韓国のIT大手ネイバー(NAVER)が人工知能(AI)競争で生き残るための勝負に出た。
創業者のイ・ヘジン氏が約7年ぶりに経営の第一線に復帰したのだ。
ネイバー独自の成功モデルでAI覇権をつかもうというイ・ヘジン氏の復帰により、AI事業のグローバル展開と投資が加速するものと見られているが、現実は容易ではない。
ChatGPTなど世界のAI企業による攻勢が激化するなか、そうした企業と積極的に協業を進めるカカオが韓国国内市場で存在感を高めており、イ・ヘジン氏のリーダーシップが試練に直面することになりそうだ。
3月26日、京畿道城南市のネイバー本社「グリーンファクトリー」で開かれた定時株主総会で、イ・ヘジン氏は社内取締役に選任され、取締役会議長にも就任した。2017年3月に取締役会議長、2018年に登記役員を退いて以来、約7年ぶりの復帰だ。
イ・ヘジン氏は「会社の経営には関与せず、事業に集中する」として表舞台から身を引いた後、グローバル投資責任者(GIO)として海外市場開拓に注力してきた。
今回の復帰の背景には、AI競争への危機感がある。
これまでネイバーは将来の主力事業と位置づけるAI分野の拡大にアクセルを踏んできた。2023年8月には独自の大規模言語モデル(LLM)「HyperCLOVA X」を公開し、検索、コマース、コンテンツなどネイバーの各サービスにAIを適用する「全サービスAI」戦略を進めている。主力事業にAI技術を積極的に融合させ、売上成長を加速させる構想だ。
ネイバーはこのため、年間営業収益の22%を研究開発(R&D)に投じ、兆ウォン単位の投資計画も立てている。
しかし、独自のAIモデルで市場を勝ち抜こうとする目標とは裏腹に、現時点で目立った成果は出ていないというのが業界の見方だ。HyperCLOVA Xは韓国国内の企業や研究機関で一部導入され、B2B市場では一定の成果を上げているが、一般ユーザー向けの競争力については疑問視されている。
3月27日の株主総会でも、「周囲にネイバーのAIを使っている人が誰もいない。競争力を高めるには、取締役会にAIの専門家が必要ではないか」といった失望の声が出た。
たしかにネイバーは2024年、韓国のインターネットプラットフォーム企業として初めて売上10兆ウォン(1兆275億円)を突破するなど、堅調な成長を見せた。ただその内訳を見ると、検索広告を主軸とする「サーチプラットフォーム」およびコマース部門が全体の63.9%を占めている。
2024年の年間売上成長率は11%で、2022年(17.6%)より減速した。グーグルなどのグローバル検索プラットフォームや、国内外のEC企業が韓国市場に浸透するなかで、現在のビジネスモデルがどこまで持ちこたえられるかは不透明だ。
こうした状況のなか、イ・ヘジン氏の復帰によって、より迅速な意思決定と攻めの投資が期待されている。イ・ヘジン氏は今の状況を「チャンス」に変えたいという構想を示している。株主総会後、記者団に対しては「ネイバーは巨大テック企業に対抗しながら25年間生き残ってきた企業だ。今の状況をチャンスに変える努力が必要だと思っている」と語った。
イ・ヘジン氏の復帰にもかかわらず、ビッグテックによるAIの攻勢はネイバーにとって依然として大きな悩みの種だ。
これまでイ・ヘジン氏は、韓国の文化と主権に基づく生態系として「ソブリンAI(Sovereign AI)」の構築を主張してきた。しかし、すでにOpenAIのChatGPTやグーグルのGeminiなど、グローバルAIが主導する市場において、韓国特化型のAIモデルだけで真正面から勝負を挑むのは困難だ。
特に、グローバルビッグテックはAI検索サービスを前面に出し、ネイバーの「本拠地」ともいえる国内検索市場で存在感を高めている。
市場調査サービス「インターネットトレンド」によると、AIが普及する前の2015年には一桁台だったグーグルとマイクロソフトBingの韓国での検索シェアが、最近では40%台を推移している。ネイバーは依然として1位を維持しているが、グローバル企業の追い上げスピードは加速している。
ネイバーは検索サービスを強化するため、AIが要点を整理・要約した回答を提供する「AIブリーフィング」サービスを3月27日から開始した。グーグルの「オーバービュー」など類似のサービスはすでに実用化されているが、ネイバーは「生活に密着した情報を提供できる点」を差別化要素として掲げた。
しかし、このサービスの導入により、むしろ検索サービスの収益性が悪化するのではないかという懸念も出ている。AIが検索結果の最上部に要約を表示する方式に変わることで、広告の表示機会が減り、広告収入が減少する可能性があるためだ。
ネイバーにとって、韓国国内の競合企業の動きも負担となっている。
ポータル、クラウド、コマースなど多くの事業分野で競合するカカオも、各サービスにAIを積極投入している。特に最近では、OpenAIなどのビッグテック企業との提携を拡大し、技術面での弱点を補完しようとする動きが目立つ。
KTもマイクロソフトとの戦略的協力を通じて、AIとクラウドの両軸で技術・サービスを展開している。独自技術による自前のエコシステム構築にこだわるネイバーとは対照的な戦略だ。
ネイバーも、イ・ヘジン氏の復帰を契機にビッグテック企業との協業を拡大する方針だ。
イ・ヘジン氏は「ビッグテックと協力できる部分があれば協力すべきだと思う」と述べ、「ネイバーもNVIDIAなどとの協業モデルを以前から、そして今も準備している」と説明した。
(記事提供=時事ジャーナル)
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