韓国の政治スキャンダル「ミョン・テギュンゲート」。その疑惑を解明するための「ミョン・テギュン特検法」の推進をめぐり、与野党の駆け引きが激しくなっている。
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当初、この事件は昌原(チャンウォン)地検が捜査を進めていたが、捜査の遅れに対する批判が強まると、ソウル中央地検が事件を引き継いだ。しかし、野党側は依然として特検法こそが事件の解決策だと見ている。
こうした状況のなか、大統領選挙公認介入疑惑を受けている尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の妻、キム・ゴンヒ夫人に対する公開召喚調査が実現せず、捜査の遅れが続けば、特検法を求める声がさらに強まる可能性がある。
ただ、法曹界では特検の導入が必ずしも野党に有利に働くとは限らないとの見方もある。
特検が進められれば、決められた期間内に捜査を終えなければならないが、ミョン氏の携帯電話の情報解析結果すら出ていないなど、資料分析が終わっていない状況で特検法を推し進めれば、かえって事件の真相解明が遠のく可能性があると指摘されている。
特検法が導入されると、特別検事は20日間の準備期間を経て正式な捜査に着手し、60日以内に捜査を終えなければならない。さらに30日の延長が可能だが、最長でも90日以内に結論を出す必要がある。
しかし、「ミョン・テギュンゲート」の事件規模や複雑性を考慮すると、現実的に十分な時間とはいえないとの指摘が出ている。
現在、「ミョン・テギュンゲート」の主な争点は、▲尹大統領夫妻の公認介入疑惑、▲ミョン氏と与党「国民の力」元議員キム・ヨンソン氏の間で行われた資金の流れの実態、▲未来韓国研究所が実施した世論調査の費用を誰がどのように処理したのか、▲ミョン氏の「黄金の携帯電話」の情報解析結果などだ。
特に、ミョン氏側が検察に提出した「黄金の携帯電話」の分析結果は事件の核心となる証拠になるとみられる。
しかし、この携帯には約5万5000件の連絡先が登録され、抽出されたファイル数も50万件以上に及ぶ。これを精査し、犯罪の証拠として分類するだけでも相当な時間を要すると法曹界は見ている。
特検は、通常の検察捜査と異なり、公正性を強調するために定期的な記者会見を通じて捜査の進捗を一部公開する。しかし、このプロセスがむしろ事件関係者に対応策を考える時間を与えてしまう可能性があるとの懸念もある。
検察出身のアン・ヨンリム弁護士は「特検が捜査状況を公表すれば、関係者は弁護団を通じて防御の論理をリアルタイムで組み立てるだろう」とし、「これはかえって捜査の混乱を招く可能性がある」と指摘した。
過去の特検事例を振り返ると、捜査時間が足りなかったケースが多い。
パク・ヨンス特検チームによる国政壟断事件の捜査が代表的な例だ。70日間の活動期間中、事件の核心人物であるウ・ビョンウ元青瓦台民政首席秘書官の身柄確保に失敗するなど、捜査期間の短さが原因で、核心関係者を十分に調査できなかったと評価されている。
また、「ドゥルキング世論操作事件」を捜査したホ・イクボム特検も、60日間の捜査期間中にキム・ギョンス前慶尚南道(キョンサンナムド)知事に焦点を当てたが、キム前知事の逮捕状が棄却され、特検が捜査延長を断念するなど、全体の構造解明には限界があったとの指摘がある。
「ミョン・テギュンゲート」の場合、単なる違法政治資金の授受疑惑にとどまらず、大統領夫妻の公認介入疑惑まで追跡する複雑な構造となっている。
特検が導入されれば、ミョン氏だけでなく、事件に関与した政治家との通話記録やメッセージの分析、関係者の聴取を総合的に行う必要があり、短期間での捜査完了は困難とみられる。
さらに、特検が導入された場合、新たに編成された捜査チームが事件を最初から分析し直さなければならず、現在進行中の検察捜査よりもさらに多くの時間がかかる可能性がある。
元部長検事の弁護士は「すでに昌原地検とソウル中央地検が相当な捜査資料を確保しているなかで、特検がゼロから再分析するのは非効率的だ」とし、「むしろ検察がスピードを上げて迅速に結論を出すことが実質的な解決策になり得る」と述べた。
現在、与党は特検導入に反対の立場をとっているが、捜査の遅れが続けば政治的な負担が増大することは避けられない。
2月18日、「国民の力」のユ・サンボム議員は「司法制度の根幹を揺るがすミョン・テギュン特検には断固反対する」とし、「野党が特検法を強行採決する場合、再議要求権の行使を積極的に求める」と述べた。
一方、野党は「政権と密接に関連する事件であるため、検察が消極的な態度を取っている」とし、特検推進を続けている。
法曹界では、最も現実的な解決策は検察が迅速かつ透明に捜査を進めることだとの意見が多い。特にミョン氏の「黄金の携帯電話」の解析を迅速に行い、キム夫人の調査を早急に実施すれば、特検導入の必要性は自然と薄れるとの見方がある。
刑事事件専門のナム・オンホ弁護士は「検察が迅速に核心証拠を確保し、ミョン氏の容疑を立証する過程で政治的な疑念を招かないよう公正性を維持すれば、特検の必要性は消えるだろう」との見解を示した。
もともと特検の導入は、検察捜査の公正性に対する不信から始まるが、すべての事件にとって必ずしも最善の解決策であるとは限らない。特に「ミョン・テギュンゲート」のように、特検導入がかえって真相解明を遅らせる可能性もある。
また、野党は特検の推進を通じて「検察への牽制」という名分を得ることができるものの、実際に特検が有意義な成果を出せるかどうかについては慎重な判断が求められるとの見方もある。
「ミョン・テギュンゲート」は単なる政治的論争を超え、違法な政治資金や権力型汚職の実態を解明しなければならない重要な事件であるため、特検の導入は政治的な駆け引きではなく、実質的な捜査の効率性と公正性を考慮して慎重に決定すべきだと法曹関係者は指摘する。
ナム弁護士は「検察がこの事件をどれだけ徹底的かつ迅速に処理できるかによって、特検法推進の勢いも大きく左右されるだろう」と述べ、「今必要なのは政治的な論争ではなく、国民が納得できるような捜査とその結果を提示することだ」と強調した。
一方で、検察の捜査の行方が与党の潜在的な大統領選候補の動向にも影響を及ぼす可能性があるとの見方も出ている。
仮に尹大統領の弾劾が認められ、早期の大統領選挙が現実となれば、オ・セフンソウル市長やホン・ジュンピョ大邱(テグ)市長らが関与したとされる世論調査費用の肩代わり疑惑の捜査が、与党内の「候補者選定」に影響を与える要因になり得るという見方だ。
彼らは現在、ミョン氏との関係を強く否定している。
(記事提供=時事ジャーナル)
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