韓国で長期の介護に疲弊した庶民が追い詰められている。
経済的困難に耐えかねて被介護者を殺害し、自らも「極端な選択」を試みる事例まで発生している状況だ。
介護人を雇う場合、月平均370万ウォン(約37万4000円)の費用がかかるが、一般庶民には負担が大きすぎるという指摘がある。2050年には高齢者人口が全体の40%を超える可能性が高いと予測されており、政治の場では現実的な介護支援策を講じるべきだとの声が高まっている。
ソウル松坡警察署は3月5日、80代の男性A氏とその50代の息子B氏を尊属殺人の容疑で緊急逮捕した。A氏は息子とともに、10年以上にわたり健康が悪化した妻C氏の介護をしていた。
事件当日、A氏とB氏はC氏を殺害した後、漢江(ハンガン)で「極端な選択」を試みたが、これを目撃した市民が119番通報し、救助された。C氏は車椅子を利用するほど歩行が困難であり、介護ヘルパーの助けを受けずに家族が直接介護を担っていた。
A氏は年金とわずかな貯蓄で生活を維持していたが、最近は住宅問題や経済的困難が重なり、生活苦に直面していた。
「介護殺人」はもはや珍しいことではない。
慶尚(キョンサン)大学法学科パク・スクワン講師が韓国学術誌引用索引(KCI)に掲載した「高齢者介護犯罪の原因分析と対策に関する研究」によると、2006年から2018年までに介護殺人で死亡した人は213人に上る。
そのうち114人(53.5%)は家族によって犠牲になった。また、介護人を殺害した後に「極端な選択」をしたり、心中を試みたりした事例も89件に及んだ。
専門家は、韓国の高齢化が急速に進んでいることを考慮すると、今後、介護殺人のリスクはさらに高まると予測している。
2023年12月に統計庁が発表した将来人口推計によると、2022年時点で65歳以上の高齢者は全人口の17.5%を占めており、2035年には30.1%、2050年には40%を超えると見込まれている。加齢に伴う疾患の増加や、家族が介護を担うという従来の構造が依然として続いていることから、介護の負担はますます重くなると考えられる。
韓国では伝統的に家族が介護を担当する文化が根強いが、核家族化の進行により家族による介護が難しくなっている。老人介護施設は不足しており、介護ヘルパーを雇う費用も高額であり、庶民家庭にとっては負担が大きい。
韓国銀行が2024年に発表した報告書「介護サービスの人材不足および費用負担緩和策」によると、介護人を雇うために必要な月平均費用は370万ウォンであり、2016年と比べて50%上昇している。
現行の健康保険制度で、一部の介護支援が行われているものの、実際には恩恵を受けるのが難しい家庭も多い。
長期介護保険の等級判定を受ける必要があるが、基準が厳しく、多くの患者が対象外とされてしまう。介護の負担が増せば、家族の誰かが仕事を辞めて介護に専念せざるを得なくなるケースも多い。この場合、収入が途絶え、最終的には家計が崩壊するという悪循環が繰り返される。
こうした介護殺人や介護破産の問題を解決するため、政界でも対策を模索している。
キム・ドンヨン京畿道知事は3月7日、「介護国家責任制」を提案し、政府が直接、介護費用を支援する方策を検討すると発表した。
また、釜山(プサン)市と陜川(ハプチョン)郡など一部の地方自治体では「外国人介護人の導入」を考慮している。これは日本や台湾で実施されている政策を参考にしたもので、外国人労働者を低コストで雇用し、介護の負担を軽減するという案だ。
しかし、これらの政策が短期間で実現するのは難しい。介護国家責任制を導入するには莫大な予算が必要となり、政府レベルでの綿密な検討が不可欠だ。また外国人介護人制度についても、言語の壁や文化の違いを克服する必要があるなど、解決すべき課題が多い。
社会福祉の専門家は、介護問題を解決するためには、公的支援の拡充だけでなく、民間部門の自主的な参加も必要だと指摘する。企業レベルで「家族介護支援休暇制度」を導入したり、介護が必要な家族を抱える労働者に「柔軟な勤務制度」を適用したりすることがその一例だ。
一方、法曹界では今回の事件の被疑者A氏とB氏が尊属殺人の罪で処罰される可能性が高いとみている。
刑法第250条によると、尊属殺人罪は死刑、無期懲役、または7年以上の懲役に処される可能性がある。ただし、最近の類似事件では、裁判所が情状を考慮し、減刑を認めるケースもある。
実際、2022年には重度の障害を持つ娘を38年間介護した末に殺害した母親に対し、裁判所は懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。裁判部は「母親であっても娘の命を決定する権利はない」としながらも、重度障害者を抱える家族への適切な支援がなされていない国家制度の問題を指摘し、「被告だけの責任とは言えない」とした。
元判事のムン・ユジン弁護士も「長期介護の苦痛を個人や家族だけに押し付けるのではなく、社会的支援や救済を行う国家的システムの整備が急務である」と述べた。
専門家は、介護殺人は単なる犯罪ではなく、社会構造的な問題から生じた悲劇だと指摘する。超高齢社会へと進む韓国では、介護の負担がさらに増大し、この問題を解決しなければ同様の事件が繰り返される可能性が高いという警だ。
嶺南(ヨンナム)大学社会学科のホ・チャンドク教授は「問題が発生してから対応する受動的な政策ではなく、福祉を必要とする人々に向けた積極的な政策を展開する必要がある」と述べ、「高齢化社会を迎えた韓国が、児童・高齢者介護政策について真剣に考え、準備が整っているのかを政治や自治体が反省すべきだ」と強調した。
(記事提供=時事ジャーナル)
■毎年500人ずつ減少、生存者は640人に…日本へ強制動員された元徴用工、韓国で急減中
前へ
次へ