尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領による「12・3非常戒厳」宣言に伴う内乱・外患・反乱犯罪の裁判を担当するための専担裁判部が、裁判所に設置されることになった。
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数多くの憲法違反(違憲)指摘が出ていたにもかかわらず、これらの内容を盛り込んだ「内乱裁判部法」は、「共に民主党」主導で12月23日に国会本会議を通過した。
法曹界では、憲法に根拠のない与党による専担裁判部設置の動きについて、当初は単なる司法府への“圧力策”に過ぎないと見ていた。しかし、「共に民主党」の行動はその予想を上回った。「共に民主党」の法制司法委員会(法司委)で穴だらけの法案を処理した後、党指導部が法案を大幅に手直しして完成させるという、拙速な審査過程も明らかになった。
内乱裁判部法が最初に発議された際の正式な法案名は、「12・3尹錫悦非常戒厳などに対する専担裁判部設置および通報者保護などに関する特別法案」だった。
これについて、特定の事件(非常戒厳)と特定の人物(尹錫悦)を狙い撃ちにすることは、憲法27条で規定された「公正な裁判を受ける権利」を侵害し、行政・司法手続きを経ずに自動的に執行力を持つ処分的法律の性格を有するとの指摘が相次ぐと、「共に民主党」は法案名から「尹錫悦」と「12・3非常戒厳」をこっそりと削除した。
法案名だけでなく、内容も大きく変わった。
最初に法司委を通過した内乱裁判部法は、「法務部長官、憲法裁判所事務処長、判事会議」が推薦委員会を構成し、専担判事を指定するという内容だった。
これに対し、法院行政処はもちろん、法務部や憲法裁判所までもが違憲論争を提起すると、最終的には党政策委員会をはじめとする指導部が乗り出し、「全国裁判官代表会議所属6人と判事会議所属3人で構成された推薦委員会」へと修正した。
しかし、この修正案も裁判所の「無作為配当原則」を損なうとして違憲論争を避けられないとの指摘が出ると、最終的には「判事会議が専担裁判部の数や判事の要件などの構成基準を設け、事務分担委員会を経て議決する」という内容に再修正された。
この過程で、法司委案に盛り込まれていた△1審判決日から3カ月以内の控訴審判決、△被告人の勾留期間を従来の6カ月から1年に延長、△赦免・減刑制限条項なども、本会議採決直前にすべて削除された。
事実上、国会を通過した内乱裁判部法は、法司委案と骨格こそ似ているものの、中身は180度異なる法案となった。
これを受け、共同発議者として名を連ねていたパク・ジュミン議員は「原案もまた違憲性は全くないという立場を明らかにするためだ」として棄権票を投じた。
与党内部からは、修正に次ぐ修正を重ねた内乱裁判部法が「内乱の迅速な終息と確実な断罪」という本来の目的から外れ、「手続き論争」だけを残したとの不満の声も出ている。
「共に民主党」法司委所属のある補佐官は、「党があまりにも譲歩しすぎた。結果的に大法院(最高裁)の規則と大差のない法案になってしまった」とし、「依然として“チョ・ヒデ司法府をどう信じろというのか”という支持者の不満が噴出しているのに、答えを示せなかった。このままでは他の司法改革案も力を失うだろう」と語った。
内乱裁判部法が国会を通過したことで、司法府の動きも慌ただしくなっている。
12・3非常戒厳関連事件の大半は1審が進行中であるため、まずはソウル高裁に専担裁判部が設置され、2審が行われる見通しだ。専担裁判部が最初に扱う事件としては、尹前大統領の「逮捕妨害事件」や、ノ・サンウォン前情報司令官の「戒厳第2捜査団構成疑惑事件」が有力視されている。
ただし、これらの裁判は内乱・外患・反乱の容疑と直接結び付くものではないため、今後開かれる判事会議で専担裁判部の担当事件に指定するかをめぐり、激しい議論が予想される。
一方、裁判所が内乱専担裁判部法そのものに対する懸念などを盛り込んだ公式声明を表明する可能性は低いとみられている。国会が事実上、判事会議の裁量に内乱専担裁判部の運営方式を委ねたと判断されているためだ。
首都圏の地裁のある判事は、「無作為配当原則に関する異論はあるが、法案自体を違憲だと見るのは難しくなった」と述べた。その一方で、「このような裁判を誰が引き受けたいと思うだろうか。裁判も裁判だが、令状審査の場合、法官の良心に従って判断することが一層難しくなった」とも語った。
尹前大統領側は、進行中の事件に内乱専担裁判部法が適用された場合、「重大な決断」を下す可能性があるとしている。
まず、違憲法律審判提請(違憲提請)を行う見通しだ。違憲提請とは、裁判中の事件に適用される法律が憲法違反かどうかを憲法裁判所に判断してもらう制度で、専担裁判部が申請を受け入れた場合、憲法裁判所の決定が出るまで裁判は無期限で中断される。
ただし、大法院が法案通過に先立って専担裁判部構成のための規則をすでに整備していたことから、違憲提請が認められない可能性が高いという見方が大勢だ。
尹前大統領側は、違憲提請とは別に憲法訴願を提起することも可能だが、憲法訴願は裁判の進行とは無関係である。このため、弁護団が総辞退する可能性も取り沙汰されている。
弁護人が不在となれば、新たな弁護人が選任されるまで裁判は停滞せざるを得ない。2017年の朴槿恵(パク・クネ)前大統領の国政壟断事件でも、弁護団が総辞退し、弁論が延期され、国選弁護人指定手続きが開始されるなどの混乱が起きた。
弁護団の総辞退は裁判の遅延だけでなく、「結論ありきの裁判だ」という世間の疑念を増幅させ、支持層を結集させる効果も生み得る。
尹前大統領側のユ・ジョンファ弁護士は、「特定の人物を処罰するために裁判部そのものを作り出す発想は、自由民主主義国家では決して許されない暴挙だ」とし、「可能なすべての法的・憲法的手段を動員して断固として対応する」と述べた。
「共に民主党」は内乱専担裁判部法を皮切りに、△法歪曲罪の新設、△大法官増員案、△裁判訴願制度の導入など、ほかの法案も「司法改革」の名の下で引き続き推進する方針だ。
これらの法案も、違憲の恐れや三権分立原則を損なう可能性を内包しているため、法司委でまず上程した後、党指導部が場当たり的に修正して処理する茶番が繰り返されるとの見方が出ている。
韓国外国語大学・法学専門大学院のパク・ジェユン教授は「すでに常任委員会を通過した法案を、本会議を前に与党内部だけで議論して通過させてしまうのは、熟議民主主義に正面から反する行為だ」とし、「このような立法では国民の信頼を得ることはできない」と指摘した。
(記事提供=時事ジャーナル)
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