「裁判所は粉々になり、検事と弁護士は塵になるだろう」(カン・ミング元釜山地裁院長)、「三権分立の原則を脅かす司法部への揺さぶりをやめよ」(韓国弁護士協会元会長団9人)
韓国の司法がかつてない最大の危機に直面しているという懸念と非難の声が、法曹界の内外から噴出している。
大法院(最高裁)判事の増員、裁判に対する憲法訴願など、司法に向けた一連の法改正が「共に民主党」の主導で急速に進められているためだ。「共に民主党」が司法に対する圧力を強めるなか、同党の選挙対策委員会内部からも「自制すべきだ」とする慎重論が浮上している。
「共に民主党」が司法改革の一環として発議した主な法案は、①チョ・ヒデ特検法、②憲法裁判所法改正案、③裁判所組織法改正案などだ。
5月14日に国会法制司法委員会(法司委)に上程された「チョ・ヒデ大法院長らによる司法権濫用の真相解明のための特検法(チョ・ヒデ特検法)」は、チョ・ヒデ大法院長の司法権濫用および大統領選介入疑惑を捜査するという内容が骨子だ。
法司委ではまた、大法院の判決に対して憲法訴願を提起できるようにする憲法裁判所法改正案も上程された。憲法訴願の申立事由を規定した憲裁法第68条から「裁判所の裁判を除き」という文言を削除し、裁判所の判決の憲法違反性も憲法裁が判断できるようにしようというものである。法案が通過すれば、現在の三審制の裁判が事実上、「四審」に変わることになる。
また、大法院判事の数を100人に増員することを骨子とする裁判所組織法改正案もある。現行法は大法院長を含め14人と規定している。この法案を代表発議した「共に民主党」チャン・ギョンテ議員は、大法院が業務過多により本来の機能を果たせていない点を改正の理由として挙げた。
チャン議員を含む「共に民主党」議員10人は、「大法院判事1人あたり年間、数千件にのぼる事件を処理しているのが実情だ」とし、「そのため個々の事件に対する十分な審理と判断が事実上不可能になっており、上告審制度に対する国民の信頼が深刻に損なわれている」と説明した。
法曹界の内外からは、「共に民主党」に対する批判の声が殺到した。
同党の李在明(イ・ジェミョン)大統領候補の公職選挙法違反事件を、大法院が有罪趣旨で差し戻したことを契機に、司法に対する攻勢が始まったという見方があるためだ。
カン・ミング元釜山地裁院長は、フェイスブックに「法的な妥当性以前に、立法府が司法府を露骨に脅迫する極めて危険な前例だ」とし、「これは『判決に不服なら特検で報復する』というメッセージを残すもので、法治ではなく『政治報復治国』の宣言に他ならない」と強調した。
韓国弁護士協会の元会長9人(パク・スンソ(第35代会長)、ハム・ジョンホ(第39代)、チョン・ジェホン(第41代)、チョン・ギフン(第43代)、シン・ヨンム(第46代)、ハ・チャンウ(第48代)、キム・ヒョン(第49代)、イ・ジョンヨプ(第51代)、キム・ヨンフン(第52代)弁護士)も、三権分立の原則が崩れる可能性があるという趣旨の立場表明を行った。
9人の元会長たちは、「大法院は選挙法事件を法律に基づいて迅速に処理しただけであり、これを政治介入行為と断定すべきではない」とし、「外部権力や世論に裁判所が揺さぶられれば、正義は立てず、司法が政治に抑圧されれば、法治主義は深刻に損なわれる」と述べた。
元会長たちの声明を主導した法務法人セチャンのキム・ヒョン代表(司法研修院17期)は、『時事ジャーナル』とのインタビューで「司法は国民の基本権を守る最後の砦だ。共に民主党による大法院長、大法院判事、裁判官への公開的な攻撃は、司法の独立を根本から揺るがす行為だ」とし、「法治主義と三権分立が根こそぎ揺らぐ状況において、大きな懸念と危機感を抱いた」と指摘した。
「共に民主党」内部からも、司法改革には慎重を期すべきだという意見が出ている。
李明博(イ・ミョンバク)政権で法制処長を務めた「共に民主党」イ・ソクヨン共同選挙対策委員長は、5月15日にCBSラジオ『キム・ヒョンジョンのニュースショー』に出演し、「大法院長に対する特検法、弾劾、聴聞会は一種の政治攻勢だと見ていて、(党内からこの主張が)出ないと思っていた」とし、「特検や弾劾などは慎重に対処し、自制すべきだ」と強調した。
イ・ソクヨン委員長は、カン・グムシル選対委員長とともに、「特に特検法の発議はあまりにも行き過ぎだ」という趣旨を党執行部に伝えたとされる。彼は「(大統領選前に)本会議までには上程されないだろう」とも述べた。
イ・ソクヨン委員長とともに「保守系迎え入れ」人事とされるクォン・オウル国民大統合委員長は、YTNラジオ『ニュースファイティング、キム・ヨンスです』で「行き過ぎだと思う」とし、「増員については慎重に進める必要がある」と指摘した。
「共に民主党」の重鎮であるユ・インテ元国会事務総長も懸念の声を上げた。ユ元総長は「(李在明候補は)今うまく進んでいるのだから、司法への揺さぶりをする必要はない」とし、「むしろ票を減らしていると見ている」と語った。
(記事提供=時事ジャーナル)
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