水原三星(スウォン・サムスン)はKリーグの数あるクラブの中でも多くの優勝カップを手にしたビッグクラブだ。
1996年のKリーグ参戦以降、リーグ優勝4回、FAカップ優勝3回、国内カップ戦優勝6回と輝かしい成績を残してきた。“サッカーの都市”水原(スウォン)市を本拠地にするだけあって、平均観客動員数2万人を超えるなど、リーグ内で最も多くのサポーターを抱えたクラブでもある。
しかし、2008年のリーグ優勝以降、毎年優勝候補に挙げられるものの、Kリーグの優勝争いから遠ざかっているのも事実だ。昨季もリーグ戦2位に終わり、ACLでもラウンド16で柏レイソルに敗れベスト8進出がならなかった。
今季はその雪辱をなんとしても晴らしたいところだが、チームを取り巻く状況は厳しい。
というのも、そもそもクラブは国内最大企業であるサムスン電子を母体企業としていたが、2014年4月からサムスン系の広告代理店である株式会社第一企画の子会社に編入されたのだ。これまでは“サムスン電子サッカー団株式会社”だった法人名も、“水原三星サッカー団株式会社”に変更された。サムスン・グループ傘下であるものの、親会社が兆ウォン単位の規模から億ウォン単位の規模に縮小したことは、チーム関係者はもちろん、ファンやメディアにとっても衝撃的なニュースだった。
事実、水原三星はこの変更により、親会社からの支援金が100億ウォン(約10億円)近く縮小されたと言われており、そんな事情もあって最近は多くの主力選手を手放している。
昨季途中に清水エスパルスに引き抜かれてしまったFW鄭大世、今季から川崎フロンターレに移籍したGKチョン・ソンリョンなどが典型的だ。
このほか、ゲームメイカーのキム・ドゥヒョンは城南FCへ、Jリーグでもプレー経験があるブラジル人FWカイオはタイ・リーグへと去ってしまった。主力が次々とクラブを離れてしまっているのだ。
そんな苦しい台所事情にあるチームを率いるのはソ・ジョンウォン監督だ。
現役時代はスピードスターとしてフランスやオーストリアで活躍し、引退後は韓国代表コーチなどを経たあと水原に戻ってきた。ソフトな人柄でファンから愛される彼は、“スマート・サッカー”というキャッチフレーズを掲げて攻撃重視の組織サッカーを標榜している。
今季はかつて水原三星で成長を遂げたMFチョ・ウォンヒが6年ぶりに水原に復帰。1月に行なわれたU-23アジア選手権で大活躍し、韓国にリオデジャネイロ五輪出場切符をもたらしたMFクォン・チャンフンも成長著しい。
苦しい財政事情であることは変わりないだろうが、そんな中で結果を残せれば評価も変わり、さまざまな状況も変わっていくだろう。名門の真価が問われるシーズンになりそうだ。
(文=慎 武宏)
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