ソ・ユリが声優デビューを果たしたのは2008年。23歳の頃だったという。10代でも声優デビューできる日本では珍しいことではないが、韓国ではかなり異例らしい。30代でデビューすることが一般的な韓国では、かなり若かったほうだという。
「日本では作品の公開オーディションでデビューする方もいると聞きますが、韓国で声優という職業に就くためにテレビ局に採用されるのがオーソドックスです。
いわゆる女子アナのような感じですね。ただ、声優を採用するテレビ局は少ないですし、採用試験が毎年行われるわけでもないので、非常に狭き門なのです」
韓国では女子アナウンサーも“狭き門”となる人気職業だ。“韓国で最も美しいニュースキャスター”と呼ばれるアン・ナギョンも、「倍率が2000倍だった」と話していた。
声優たちもそんな女子アナと同じような競争にさらされるというのだから、その競争の激しさは想像がつくが、近年は若い声優たちが登場しているという。
映画『君の名は。』のヒロイン三葉役を演じたキム・ソヒョンは19歳でその大役に抜擢されている。その若さもさることながら、“清純美女”というルックスも手伝って話題になった。日本アニメの韓国語吹替を担当して一躍有名になった典型的なケースでもある。
そしてソ・ユリもまた、そのひとりだった。
『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』のエンヴィー役が、彼女の当たり役となった。
「エンヴィー役はまだテレビ局に所属する新人声優だった頃に受け持った役でした。
主人公ではないですが、とてもインパクトの強いキャラクターでしたし、日本版では『名探偵コナン』の江戸川コナン役で有名な高山みなみさんが務めていると聞いて、プレッシャーを感じずにはいられませんでした。
私はテクニックも経験も足りなかったから、もうダメでもともとだという覚悟でやるしかなくて。毎週のように、収録3日前から緊張でおどおどしていたのを今も覚えています」
ただ、そうした努力を重ねて挑んだエンヴィー役での演技力が高い評価を得た。吹き替えの場合、原作のファンに演技を比較されることも多いはずだが、彼女の声の演技はファンの間で語り草になるほどだった。
だからこそ気になるのは、日本のアニメを韓国語で吹き替える際の注意点や難しさでもある。数々の日本アニメの吹替を担当してきたソ・ユリは語る。
「韓国の創作アニメと違って、日本のアニメに韓国語吹き替えをする作業はすごくスピーディーに行われますね。1話30分の場合、20~30分ほどですから、ほぼリアルタイム収録といった感じです。その分、事前にしっかりと準備しなければいけませんけどね」
韓国アニメの制作現場は決して恵まれているとはいえない。劇場公開作品などで韓国産アニメが大ヒットすることも少なく、苦戦することも多い。
そうした中でもクオリティの高い作品を生み出そうと、現場ではさまざまな工夫がなされており、声優たちもベストを尽くす。日本アニメの韓国語吹き替えを多く担当してきたソ・ユリの言葉からも、現場の熱意が伝わってくる。