韓国では「民心の指標」とされる「世論調査」が、弾劾・戒厳令をめぐる政局の緊張感を一層高めている。
大統領権限代行の弾劾、現職大統領の拘束・起訴など「前代未聞の事態」が続くなか、世論の流れは絶えず揺れ動いている。
現在、韓国政治の二大勢力である尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権と最大野党「共に民主党」の対立が極限に達しつつあり、進歩・保守・中道の各陣営でも様々な地殻変動が起きている。「大統領弾劾の賛否」「政権交代か再創出か」「政党支持率」という3つの主要な民意の心理は、与野党を問わず、「未来の政治戦略」を決める重要な指標だ。
そんななかで「共に民主党」は、こうした指標をどのように分析しているのか。
「共に民主党」の世論調査検証および制度改善特別委員会(以下、世論調査特委)の検証団長を務めるイ・ヨンヒ議員は、2月5日に国会で『時事ジャーナル』とのインタビューに応じ、「政治的イデオロギーの極端な二極化が最悪の水準に達している」との見解を示した。
イ議員はその原因について「保守は死んだ。保守層の極右化によって、中道層まで左派になり、脱・真実(ポスト・トゥルース)の時代がその現象を加速させた」と強調した。
特に、尹大統領が非常戒厳を宣言した理由の一つと主張した「不正選挙疑惑」が極右化を引き起こす火種となり、与党「国民の力」がそれを煽る極右政党になったと指摘した。
進歩層については、より慎重な姿勢を見せた。
イ議員は「共に民主党の支持率が低下したのは反省すべき点だ」とし、「支持基盤を拡大するためには、尹錫悦政権を批判する『合理的な保守』を取り込む必要がある」と述べた。また、世論調査の結果を無条件に信じるのではなく、その信頼性を慎重に検証すべきだとし、「共に民主党」が世論調査特委を設立した目的を改めて強調した。
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―最近の各種世論調査では「保守層の結集」が目立っている。この現象をどう見るか。
まず、保守は死んだ。「国民の力」がもはや保守ではなく「極右」政党になったからだ。
その原因は脱・真実にある。政党が客観的事実や真実ではなく、汚染された情報や信念に基づいて立場を取り、もう一つの政治的地形を作り出した。これにより、双方が極端に争う構造が生まれた。
人は絶望すると極端な行動を取るものだが、今の「国民の力」の姿がまさにそうだ。戒厳令事態でパニックに陥った結果、新たな家を建てることを考えず、支持層だけを見つめながら極端な道を進んでいる。
―「保守が死んだ」というのはどういう意味か。
かつての保守は、国政運営において「先見の明」という美徳を実践していた。政治や国政運営において最も重要な要素が先見の明だ。
「国民の力」のルーツである盧泰愚(ノ・テウ)政権は北方政策を通じた中国との国交樹立を実現し、金泳三(キム・ヨンサム)政権は金融実名制という改革措置を通じて金融システムの基盤を築いた。
しかし「保守の大統領」とされる尹錫悦政権が誕生して以降、先見の明どころか、韓国経済に致命的な打撃を与えているではないか。
―中道層の民意についてはどう分析しているのか。
イーロン・マスクが述べた興味深い主張がある。彼は、自分は常に政治的な座標の中で同じ位置にいたが、ある瞬間に相手の党派が極端に振れたため、自分が右派になったというのだ。
韓国でも同じ現象が起きている。従来の中道層は同じ場所にいるのに、「国民の力」が極端に右傾化したことで、中道層まで左派に見えてしまう状況になっている。それにもかかわらず、「国民の力」はこの点を反省もせず、修正する考えもないのだから、ますます懸念される。
―弾劾の局面で「共に民主党」の支持率が戒厳令事態以前の水準に戻った結果も注目すべきポイントだ。その原因は何だと考えるか。
(この結果を見ると)「共に民主党」には足りない部分があることを謙虚に受け止めなければならない。国民の信頼を得るためには、世代・地域ごとの「外縁拡張」戦略を徹底的に検討する必要がある。
特に世論調査を3つの層に分けて分析すると、「尹錫悦弾劾」「政権交代」「政党」の支持率に分類できるが、政党支持率だけが過半数に届かない40%台であることは、「共に民主党」の重要な課題だ。
ただし、尹大統領の弾劾を支持する世論は依然として60%以上、政権交代を望む世論も過半数を超えている。
―早期大統領選挙の可能性が取り沙汰されているなか、支持率を回復するために「共に民主党」が最も重要視すべき課題は何か。
今最も重要なのは、支持層の世代や階層を拡大することだ。そのためには党が門戸を開き、「合理的な保守」までも包摂しなければならない。
「尹錫悦政権が破壊した国を再建し、経済を成長させなければならない」と考える合理的な保守層であれば、「共に民主党」と共に歩むべきだと考える。こうした統合拡大を進めてこそ、新たな未来の政府が誕生できる。
―党が特に注意すべき点は何か。
内部対立は絶対に避けなければならない。「共に民主党」内部はもちろん、野党陣営全体でも「お前のせいだ」という責任の押し付け合いは控えるべきだ。野党が統合するには、互いに尊重し合うことが最優先となる。
特に、敗北した前回の大統領選挙について、ただ責任を追及するのではなく、「まずは自分が責任を取る」という姿勢を取るべきだ。
―先ほど「合理的な保守」を統合すべきだと言ったが、最近の李在明(イ・ジェミョン)代表の「右寄り」の動きもその一環と見るべきか。
そうだ。李在明代表が実用主義を強調し、金融投資所得税や半導体特別法などに対して前向きな姿勢を取っているのも、その意図によるものだ。
―従来の「共に民主党」は「基本社会」政策を掲げて「分配」を強調してきたが、それが「実用主義」戦略とどのように結びつくのか。
分配を基盤とする「共に民主党」の「基本社会」政策は、実用主義戦略と決して切り離せない。基本社会政策は、我々の社会が長期的に取るべきビジョンの一つだ。
しかし韓国経済が長期的な低迷に陥っているなかで、景気を回復させなければ、基本社会や福祉政策を実行する余力が生まれない。専門家によれば、経済成長率が最低でも2%台を維持しなければ、自営業者ですらなんとか生き残ることができる程度だという。
今が「ゴールデンタイム」だ。この時期を逃せば、取り返しのつかない危機が訪れることになる。そのため、基本社会政策を実施するためにも、まずは成長の原動力を回復させることが時代の課題となる。
―世論調査特委についても聞きたい。最近の討論会で今年のキーワードとして挙げた「脱・真実の時代」とはどういう意味か。
「不正選挙説」を例に説明できる。最高裁判所が「不正選挙はなかった」と判決を下し、調査結果も出ているにもかかわらず、一部ではそれを信じようとしない。この現象こそが「脱・真実」だといえる。
インターネットをはじめとするITの発展によって、超個人化の時代が到来し、個人が接する情報のソースも多様化した。これにより、客観的事実や真実よりも、それぞれの信念や感情に基づいて世論が形成される時代になった。
その結果、「世論操作」や「フェイクニュース」が横行し、政治的な二極化が深刻化して民主主義までもが脅かされている。
―最近の世論調査の傾向について、全体的にどのように評価するか。
世界的に世論調査の精度が落ちている傾向にある。アメリカの大統領選挙でも、調査結果では接戦と予想されていたが、実際の結果には大きな差があった。
特に韓国内では、調査会社ごとに比較的客観性と公正性を確保する電話インタビュー方式ではなく、費用が10分の1程度で済むARS(自動応答システム)方式を採用し、一部のインターネットメディアと組んで意図的に「企画型」の偏向世論調査を行うケースが増えている。
―「企画型世論調査」がなぜ偏向性の問題を引き起こすのか、詳しく説明してほしい。
世論調査会社がメディアと協力すると、調査の質問内容に関して選挙管理委員会の「事前審査」を免除されることができる。
このような規制の抜け穴を悪用し、信頼性の保証されていない小規模のインターネットメディアと組んで、偏向した設問を作成することが可能になる。そして、その結果をポータルサイトなどで公表すれば、深刻な世論操作の問題が発生する。
―偏向性が疑われる世論調査の具体的な事例はあるか。
最近、尹錫悦大統領の支持率が「51%」と報じられた世論調査コンジョンの結果が代表的な例だ。
この調査では、質問の順序を見ると、前半で憲法裁判官に関する論争を取り上げ、回答者に特定の回答を誘導するようになっている。そして、最後になってようやく尹大統領の支持の有無を尋ねている。
これは単なる「名目調査」を超えた「世論工作」レベルだ。「国民の力」や極右勢力が憲法裁判所を攻撃する流れに沿う形で、設問が意図的かつ偏向的に構成されている。
―世論調査の信頼性を高めるために考えている戦略は何か。
まず、世論調査の回答率を上げて信頼性を確保することが重要だ。そのためには、ARS方式ではなく、電話インタビュー方式に応じた人にインセンティブを与えることも検討するべきだ。
また、世論調査のコストを上げることで、質の低い世論調査が自然淘汰される市場環境を整えることも必要だ。さらに、親族名義だけを登録し、実際には1~2人で調査会社を運営するような不正を防ぐため、世論調査会社の登録要件も強化する必要がある。
―一部では、世論調査特委の活動が「共に民主党」の支持率にマイナスな影響を与える可能性があるとの懸念もある。
世論調査の制度を改善すべきだという要求は、これまでも常に存在していた。脱・真実の時代において、世論が二極化し、不正確な世論調査が蔓延する状況を監視し、制度改善の方策を模索する声が高まっている。
特に戒厳令前に「ミョン・テギュンゲート」が発生し、党内の世論調査分科会を拡大する計画も視野に入れていた。その流れの中で世論調査特委も設立されたのだ。
実際、世論調査特委が発足したことで、旧正月の連休期間中に実施された世論調査では、設問の公平性が向上するなど、信頼性を高める効果が表れている。それにもかかわらず、一部メディアが「検閲フレーム」を作り出しているのは残念なことだ。
(記事提供=時事ジャーナル)
■「犯罪に近い。メディアも共犯」尹大統領“支持率51%”の世論調査…共に民主党が告発を視野
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