「“経済はタイミング”という古い格言があります。まさに今がそのタイミングです」
6月26日、李在明(イ・ジェミョン)大統領は国会で施政演説を行い、追加補正予算(以下、補正予算)の編成が急務であると訴えた。「経済と国民生活を守ることに与野党の区別はない」と述べ、「今回の補正予算は経済危機という干ばつを潤す呼び水であり、経済回復に向けた最低限の措置だ」と強調した。
この演説に対して、与党は拍手と歓声を送った一方、野党は沈黙とヤジで応じた。
補正予算に賛成か反対かを問わず、国民の最大の関心は「支援金がいつ支給されるのか」にある。消費クーポンとして配布される予定の民生支援金は、与党が単独で補正予算案を可決した場合、国会通過から約2週間で支給が始まる見通しだ。つまり、6月中に補正案が成立すれば、7月中に支給が可能になるということ。与党にとっては景気回復と内需刺激のための起爆剤だが、野党にとっては大衆迎合的なポピュリズムであり、財政悪化の始まりだという立場だ。
李大統領は果たして、訴えた通り“補正のゴールデンタイム”を掴めるのか。補正の必要性については与野党ともに共感しているが、方向性や手法をめぐっては激しく対立している。しかし、政界の一部では、野党が補正にブレーキをかける理由が単なる財政的な問題ではないとの見方もある。
補正阻止の背後には、別の政治的思惑が潜んでいるというのだ。
与野党ともに、補正予算の必要性についてはすでに合意しており、予算規模にも大きな隔たりはないとされる。与党「国民の力」は、昨年の大統領選で30兆ウォン(約3兆円)規模の“メガ補正”を公約に掲げていた。5月27日、国民の力の金文洙(キム・ムンス)大統領候補は記者会見で「困難な実体経済を立て直すため、就任当日の午後には与野党の院内代表による合同会議を開き、30兆ウォン規模の民生補正を議論する」と述べていた。
迅速かつ大規模な補正を主張していた国民の力だが、いざ李在明政権が提出した“李在明式補正案”には連日ブレーキをかけている。その理由は、「金の使い方が間違っている」という点にある。
その内容は、「民生支援金を消費クーポン形式で配っても経済活性化につながらない」「地方自治体との協議がなかった」「小規模事業者・自営業者向け債務免除案には逆差別の懸念がある」といったものだ。
では、野党は本当にこの理由で補正を阻止しているのか。政府与党が現在の補正案を堅持すれば、与野党関係は決裂するのか。必ずしもそうとは言い切れない。野党内部の空気は複雑だ。
表向きには補正案を繰り返し批判しつつも、政府・与党には「包容と協治(協力統治)」を繰り返し求めている。
取材によれば、国民の力内部では、補正案と金民錫(キム・ミンソク)国務総理候補の人事強行に抗議するため、大統領の施政演説をボイコットすべきという意見も出ていたが、党指導部は対決路線ではなく、抑制的な対応を取ることを決めたという。国民の力の朴成勲(パク・ソンフン)院内報道官は、李大統領の施政演説に野党が出席した理由について「協治の観点から、李在明政権を支援すべき部分では協力するという姿勢がある」と説明した。
つまり、野党は補正を含む諸課題について、一定の条件付きで協力する用意があるということだ。その条件とは「協治」、すなわち“政治的な見返り”である。
政界では、野党が協治の象徴として空席となっている常任委員長のポスト(法制司法委員長など)を求めているとの見方がある。現在、予算決算特別委員長、法制司法委員長、企画財政委員長、文化体育観光委員長、運営委員長の5つのポストをめぐって与野党は交渉中であり、民主党がすべてを占める現状に対し、国民の力は法司委員長と予算委員長の譲渡を要求している。
補正審議と常任委員長の配分が連動することで、両者は与野党の交渉カードとして扱われている。PK(釜山・慶尚南道)地域選出の国民の力議員は「民生支援金は実質的に大統領の“当選御礼金”だ」とし、「巨大与党の委員会独占を阻止するため、党として使えるすべてのカードを出す必要がある」と語った。
しかし、こうした野党の動きは空振りに終わる可能性もある。民主党が6月26日、法制司法委員長に4選の李春錫(イ・チュンソク)議員、予算決算委員長に3選の韓炳道(ハン・ビョンド)議員、文化体育観光委員長に3選の金敎興(キム・ギョフン)議員を内定したためだ。法司委員長を確保できなければ、野党として補正協力の名分を失うことになる。この場合、与党が補正案を単独処理する可能性が高まり、支援金は7月中に支給されるとみられる。
巨大与党に対抗する少数野党として、党の存在感を示す手段が限られる中、補正審議は事実上、最後の交渉カードとなっているからだ。
加えて、いわゆる「3大特別検察(内乱、キム・ゴンヒ(尹算大統領夫人)、チェ上等兵)」のうち、特に“内乱特検”が本格稼働すれば、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の司法リスクが野党全体に波及し、国民の力が守勢に回る可能性がある。
実際、国民の力はこの“内乱特検”を最も警戒している。特検が捜査対象としているのは、尹前大統領による2023年12月3日の非常戒厳令発令から、国会封鎖・制圧の指示、採決妨害の試みまで、少なくとも11件にのぼる。特に親尹派の一部重鎮議員が、戒厳令解除を妨害した疑いがもたれており、発令直後に尹前大統領が当時の院内代表・秋慶鎬(チュ・ギョンホ)らと通話していたことも判明している。
すでに逮捕の分かれ道に立たされた尹前大統領の存在自体が、国民の力にとっては大きな負担だ。内乱特検は開始からわずか6日で尹前大統領の身柄確保に動くなど、スピード勝負を展開している。
今後の捜査が記者会見などを通じてリアルタイムで進行すれば、尹前大統領だけでなく、国民の力全体への否定的影響も避けられないという見方が出ている。実際、特検が請求した尹前大統領の逮捕状は裁判所により棄却されたが、特検側は6月28日に召喚調査を行う予定だ。法曹界や政界では「再逮捕は時間の問題」との観測が広がっている。
こうした状況を踏まえ、国民の力内部では補正だけでなく、金民錫国務総理候補の人事、特検捜査の方向性、常任委員長ポストの配分などを総合的に絡めた“ビッグディール”を与党に仕掛けるべきとの声も出ている。
ある若手議員は「今ここで補正まで与党の思い通りに通してしまえば、今後交渉の切り札が何も残らない」と語り、「実際に補正に反対する世論も少なくない。今は戦ってでも野党の存在感を見せるべき時だ」と強調した。
世論調査機関「ハンギルリサーチ」のホン・ヒョンシク所長は「保守は“小さな政府”を志向するため、補正をめぐる対立は単なる予算の問題ではなく、理念と哲学の衝突だ」と分析。その一方で、「国民の力にとって、議席数や支持率で劣勢な状況下では、原則論だけでは立ち行かない。戦略的に補正に向き合わざるを得ない。保守の基本路線ですら、現実政治の前では後退せざるを得ない状況だ」と付け加えた。
(記事提供=時事ジャーナル)
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