という世間の認識を刺激した。新政権が発足するとすぐ、ソウルの江南3区(瑞草・江南・松坡)や「麻龍城(マヨンソン)」(麻浦・龍山・城東)を中心に不動産価格が動き出した。

李大統領としては不本意な面もあるだろう。政府が何かをしたわけでもないのに市場が反応したのだから。しかし、前政権の失政もまた共に民主党の遺産である以上、致し方ない。

2025年6月、ソウルのマンション売買価格は前月比1.44%上昇し、2018年9月(1.84%)以来6年9カ月ぶりの高水準を記録した。

最も敏感に反応したのは若者たちだった。文在寅(ムン・ジェイン)政権期の住宅価格急騰を経験した彼らは、「今回はチャンスを逃さない」と不動産市場に駆け込んだ。

ソウルで初めて集合住宅(マンション・オフィステル・ヴィラ)を購入した20~30代は、2021年には約4万2000人まで増えたが、金利引き上げが始まった2022年以降は1万~2万人台に減少した。それが2025年には再び3万人を超えた。

不動産市場の過熱を受け、李在明政権は「6・27対策」「9・7対策」「10・15対策」と計3度にわたる対策を打ち出した。

9・7は供給対策で、6・27と10・15は需要抑制策だ。需要対策には住宅ローン規制の強化やギャップ投資の禁止などが盛り込まれた。特に10・15対策は、「不動産戒厳」と批判されるほど強力で、ソウル全域と京畿道12地域を土地取引許可区域に指定した。過熱した市場を冷ます効果はあった。

ただし、それがどこまで続くかは未知数だ。若者であれ既成世代であれ、住宅価格が本当に抑えられると見る向きは多くない。

韓国銀行が11月25日に発表した「11月消費者動向調査」で、住宅価格見通し指数は119を記録し、10月(122)、6月(120)に続き、2025年で3番目に高い水準となった。この指数が100を上回ると、1年後に住宅価格が上昇すると見る世帯が、下落を予想する世帯より多いことを意味する。

不動産FOMOの次には、株式FOMOが現れた。実際、2025年半ばまでは若者の間で「国産株からの脱出は知能の順番」という冷笑が広がっていた。米国発の関税リスクで世界の株式市場が苦戦する中、韓国株は比較的健闘したが、不信感は根強かった。KOSPIが3000を超えても、「これまで上がらなかった分の反動」程度に受け止められていた。

多くの20~30代投資家は、KOSPI上昇を一時的現象と見て、下落時に利益が出るインバース商品に投資し、損失を被った。ところが9月からサムスン電子、SKハイニックスなど半導体企業の株価が急騰し、10月27日にはKOSPIが史上初めて4000を突破した。この局面で市場に飛び込んだ「若い個人投資家」は少なくなかった。2025年に証券市場へ流入した新規投資家の半数は20~30代だった。

写真はイメージ
(写真=サーチコリアニュース編集部)

資金をばらまく各国政府、資産格差はさらに拡大へ

若者は相対的に初期資本が少なく、市場参入も遅れがちだ。そのため、彼らのFOMOは多くの場合「借金投資」や「レバレッジ投資」を伴う。遅れを取り戻そうと無理に融資を受けたり、2~3倍の収益率をうたう高リスク商品に手を出したりする。2025年に量子コンピューター関連株や植物性代替肉関連株といった変動性の高いテーマ株が脚光を浴びたのも、同じ理由だ。

もちろん、こうしたテーマ株の末路が芳しくないことは、若者自身もよくわかっている。ウォーレン・バフェット、ジョン・ボーグル、ピーター・リンチらが実践した価値投資が、長期的には勝利することも知らないわけではない。それでも拡大し続ける資産格差が、若者の焦燥感をあおる。今回の上昇局面で取り返せなければ、もう二度とチャンスはないのではないかという恐怖が、高リスク投資へと彼らを駆り立てるのだ。

不動産・株式・金などの資産価格上昇は、2026年にも続くと見込まれている。

これはマクロ環境の変化と無関係ではない。多くの国が財政支出を拡大し、金利を引き下げる方向にある。世界的な政治の分極化は、資産市場の不安定さをさらに強める。

かつては左派政権が拡張財政を主張しても、右派政権が緊縮を唱えて均衡を保った。右派政権は、資金をばらまかなくても反移民などの争点でポピュリズム票を得られた。

しかし今やそれも難しくなり、右派政権でさえ積極的な財政拡大を語る時代に入った。すべての国民に最低2000ドルを配るという「トランプ流ベーシックインカム」は、その代表例だ。

通貨量の増加はインフレを引き起こす。インフレは財やサービスだけでなく、資産価格も押し上げる。投資価値の高い資産を保有する人の富は増え続ける一方、貧しい人はインフレで実質購買力が低下し、わずかな投資余力さえ失っていく。

18世紀初頭のフランスの経済学者、リシャール・カンティヨンは、政府が資金を供給すれば資産へのアクセス格差が生じ、それが結果的に富の不平等を深めると主張した。

急騰する資産市場に無理に乗るリスクを取るのか、一歩引いた場所で様子を見ながらFOMOに追われるのか。

いずれにせよ、平凡な20~30代に与えられた選択肢は、あまり良いものには見えない。

●世代政治研究所イ・ドンス代表

(記事提供=時事ジャーナル)

人を信頼できない、自殺率も高い…数字で見る韓国青年の閉塞感

日本の就職氷河期を想起する韓国の「雇用透明人間」…統計に表れない“若者ニート”の実態

応募資格は「Cカップ以上」!? とある韓国ベンチャー企業の求人広告

前へ

1 / 1

次へ

RELATION関連記事

デイリーランキングRANKING

世論調査Public Opinion

注目リサーチFeatured Research