政権交代後、圧倒的な民意を背に順調に進んできた李在明(イ・ジェミョン)大統領が、3つのジレンマに直面している。
外交面では、①アメリカから突きつけられた「関税爆弾」の請求書をめぐって試練の局面を迎えた。内政では、②人事過程で浮上した「問題ある人選」をそのまま抱えるのか、それとも断固たる処分を下すのか、③チョ・グク前祖国革新党代表ら進歩陣営の人物たちを「特別赦免」するかどうかで岐路に立っている。
この3つに対する李在明大統領の決断が、初期の政権運営の推進力と民意の行方を左右する見通しだ。
支持率60%台。現時点で李在明大統領に対する世論の電光掲示板に表示されている数値は、国民からの圧倒的な支持を示している。しかし、最近3週間の主要な世論調査の推移を見ると、李大統領への民意にやや揺らぎが見える。
リアルメーターの調査によれば、李在明大統領の国政運営に対する肯定評価は、7月第2週に64.6%でピークを記録した後、62.2%(第3週)、61.5%(第4週)とわずかに下降傾向にある。
こうした流れには、最近の政府の主要ポストに関わる人事過程で起きたさまざまな雑音が大きく影響していると分析されている。
最近では、指導学生の論文盗用疑惑に包まれたイ・ジンスク前教育部長官候補者と、補佐官へのパワハラ疑惑が浮上したカン・ソヌ前女性家族部長官候補者が指名辞退に追い込まれた。
それに続き今回は、チェ・ドンソク人事革新処長が、過去に文在寅(ムン・ジェイン)元大統領やチョ・グク前代表ら進歩系人物を批判したり、性に関する感受性の欠如した発言をしたりしていたことが問題視されている。
李在明大統領にとっては、すでにオ・グァンス前民情首席に続き、2人の長官候補者までをも断固とした判断で切り捨てた状況下で、さらにチェ・ドンソク処長まで更迭すれば、大きな負担となる。野党が指摘する内部の人事検証体制に問題があることを、自ら認めることになってしまうからだ。
とはいえ、チェ・ドンソク処長に何の措置も取らずにそのままにしておけば、世論の逆風に直面する可能性が高い。すでに与党内からも、チェ・ドンソク処長に対する謝罪を求める声が高まっている状況だ。
近づく光復節(8月15日)の特別赦免も、李在明大統領にとって頭を悩ませる重大な争点となっている。
イ・ファヨン元京畿道平和副知事やソン・ヨンギル「ソナム党」代表など、李在明大統領の支持層に当たる進歩系の人物たちが赦免を求めており、特にチョ・グク前代表に関しては、与党全体が赦免を訴えている。
国家儀典上の序列2位であるウ・ウォンシク国会議長は7月9日、チョ・グク前代表と面会し、赦免論に力を加えた。さらに与党「共に民主党」内からも、「チョ・グク前代表を赦免・復権させ、民主・革新党が統合すべきだ」(パク・チウォン議員)、「(チョ・グク前代表は)すでに罪を償った」(カン・ドゥクグ議員)などの声が上がっている。
李在明大統領にとっては、簡単に決断を下せない板挟みの状況だ。チョ・グク前代表の実際の刑期や法的条件を考慮すると、赦免の公平性に対する論争も生じかねない。
実際、チョ・グク前代表は昨年12月に子どもの入試不正の容疑で収監され、出所予定は2026年12月とされており、現時点では刑期の4分の1を終えたに過ぎない。もし赦免すれば、野党はもちろん中道層を中心に世論の逆風を招く可能性がある。とはいえ、チョ・グク前代表の赦免を見送れば、進歩陣営の「コア支持層」からの反発を招くリスクも高い。
さらに、李在明大統領の国内の政治力では解決しがたい「外交リスク」までもが浮上している。アメリカのドナルド・トランプ大統領が掲げる関税政策により、韓国国内の産業界が非常事態に追い込まれているためだ。
日本やEU(欧州連合)など他の友好国は、8月1日の相互関税発効期限までに協議を経て関税を引き下げることで合意している。一方、韓国政府は、関税と両国間の複数の懸案をパッケージ交渉にまとめる戦略を取ってきたが、アメリカ側が消極的な態度を示しており、交渉は難航している。
もし韓国が協議期限までに関税率の調整を完了できなければ、韓国国内企業は25%の関税負担を強いられ、国内経済に大きな打撃を与えると予想されている。このため国内政界では、大統領をはじめとする高官らが早急にアメリカ当局者と直接接触し、交渉をまとめるべきだとの声も上がっている。
ただ一方では、「トランプ大統領の戦略に巻き込まれて、韓国側が焦った姿勢を見せてはならない」という慎重論も存在する。李在明大統領にとっては、どのような態度と戦略を取っても、必ずや一方からは非難を受けるという難しい構図だ。
李在明大統領がこの3つのジレンマを「災い転じて福となす」形で賢明に乗り越えられれば、今後の国政運営の主導権を握るうえで大きな力となると見られている。逆に、これらの難関を乗り越えられなければ、世論の逆風にさらされ、60%台の支持率を維持するのが難しくなるのではないかとの懸念も政界内にある。
実際、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権においても、主要な世論調査で民意が敏感に反応した指標は、「外交」「人事」「民生」の3点だった。
与党関係者は『時事ジャーナル』に対し、「李在明大統領は党代表時代から、常に各種の戦略ペーパーを読み込み、民意や世論に敏感に反応してきた」とし、「『世論調査の掲示板にはこだわらない』と言っていた尹錫悦前大統領とは、明確に異なるタイプだ」と強調した。
なお、記事に引用されたリアルメーターの7月第4週の調査は、7月21日から25日まで全国の18歳以上の有権者2508人を対象に行われ、標本誤差は95%信頼水準で±2.0ポイント、回答率は5.7%だった。詳細は中央選挙世論調査審議委員会のホームページを参照のこと。
(記事提供=時事ジャーナル)
■パワハラ疑惑の女性議員は辞退したが…李在明の人事に“最側近”偏重の責任論
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